ヒーロー(?)転生!
平々凡々な人生だった。
ごく普通の家庭の末っ子として産まれ、特に不自由もなく毎日を過ごしていた。
高校を卒業してからは、そこそこ大きな企業の工場に就職して実家暮らし。姉貴と兄貴は離れて暮らしているから俺が一人、定年退職した両親を養っている。
とはいえ、平凡なのは俺だけだったのかもしれない。
姉貴は声優だ。今年の春頃に始まったアニメで主人公キャラの声を担当していると知ったときの衝撃は今でも覚えている。
兄貴は漫画家。去年の夏に連載が決まったと連絡してきた時は、自分の事のように嬉しかったなぁ。ちなみにジャンルは青春バトル系。脳筋で短気な兄貴からは想像つかないものだったから、姉貴と大笑いしたっけ。
母さんは大手雑誌社の編集長で、父さんは一流企業の何処かの部署の課長だったらしい。
こんなある意味エリート揃いの家族で俺が一人、こんな感じ。
別に劣等感なんて感じてない。自分は自分だからな。
ただ一点、家族の誰にも負けないものがある。
それは………。
特撮ヒーロー番組に関する知識だ!!!
いやーいいよねヒーロー番組!なんていうかさ、大人になった今子供の頃にやってたのをDVDで観るとさ、テンション上がるんだよね!!
それにさ、シリーズ物に至っては過去作とコラボとかしちゃうでしょ?それがまた………!
無論、24になった今でも変わらず見続けている。少なくともニチアサは毎週録画。これは変わらない。
小さい頃はノートにオリジナルヒーローの設定とか技名とかを描いて遊んでいた。
元々絵を描くのが上手かった兄貴がそのヒーローの絵を描いてくれて、姉貴が名前を考えて………。
そのノートは今でもある。ここだけの話、兄貴の漫画の主人公はこのノートに書かれたヒーローの一人をモチーフにしているらしい。
さて、前置きはこのぐらいにして、なぜこんなことを、人生を振り返っているのかを説明しよう。
この俺、菅将太は死んだ。
理由は、今思い出しただけでも寒気がする。
あれは数日前、仕事が非番だったので、駅近くのショッピングモールで少し買い物でもしようと思って電車を降りて徒歩で移動していたときだった。
「うわーー!!」
悲鳴?なんだ?
誰かが何かを振り回しながら走ってくる。
それはサバイバルナイフを持った男だった。
おいおいマジ?!ヤバいなすぐに警察に……。
俺が携帯を取り出したその時だった。
男と目があった。あってしまった。
血走った目、口の端から垂れる涎。まるで飢えた獣のようだ。
「キェェェェェ!!!」
怪鳥音と言うのだろう。声ではない甲高い音を口から発しながら男がこっちに突進してくる。
あまりの出来事に反応が遅れた。そして胸辺りにズキリと焼けるような痛みが走る。
奴のナイフは、俺の右胸に突き刺さっていた。
仰向けに倒れる俺。周りからは悲鳴があがる。
駅前だったからか、すぐ近くの交番から警察官が飛び出してきた。
そして男を取り押さえようとする者と、無線機で応援を呼ぶ者とで分かれていった。
ヤバい。熱い、痛い、息ができない。
意識が遠のいていく。
あぁ、こんな時ヒーローはどうするんだろう?
なんて事を考えられる辺り、俺のオタクぶりは重症なんだな。
この世界において、ヒーローは虚構の存在だ。
だがもし、来世があるとしたら、巷で話題の異世界転生とかがあるならば、ヒーローになってみたい。
無論無責任ではなく、出来る限り、力の限り。
でも凡人の俺にはろくな来世はないんだろうな………。
ふと、地面にぶちまけられた俺の荷物が目に入った。
あのノートだ。いつの間に持ってきてたんだ?
ノートに記されたヒーローには、俺の考えうる限りのカッコいい設定を盛り込んでいる。
そんなカッコいい活躍、してみたい……な………。
かくして、俺は死んだ。
しかしながら、神様は俺の願いを聞き入れたのだろうか。
俺は転生したらしい。異世界に。
ただし、平凡な家庭ではない。かと言って貴族とかの上流階級でもない。
俺の転生したところ。それは。
「「「復活、おめでとうございます!!魔王陛下!!!」」」
どうやら魔王らしい。