現状把握と配下たち
なぜこうなった?
今の俺は、豪奢な部屋のめっちゃ派手な椅子に座っていた。
これ玉座ってやつ?
つーか何?魔王陛下?俺が?
…………俺が?
いや待て、落ち着け。これは夢か?いやそんな訳ないよね。
だって、ねぇ。俺刺されたの胸だし。
助かるわけないよねぇ。ハハハ……。
マジで異世界転生したのか俺は!?
ふと、自分の身体を見てみる。
なんかあっちこっち小さくなってる気が?
よっこらせ。
立ち上がってみる。目線が低い。
鏡ないかな?今の俺の状態を知りたい。
《かしこまりました。》
ファッ?!だ、誰?!なんか女の人の声が……。
すると、ヴォン…と音を立ててこれまた豪奢な装飾の姿見が現れた。
そこに写ったのは、多分12歳ほどの少年。
顔立ちめっちゃいい。黒髪に赤い瞳。正装。
ヤバい。めっちゃイイ。これが俺とかヤバいわマジで。
《御姿のご確認は終わりましたか?》
またこの声が。あなた誰ですか?どこから話しかけてんですか。
《私は、貴方様のサポーター。報告管理システムです。名も無き身ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。》
報告管理システム?俺の?なんかスゲェ。
でも名前無いのか。
つけてあげたいけど、まずは今の状況の完全把握だな。
悪いんだけど手伝ってくれる?
《お望みのままに、我が主君》
マスター、ねぇ。いい。実にイイ。
さてと。まず俺は玉座に座り直した。
俺のすぐそばには、4人が跪いて頭を下げていた。
この人達は、誰な訳?
《この者たちは、マスターの配下です。皆マスター復活の日を、指折り数え待っていたのですよ。》
へぇー、凄い慕われようだねその人。俺だけど。
とりあえず楽にさせよう。ずっとあの姿勢だと疲れるだろうし。
「えっと、まずは…。」
《お待ち下さい。マスター。》
はいはい何でしょう。
《もう少し威厳を持ってご命令ください。》
無茶振り。
でもまぁ、ここで舐められてもって問題だろ?
《いえマスターを舐め腐るような愚者はこの中にはおりません。ただ単純に、気分を出していただきたく………。ダメ、ですか?》
何このカワイイ生き物、かどうかわかんない存在。
最後の「ダメ、ですか?」は反則だろ!?
前半いかにも知的なキャリアウーマン的な感じの声だったのに、急に萌キャラみたいな声になっちまって!!
ずりぃよそりゃ。
ま、リクエストには答えてやらないとな。
ゲフンと一つ咳払いをして、テイク2!
今まで見てきた特撮に出てくる、悪の帝王っぽく言ってみよう!
ま、見た目があれだから威厳出るかどうかは別だけど。
とりあえず足を組んで、肘掛けに頬杖っと。
さて、それでは……。
「顔を上げよ、我が配下達。まずその堅苦しい座り方を崩すがいい。楽にせよ。」
どう?
《素晴らしい!!さすがマスターです!!これぞまさに王者の貫禄!!私感激いたひまひた!!》
そんなに?!しかも後半噛んでたし!
それより配下の皆さんはというと。
「はぁ〜あぁ。キツかった〜!この姿勢疲れんだよなぁ。」
いかにも野生児っぽい高校生ぐらいの男があぐらをかいて一言。
赤茶色の髪を逆立て、顔や腕には傷跡がたくさん。
ボロボロのズボンに、上は前全開ノースリーブのシャツ。
野生児というより遭難者だなこれは。
だがしかし、その人には犬耳が生えている。
「やれやれ。相変わらず待てができないのかね、君は。そんな駄犬ぶりを復活したての我が王に見せるとは……やはり君には、首輪を付けておくべきだったかな?」
凄い毒舌をぶちかましたのは、見るからにインテリの男。
カードゲームなんかでよく見る魔法使いみたいなフード付きのローブを纏ったイケメン。
20代前半かな?年齢的に。
群青色の髪はこざっぱりとしているものの、前髪で左目が隠れている。
右目には片眼鏡。そして手には少し厚めの本。
いかにも知的。
「……二人とも、主君の御前…。喧嘩なら、外でやれ……。」
気だるげに言葉を発したのは、イケメンの隣にいる人物。
ダボッとした忍者服を着た、中性的な顔立ちの人だ。
中学生ぐらいかな?外見年齢。
胸周りがふっくらしてるから女の人だと思う。
黒みがかった紫の長髪をサイドテールにしている。
その額には、2本の角が生えていた。
「まぁまぁ、いいじゃないですかぁ。主様が復活してぇ、お二人とも嬉しいんですよねぇ。わかりますよぉその気持ちぃ。」
やたらと間延びした喋り方が目立つのは、忍者の隣。
白髪頭の女の人。このメンバーの中ではあの犬耳くんと同じぐらいに露出の多い服装だと思う。
だって上はスポーツブラだけ。なんにも羽織ってねぇし。
しかしながら、彼女の腰から下を見て俺はギョッとした。
この人、蜘蛛から生えていた。
蜘蛛の頭のあたりから人間の女の人が生えている。
絵面が強ぇ!
情報量が多い見た目の奴らが、俺の前にいた。
《マスター。呆けている場合ではありません。あの者たちに、忠誠の儀を行わせてください。》
忠誠の儀?何それ。
《いいですか?時間もあまりないのでよく聞いてくださいね?》
ふむ、ふむふむ。はいはい。ほうほう。
…………ラーニング完了!!
「お前たち、俺は復活したばかりの身だ。そのため記憶が少々曖昧でな?故に……。」
「つまり、我らの名を明かせ、それを持って忠誠の証とする。ということでしょうか?」
片眼鏡が先回りしてきた。
というか一気に結論行ったな。
「うむ。そういうことだ。」
これでいい…のよね?
途端に全員跪き、頭を下げた。
そして犬耳くんから。
「人狼種、アンク。御前に。」
続いて片眼鏡。
「堕妖精人種、ブレン・レガリア。御前に。」
次に忍者。
「幽鬼種、スメラギ。御前に。」
最後に蜘蛛女。
「蜘蛛人種ぅ、セルカ・シグぅ。御前にぃ。」
ふむ、アンクにブレンにスメラギにセルカ。
これが俺の配下って訳ね。
《私もおります。》
おっとそうだった。えっとお前は……。
あ、名前ないんだっけ。
じゃ、お前の名前はイヴ。どう?
《イヴ。それが私の名………。ありがとうございますマスター!!》
うんうん、喜んでくれて何より!
《では続いて、マスターの名を決めなくてはなりませんね!》
ん?今なんて?
名前なんて、生前のでいいじゃない?
《いいえ。生前のマスターには、名がありません。》
え?そんなバカな、ちゃんと……。
《マスター。私が言っているのは人間として異界で生きていた頃の事ではなく、それより前の事を言っているのです。》
いよいよわからなくなった。
どゆこと?
《貴方様の、この世界での最初の生には名が無いのです。》
この世界での最初の生?
つまり俺の前前世ってこと?
《はい。名もなき魔王。それが、貴方の呼び名です。》