退治
「由美さん!」
「わかった」
由美は右手でパワーを銅鏡に放った。
「さすが元夫婦」
それを見ていた魔美は呟いた。
由美はパワーをありったけの気を送ったせいで眩暈で倒れそうになった。
「ごめんなさい、これが精いっぱい」
「由美さん、大丈夫か?」
言われた通り銅鏡は鈍い光を放っていた。
「栗原君手伝ってくれ」
礼司と栗原は横になったタクシーを起こし
タクシーのフロントに銅鏡を置きエンジンをかけた。
「栗原さん付き合ってもらいますよ」
「えっ?」
「私は?」
魔美が弓をかかえ走って来た。
「後はママさんを護ってくれ!頼むぞ」
礼司はタクシーで高尾山を全速力で下った。
それを目玉がゆっくりと追いかけ始めた。
「夜野さん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。これでもプロだ」
「いや、運転じゃなくて、鬼ですよ、鬼!」
「うん、今から退治する」
礼司は高尾山のくねった道を全速力で降り参道入り口に来た。
「タコタコタコ・・・」
「どうしたんですか?」
「今通ったのは蛸杉だよ」
「何ですか?」
「引っ張りだこ、パワースポットだよ」
「夜野さん、そんなこと言っている場合じゃないですよ」
「人生余裕を持った方が良いぞ!」
礼司は楽しそうにダウンヒルを楽しんでいた。
「でもどうしてわざわざ山を下りるんですか?」
「ちょっと準備があったんで、時間稼ぎだよ。あのままじゃ間に合わない」
礼司は向かってくる赤い雲を見上げた。
「準備って何ですか?」
礼司はトランクを開けると窓ふき布をつるしていた針金を取り出した。
「これをタクシーの行燈に付ける」
「はい」
「仕事柄得意だろう。しっかり付けてくれ落ちたら終わりだ」
「はい、大丈夫です」
栗原は丸い銅鏡を器用に行燈に取り付けた。
礼司はロープウエイ駅隣の
お店を見た。
「あっ、あれだ!」
礼司が指さすと
「天狗の鼻くそですか?」
※高尾山お土産の黒いアーモンド菓子、ちなみに上野動物園にはゴリラの鼻くそがある。
「違う団扇だ!」
商店に飾ってある団扇を手に持って戻ってきた。
「取り付けました」
「さすがプロ」
「夜野さん、あれ」
栗原は赤い雲を指さした。
「来たか!」
礼司は空を見上げ手袋を取ってハンドルを握った。
「行くぞ!」
タクシーは再び登山道1号路を猛スピードで登った。
「力よ来い」」
礼司の顔が鋭く変わっていた。
「邪悪なものを消す力よ!鬼を退治する力よ!
愛する妻と娘を護る力よ!高尾山の天狗よ」
猛スピードの為に車が激しく跳ね上がった。
「あわわわ」
栗原はシートにしがみついていた。
「夜野さん、」
「来い、来い、来い」
栗原の付けた銅鏡が車のガタつきで針金から連れて来た。
「銅鏡、大丈夫か?」
行燈に付けた銅鏡が光り
タクシーも黄金色に輝き
高尾山全体が黄金色に輝きだした。
「栗原さん、薬王院に着いたらすぐに降りろ」
「は、はい」
礼司は薬王寺の前で急ブレーキをかけ、止まると
目玉が追いつき正面を向いた。
「降りろ!」
栗原はゴロゴロと転げ落ちた。
「行くぞ!」
礼司は車を止め、天狗の団扇を大きく扇ぐと薬王寺の天狗の像の目が光って
動き出し礼二たちの前に立った。
「何なの?」
「なんだ!」
由美と麻実と栗原がありえない出来事に呆然とした。
「見ろ!見方が来た」
目玉は真っ赤になり赤い光線を栗原の乗ったタクシーに放ったが
石でできた天狗は自分の持っていた団扇で扇ぎそれを跳ね返した。
跳ね返った光に包まれた赤い雲は空を覆うほど大きな見玉は黒くなり
次第に小さくなって重たそうに降りてきた。
「天狗様行くぞ!」
礼司はライトをハイビームにして
ギアを入れアクセル思い切り踏んだ。
「キュキュキュ」
タイヤが音を立て白い煙を出して回った。
「行け―!」
赤い目玉は礼司の乗っているタクシーに向けて光線を放った。
行燈に付けた鏡が赤い光線を跳ね返し
礼司のタクシーは目玉に向けって突進し宙に浮き突進していた。
「魔美!矢を放て!」
魔美は弓を引き弦を顎まで引いて、
矢を放った。
その矢は目の中央に当たるとピリピリとヒビ入り
続いて礼司の運転するタクシーがぶつかった。
「バーン」