012 ツシマで釣り―――『仮想巡洋艦』(完)
『えー なんで消し飛ばしちゃったんですかぁ』
お前何がしたかったの? 所属不明船の通路でちょっと休憩していると、艦首方向から振動が伝わって来たので訳を説明すると、きゃるぴんに文句を言われる。
『気密服の中で吐くと最悪だぞ』
『……わ、わかってますぅ。しってました!!』
小さな声で「せんぱいなりのやさしさですね。ノーセンキュー」とか言いやがる。余計なことをして書類仕事が増えるのが面倒なだけだ。なんで、所属不明の賊(宙賊人)の為に余計な仕事しなきゃならねぇんだよ。存在が消えれば、ノー心配ないだよね。
念のため、再度、艦内捜索を行う。
『航海記録から、「巣」は特定できそうなんだよな』
『詳しくは戻って分析してみないとですけど、多分もんだいないです』
いやー不幸な当たり場所だったな。まさか、艦橋に『偶然』命中するとはね。日頃の行いって大事だよね、因果応報って言葉はいまの宙賊人には存在しないのかな。仏教弾圧とかやらかして、現世利益追求ご都合主義全開の『道』とかに浸ってるからいけねぇんだよ。
あれ、D&Dやなろうも真っ青の過去の英雄英傑を寄せ集めて神様扱いするアレだからな。英雄英傑に憧れたり、目標にするのは良いと思うが、神様だから紙のお金(金属じゃねぇのにお金ってなに?)紙銭だっけか。燃やして神頼みって…現実の拝金主義となんにも変わってないよなアイツラ。
上に政策あれば下に対策在りだっけか。頭悪いよな。ホント、ルール無用の悪党どもだ。正義の宙雷をくれてやろう。
『そろそろ戻りましょうか』
『デブも作業を終わらせているだろうからな。確認して、一緒に戻る事にするか』
反応炉の制御を乗っ取るとか、再起動させるなら手間がかかるだろうが、止めるだけなら緊急停止からの完全停止で問題なく行けるだろう。艦橋が消し飛んでいるので、曳航するほかないのだが、仮想巡洋艦二隻じゃ無理がある。
所属不明の宙賊船は何隻かあるだろうから、それを含めて退治しておきたい。最終的には巣の駆除になるだろうが、逃げださないとも限らないし、駆除までに被害が増える可能性だってある。
ニカイドウ達を動力室から回収し、俺達は一度自分たちの艦に戻ることにした。きゃるぴんは『浜嵐』に移乗させることにした。何故なら……
『それが妥当だよねー』
「おう。一旦、『浜嵐』だけ、サセボに戻って司令たちを呼び寄せてもらいたい」
まず、情報をサセボに届ける必要がある。宙賊の巣の特定を早急に行い、巣の駆除に向けて上は準備を始めるだろう。また、保護した女性たちも早急に治療を受けさせたいし、曳航は仮想の外殻があるから難しい。ナカイ隊の防護艦二隻の方が上手くやれるだろう。
ついでに、暇をしている旗艦も護衛任務で二隻の曳航に伴走してもらいたい。どうせ、巣の駆除にも駆り出されるのだからな。
『JD使えると思う?』
「問題ないだろ。こっちからサセボのゲートまでは」
発着先が特定できていないと、どこに出るか分からないのがJDだが、到着先がサセボのゲートなら問題ない。
「ゆっくりしてくればいい」
『絶対無理だね。とんぼ返りだよ、レイが指揮官なんだからさー』
同期であるヤエザキはナカイの友人なのだが、気安く話しかけないように仕事中はしているらしい。
「仕事中も話しかけてやれよ、お前に避けられてると思っているらしいぞ」
『……まじで……』
「おう。あいつ、メンタル弱いからな。よろしくたのむよ」
『そうだね、こんど上陸した時に食事にでも誘うよ』
彼氏のいない同士、予定が立てやすくて何よりだ。俺? 妹と出かける所存。
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さて、『浜嵐』を送り出して恐らくニ三日は戻ってこないだろう。俺達の仕事は目の前の元所属不明の武装商船を確保しておくことだ。
『定時連絡がないと、おそらく出てくるわよ』
「それを含めて俺が残ったんだよ。わかってるだろ?」
『ええ、あんたがええかっこしいの勘違いブサメンだってことでしょ?』
グハッ! 思い切りいいの貰ってるじゃねぇか俺。
「我も、還りたかったのだが……」
「塵に還るか」
デブは、『雪嵐』が装備した仮装砲モジュールの使用に立ち会う仕事があるだろ。それに、別の仮装巡洋艦が現れれば、外装をパージして『イ式宙雷』だって発射することになる。
所謂ビーム兵器の長所は、反応炉から原則無制限に発射する弾薬?が供給されることにあるのだが、それは裏返せば短所にもなる。船体が巨大な戦艦・宙母ならともかく、軽巡や駆逐艦クラスなら、推力と火力の両方に瞬間的に大きな負荷をかけることが難しい。まして、『シールド』を展開しているならばさらに供給するべきエネルギーが不安定になる。
実体弾兵器が小型艦で搭載される理由は、威力が大きいことに加え、艦の持つ反応炉の出力に左右されない火力である事に意味がある。
つまり、宙雷のない『雪嵐』などというのは、ガラクタ以下ということだな。え、だって単装陽電子砲とか、軽巡の外殻さえ抜けるか怪しいんだぜぇ。
だから、技術工廠(晴嵐型の配備を強力に進めた元凶)も、編成本部あたりに文句を言われて今回の『主砲モジュール』を追加したのだと思う。
この企画がコケても編成はあまり困らない。次の主力駆逐艦を建造した際に、『晴嵐型』を前倒しで退役させるか、雑用船に艦種変更してしまうか、民間に払い下げればいいからだ。
しかし、技術工廠は今後、新型艦の開発に口を出しにくくなる。故に、晴嵐型の『売り』である多用途任務につけるアフターパーツを供給しなければならないわけだ。主砲モジュールはデブの担当ではないが、しっかりと上には
報告せざるを得ないと見ている。
「では、貴殿のお手並み拝見と参ろうか」
そういうこと言うと、本当に来ちゃうんだからね。やめてよね!!
推進器と艦橋を破壊された所属不明の宙賊船からすこしはなれ、大きなデブリの陰に隠れていると、AI副官から敵襲の報有之。
『小さめの艦ね。変な形だけれど、偵察艇かしら』
宙国軍の艦船データに類似の艦型がないのだという。大きさはニッポンの航宙スループ(偵察哨戒艇:PFS)と同じくらいだろう。
「ふむ、鹵獲した我らのPFSを改装しているのではないだろうか」
デブの話は十分あり得るな。中身旧式なのに、ガワだけ今風に変えて『ニッポンに勝った!』とか言い始めるのがデフォルトだからな宙国人どもは。宙華製の激安家電は要注意だというのが共通認識だ。それは、昔も今も変わらない。
「どうしますか艦長」
副長から『撃っちまいましょうか』と問い合わせが来る。
「いや、あの大きさで曳航も不可能だし、直して自力で航行させるのも不可能にしてあるから問題ない。むしろ……」
『曳航する所属不明の宙賊船が現れる時間から、敵の拠点との距離が推し量れるから、そのまま放置ね』
AI副官、答え合わせありがとうございます。でも、もうちょっと人間を立てても罰は当たらないんじゃないの?
宙賊PFSからパワードスーツ二体が内部に侵入。一時間ほど内部を捜索したようだが、手ぶらで出てきた。その後、PFSは暫く破壊された仮装巡洋艦の周囲を周回していたが、やがて去っていった。
「ドキドキするね」
「警戒解除。各員、通常シフトへ戻って良し」
『お疲れ様』
「ああ、そっちもな」
AI副官に休みはないし、必要もない。とはいえ、一言もいらないわけではない。気持ちの問題だが、そう言うのを必要とする面倒な性格なのだ。おまけに、ツンデレのデレ抜きだしなぁ。
「コーヒー」
「おう、サンキュな」
気が利く副長様である。実体のないAI副官にはできない御業だ。
「戻ってくると思う?」
「多分ないな。破壊状況を見て修復するくらいなら放置って選択だろう。あいつ等、使い潰すのは得意だが、直すのは本当に苦手だからな」
モノづくりの文化や技術を持つ人間がいないのが要因だ。組立は出来るが、基本的な構造や仕組みを理解している人間が少ないので、壊れたものを使えるように直すのが非常に不得手なのだ。
だから、長持ちしたりメンテナンスする前提の設計をしないし、使い捨て感覚で人も物も作りだす。
中華四千年などと嘯いていたらしいが、残っているのは壊しようのない土壁のようなものだけで、文化財や建築物は精々ニ三百年程度だったとか。当時の日本では千年以上昔の木造建築物が補修され現存していたってのにな。
「メンテナンスフリーっていい意味じゃねぇよな」
「然り。アッセンブルで交換するというのは、修理とは言わぬ」
組付けられた部品全体を交換することを「アッセンブリ交換」等というのだが、どの部品が何故壊れたかを知る必要がない「作業」であり、技術は殆ど必要ない。言い換えれば、未熟な作業員でも「修理」できるのである。
しかし、頻発した場合、同じ部品を何度も交換するだけの作業を繰り返すことになる。どの部品が何故壊れたかを調べることができないからだ。民生品の巨大メーカーなら「修理センター」などで同じ部品が大量に交換されれば問題を調査し「リコール」なり「無料修理」を行い同じ問題が繰り返し起こらないようにするものだ。
軍用品、特に艦船などというのは巨大な部品の集合体であり、枯れた技術を積みあげなければ、不具合続出でまともに運用できなくなる可能性もある。民間ではとうに廃れた技術で軍用品が作り続けられていたり、新しい技術が取り入れられにくい保守的な土壌というのは、壊れても不便はあっても致命傷にならない民間と洒落にならない軍用との差がある。
『晴嵐』のような艦船が特殊であり、兵装が突然世代交代したかのように更新されていくのも、その辺りに理由がある。相手の装備と同等のものがあれば抑止力になるが、相手の装備が革新的なものになった場合、相殺するだけの能力を求めることになる。
戦争による技術革新というのは、既に開発されていた技術を足並み揃えて敵も味方も使用することに端を発している。相殺できなければ戦争に負けてしまうからである。
故に、宙賊軍が自身で技術革新できないのであるなら、それほど脅威であるとは言えないかもしれない。兎に角、ニッポンの宇宙船を宙賊の振りをして奪い、その反応炉を使って軍艦を動かそうという発想があるのだから、放置すれば、相手の戦力が増えていくことになる。
「まあ、あいつら盗めばタダだと思ってるからな」
『ええ。おまけに、賢い行為だと思っている愚か者よね』
「まったくである。なに一つ、革新的なものを生み出さないのであるからな」
羅針盤も活版印刷も火薬も……その昔、自分隊が発明したと言っているらしいのだが、おそらく、周辺国の発明を吸収したものだと思うんだよな。まあ、いまとなっては全て人的土壌が破壊されているから、そんな事は二度と起こらないんだけどね。
予想通り、回収に来る宙賊船はおらず、三日ほどだらだら過ごしたのち、宙域に現れたナカイ司令率いる本隊に捕獲した所属不明の武装商船を引き渡し、一先ず俺達の役割りは終了した。
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