魔美の危機
「ああ、魔美ちゃん。今日は九時まで出来るかな」
店長の丘がいきなり聞いた。
「ええ、またバイトさん急に休み?」
「ああ、まったく家族が突然日本に来たんだそうだ。
外国人はシフト通り働いてくれない。魔美ちゃんはまじめで助かるよ」
「私も学生だからあまり引っ張らないでくださいね。テストも近いし」
「学年トップの魔美ちゃんがなんていう事を」
「トップを維持する難しさわかってくださいよ」
魔美は丘のわき腹を突いた。
「でも、魔美ちゃんの学校の学校教えてくれよ。その制服この辺で見ないから」
「うふふ。ないしょ」
魔美はテキパキと仕事をこなしながら時々外の様子が気になっていた。
「やはり何かいる!」
「いらっしゃいませ。今日のおすすめは・・・」
魔美が進めるメニューは殆どの客が注文をして
それは魔美の能力の一つ人の心を動かす力だった。
九時に仕事を終えた魔美はアルバイト先から歩いて家に着くまでは
暗がりが一か所、それは善然寺の裏側だった。
「おーい、彼女。俺たちと遊びに行かねえ?」
「いいえ」
魔美は後ろから声をかけてきた男を断った。
「おい、冷たいなあ」
「光が丘女子高の子だろう」
「おお、あそこはミッションスクールでお固くて有名なんだよな。
スカートはひざ下10センチだし異性交遊は退学らしい」
「マジか!じゃあ間違いなく。ヒヒヒ」
魔美はその言葉を無視し早歩きでスピードを上げた。
能力を持った魔美にとって暗がりは怖い物ではなかったが
昼間から見えている黒い物が何者か不安だった。
そこに突然後ろから車が来て魔美の首に腕を回し、口を押える男がいた。
「おい、足を抑えろ!」
もう一人の男が暴れる魔美の足を掴み
ワゴン車に魔美を乗せた。
「やだ、止めて!」
魔美は足をバタつかせもがいた。
「パパ!パパ」
魔美は礼司の名前を呼んだ。
~~~~~
「パパ!?」
運転中の礼司の耳元で魔美の声が聞こえた。
「ん?魔美?」
「パパって俺か・・・?」
礼司は客を代々木で降ろし方南通りを下り
大原交差点を右に曲がり環七を走った。
「魔美!」
礼司は車の中で大声を上げた。
「パパ助けて!」
魔美の声が礼司の頭で大きく響いた。
「魔美、ぬおおおおお」
礼司がアクセルを踏むとタクシーが金色に光り猛スピードで
前の車を次々に抜いて行った。
高円寺の善念寺の前に着くと礼司は周りを見渡した。
「魔美!!!!」
礼司は大声で魔美の名を呼ぶと目の前に黒いワゴン車が止まっていた
「魔美」
礼司はその車の前に立ちドアを開けると
魔美を押さえつけている二人の男を目撃した。
「こら!何をしているんだ」
礼司は魔美の足を抑えている男の服を掴んで引っ張り3mほど投げ、
奥に入って魔美の手を抑えている男の胸ぐらをつかんで車から
引き落とした。
「魔美、大丈夫か?」
「う、うん」
魔美が体を起こすと礼司は男を睨みつけた。
「こら!集団暴行は許さねえぞ」
礼司の迫力に二人の男は膝を付き正座をしていた。
「もう一人」
礼司が運転席に向かうと運転手は真っ青
な顔をしてハンドルにしがみついていた。
「どうした?」
「ば、化け物が・・・」
「鬼を見たのか?」
「はい」
「魔美、どうしたんだ?」
「私もわからない。アルバイトの帰りにこいつらに
車に引き込まれて。それより夜野さん
どうしてここにいるの?」
「ん、じゃあこいつらあっちの人間か?」
「うん、たぶん」
「ふう・・・ここは魔美の世界か?」
「えっ?」
魔美は周りを見渡した。
「ここは夜野さんの世界みたい。この車ごと移動した?」
礼司は罪を犯した人間と言えど、こちらの世界に来たら
死んだも同然だった。
「おい、お前たち!ここはお前たちのいた世界とここは違うぞ」
「ど、どういう意味ですか?」
魔美の腕を掴んでいた男が聞いた。
「お前たちはパラレルワールド別な
世界から来たという事だ。周りを見て見ろ
元の世界と微妙に違うだろう」
礼司は男の肩を抑えて周りを指さした。
「あっ!」
三人は微妙に違う風景に声を上げた。
「確かに違います。あんなビル無かった。それにもっと周りが暗い。
どうやったら帰れるんですか?」
「マジで帰れない」
礼司は首を横に振った。
「良いかよく聞け、お前たちのいた世界とはそっくりだが
微妙な点でずれがある。おそらくお前たちの住んでいた家もあるだろうが
そこには別な人間が住んでいるはずだ、職場に行っても学校に行っても
お前たちが働く場所、住む場所すらないんだ」
「ええ!」
「運転免許証も使えない。銀行カードもクレジットカードも使えない」
「どうしたら・・・」
「ホームレスになって生きていくしかないな。
段ボールの家に住んでアルミ缶を拾うしかない」
礼司は冷たく言い放った。
「お願いです、助けてください」
3人は土下座をした。
「ねえ、夜野さん私たちどうやってこっちの世界に来たのかしら」
「わからん、魔美の声が聞こえたから俺はここへ来ただけだ」
「夜野さんに私たちをこっちの世界に呼ぶ力が付いたのかしら」
「そう言えば運転していたあの男が来る途中鬼を見たそうだ」
「見えるほどゆっくりかあ。鬼の世界を通って来たんだね」
魔美がありえない出来事に首を傾げた。
「金と言えば魔美はどうして俺の世界の金を持っているんだ?」
「それが私時々こっちの世界のファミレス・スティックでアルバイトしていたんだ。
今日もアルバイトの帰り」
魔美がしばらく無言でいたが仕方なしの答えた。
「まさか・・・」
礼司は魔美のアルバイトの理由がすぐにわかった。
「魔美、もうアルバイトしなくていいぞ。お前のお陰で
十分稼いでいる」
「うん」
「ところで三人さん、仕事は何をしているのかな?」
礼司は三人に向かって聞いた。
「俺は柿本仁大学生です」
魔美の足を持っていた男が答えた。
「俺は栗原博建築業です」
車の持ち主の運転していた男が答えた。
「俺は梨田健電気工事やっています」
魔美の手を掴んでいた男が最後に答えた。
「なぜ、魔美を襲った!」
「一人で暗がり歩いていたしお堅くて有名なミッションスクールで
まじめそうだから・・・」