010 ツシマで釣り―――『仮想巡洋艦』(肆)
あーあー何も聞こえない……
『任せておきなさい』
有能なAI副官は、通信に雑音を混ぜ始めた。耳が痛いんですが……なにか。
『こ……く……る』
「コクルってなんだよ! 放課後体育館裏でまってりゃいいのかよ」
「もしくは屋上ですかね」
屋上は大概閉鎖されているし、敷地の際にある体育館の裏は校舎の外周道路に面したりしてるよな……見えてますからぁと俺は思うんだが。
まあ、経験のない俺には全く関係ないのだが。
『き……てるか……ザザザザ……』
きてるって何が? 不自然なくらい自然な雑音だ。
「何も意味のある話は聞こえなかった」
「であるな」
「さあ、さっさと仕留めちゃいましょう!」
単装砲で滅多打ちにしながら、心が折れるまで心置きなく射撃を繰り返す。反応炉を破壊しないようにしつつ、露出している砲を次々破壊していくので、動力が復帰してもこちらが攻撃される事はないだろう。推進器も破壊済み。中はパニックになっているだろう。逆切れされて反撃されると面倒だ。
「ガス使えば面倒無いんだがな」
「そういうのは宙兵の専門です。情報部は……精々、催涙ガスとか音響爆弾くらいですね」
うん、知ってた。
二隻の仮想艦で所属不明艦を挟むように寄せる。こちらからは三名の『雪嵐』乗員に、デブときゃるぴん。『浜嵐』からはヤエザキ以外の男四人を仮想巡洋艦におくってもらう。
「こっちの指揮は任せた」
『毎度悪いね。ナツキの事も任せて』
「異常を感じたら即退避しろよ」
『……そうだね。そうするよ』
簡易気密室に集合、部下二人とお荷物二人を連れ、俺は船外に出る。
『結構離れてますね……』
安全帯を付け、俺は自身のスラスターを吹かして目の前の所属不明の艦船の側面ハッチに向け飛び出す。あっという間に大きな壁が目の前に近づいてくる。
BONN !!
外板に叩きつけられ慌てて勢いを相殺する。
『ダサ……』
『艦長、直ぐに向かいます!』
きゃるぴんの声に重ねるように俺の部下が話しかけてくる。俺って、いい部下を持ったな。
俺の安全帯を伝って、四人が移動してくる。
ハッチの前でニカイドウを呼び寄せ、レーザーブレードで切断するように命ずる。
『刮目せよ!!』
レーザーの光源とかじっと見たらしばらく目が見えなくなるだろ……
『皆目を背けろよ』
『えー なんでですかぁー』
きゃるぴんの装甲強化服は、視力の保護迄考慮されていないはずだ。
『ああぁぁ……目がぁ、目がぁぁぁ!!』
ほら、やっぱりな。しょうがないので、ニブイデブにきゃるぴんの視力が回復するまで面倒を見させることを頼む。
『ふええぇぇぇ』
『イヤなら一人ここで待っていてもいいぞ』
『……いえ、ポイント貯めたいので……頑張ります』
アンチエイジング・ポイントを貯めるのは命がけらしい。比喩ではなく文字通りだ。
『ここで、敵の秘密基地の場所とかみつけちゃったら、ポイント三倍キャンペーン始まっちゃいますからね!!』
なにその、商店街なセール。
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一先ず、反応炉の強制停止を行わせる。反応炉の暴走からの自爆を一番最初に回避したいからだ。
合流してきた『浜嵐』の副長以下四名に、最下層の甲板から順に内部の捜索を命ずる。積み荷や可能性としては拉致されているニッポン人やUSA宙域の人間がいる可能性もある。あるいは、遺留品なども。
『……了解しました』
『宙賊人はいなかった。いいな』
『はっ! おそらく逃げ出したのでしょう。慌てていたので気密服を着用せずに船外に逃げ出したようであります!!』
リクエストにはお答えしよう。お前ら自身がユニバーサル・ダイブしろ!!
反応炉は中層に存在するはずだ。きゃるぴんの強化服にあるセンサーで位置を特定する。
『この先の左手ですね』
右手は外殻だからね。俺とニブイデブを先頭に、中央にきゃるぴん、背後に『雪嵐』の乗員二名を配置して通路を急ぐ。集団だとスラスター移動できずに面倒だな。勢いついてぶつかったりすると嫌だろ?
『あー SPに囲まれてVIP待遇ですぅ』
装甲強化服着ているVIPってのは、どこの装甲総監なんだよ。
反応炉のある動力室の入口扉の前で制止する。
『少々お待ちを』
小さくレーザーで穴をあけ、内部をカメラで確認する。何人か宙賊人がいるようだ。いや、所属不明の武装勢力か。
『デブ』
『お任せあれ!!』
突入用の防護シールド(物理)を『雪嵐』の三人は構える。銃? 当たるわけないので、盾を構えて突進! パワードスーツで体当たりだ!!
ズズズと刃が入り、切裂いた扉を俺が蹴り飛ばすと、すかさず後ろの二人が盾を構えて突進、スラスターを吹かせて賊に向かう。
『フォトンブレード!!』
きゃるぴんから、所謂『光子剣』……ビームサーベルみたいなものを持った賊がいるとしらされる。
BUUNN
ブレードが空気を割く音がする。突進した二人のうち、一人の盾が斬りとばされるのが見て取れる。
『デブ!!』
俺はニカイドウに声をかけ、援護の為にスラスターを吹かせて前に出る。フォトンブレードにビビったのか、硬直していたニブイデブが、慌てて俺の背後から追いすがる気配がする。
『今宵のコタツは良く斬れそうでおじゃる!!』
コタツってなんだよ、それは長曽祢虎徹のことだろ? そういや、非エリート集団なところが俺達と似てるかもしれねぇ。新船組だっけか?
俺の前に出たデブが一瞬でレーザーブレードを現出させ、フォトンブレードを持つ賊に斬りかかる。
PASHU!!
剣を水平に振り抜いた胴斬り。実体のある剣なら簡単に切裂く事はできなかっただろうが、エネルギーの塊でしかないレーザーの刃は、賊の胴体を真っ二つに切裂く。
相方の余りの姿に硬直する今一人の賊の胸に、俺はパイルバンカーを叩き込む。人の拳ほどの穴が穿たれ、賊は絶命する。
『ひいぃぃ……』
『あんま見んな』
『わ、わかってます……わかってますよ……』
きゃるぴんは目の前に人が真っ二つになり宙を浮いているのが衝撃だったのだろう。まあ、悲しいけどここ戦場だからね。
『ニブイデブと一人護衛としてここに残れ。反応炉止めてくれ』
『承知』
俺ときゃるぴん他一名は船内捜索へと戻る。
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動力室から出て一息入れることにする。死体のある場所だと幾ら図太いとはいえ、女性に良くないだろ?
『大丈夫かと聞けば大丈夫と答えざるを得ないから敢えて聞かないが……』
顔色は悪いままだが、慣れてもらわないと困る。
『だいじょうぶにきまってるじゃないですか! これでも優秀な情報士官なんですよ』
『優秀な情報士官(自称)な』
『なんなんですかぁ! さくっと情報採りますよ』
動力室脇の壁にある操作盤をかちゃりと取り外し、きゃるぴんは電工セットのようなサブアームを動かしながら何か作業を始める。どうやら、ここで管制システムに侵入して船の情報を調べることにしたようだ。
『なんで最初にやらねぇの』
『……反応炉の制圧が最優先でしたし、イオン魚雷の影響で機能停止していましたから。いまは……サブの動力で管制系統の操作は回復させたみたいですね……お、いろいろやらかしてますね。少々お待ちを』
きゃるぴんは、船内レイアウト、乗員の居場所、盗んだ鹵獲品および……捕らえた船員の居場所を特定していく。航海日誌的データも抜けたようだ。
『情報ガバガバだな』
『敵が侵入する前提がないようですから』
民間の輸送船相手に宙賊行為を働くのに、自分たちが制圧された際の情報保存なんて考慮するわけないよな。そんなことまで考えていたら宙国人(所属不明)なわけがない。
結論から言えば、生き残り囚われていたニッポン人船員(性別女)二人を保護することができた。男性船員は残念ながら生身で宇宙に脱出させられたようだ。
『浜嵐』の乗員二人には、保護した女性を伴って先に帰還させる事にした。残りの二人と合流した俺達三人は、きゃるぴんの確認した艦橋の位置を『雪嵐』に伝える。
保護した二人以外に回収するべき『人間』はいないという事を伝え、の艦橋位置を伝える。
『砲撃で消し飛ばしてくれ。生かしておくだけ手間だ』
『オッケー 生かしておいても意味ない害宙だからね』
AI副官も快く了承してくれた。人の心がわかる(サイコメトラー的な意味ではない)AIって生身の人間よりいいと思う。理想の嫁的な?
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