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第6話 空気の読めないお父様

6話目にしてようやくケイトリンデの家族が登場します。(遅)



 ある晴れた日の午後。

 わたしは屋敷のテラスで、のんびりティータイムを楽しんでいた。

 爽やかな初夏の風が吹き渡ってとても気持ちがいい。

 破滅回避も順調だし、このまま平和に過ごしたいものよね。


「お嬢様。そろそろ、旦那様がお着きに……」

 執事の少年、クリフがささやく声ではっと我に返る。


 とうとう来たわね、お父様!

 わたしはクリフに目配せし、紅茶のカップをそっと皿に置き平然を装った。


 やがてお父様――侯爵家当主ウォルト・ワイルダールがテラスに入ってくる。


「ケイトリンデ、元気にしていたかい?」

「はい。お父様もお元気そうで何よりですわ」

「今日はお前の縁談を持ってきたよ」

「ありがとうお父様却下しますわ」

「えっ? そ、そうか…」


 にこやかな笑顔で断ると、お父様はわたしの後ろのクリフに向き直った。


「ではクリフ、君を養子にしたいと男爵家から申し出があってだね」

「恐れ入りますが辞退させて頂きます旦那様」


 クリフは深々と綺麗な角度で頭を下げる。


「えぇ……?」

 わずか20秒で会話が終了し、お父様は呆然と固まってしまった。

 可哀想だけれど、どちらのお話も破滅する未来しかないのでお断りだ。


「今回のは、絶対良い話なんだがなぁ…」

「ごめんなさいお父様。わたし、何だか悪い予感がするのよ」


 実際は、わたしの【察し能力】で悪い話なのを確認済である。

 父が領地出張から帰る時は毎回この流れなので、事前調査はばっちりだ。


「そうか。ケイトリンデの勘は当たるからなぁ。わかった。断っておくよ」

 困ったような笑みを浮かべ、父はうなずいていた。


 お父様は「お人よし」と察し能力に表示されるぐらい、根はいい人だ。

 なお「ポンコツ」「ヘタレ」とも書いてあった。

 知らない言葉だけれど、あまりいい意味じゃなさそうね。

 そして変な詐欺に引っかかるのが特技である。何回家が傾きかけたかしら?


 お父様は真剣な表情で、わたしの肩にぽんと手を置く。


「私はね、お前たち2人に幸せになってほしいんだ。ケイトリンデには、良い嫁ぎ先を見つけてあげたい。たとえイヴォング殿下に3日でお断りされた最短記録を持つ、ちょっと残念な娘だったとしても」


「うっ」

 心がえぐられた気がして思わず胸を押さえる。

 お父様やめて! 消したい過去なのよ。


「クリフも家に帰れない事情があるようだが、君の才能をくすぶらせているのはどうにも忍びない。何かこう、人の上に立つ仕事の方が向いている気がするんだ」


「…………旦那様のご厚意、誠に痛み入ります」

 正体を偽って執事をしているクリフは、きっと内心で複雑に違いない。


 お父様はクリフへの評価が高いわね。無駄に鋭い指摘も的を射ているわ。

 それに比べて残念な娘のわたしは、まったく立つ瀬がないんだけど。


 久々の再会なのに、わたしはどんよりと暗い気分になってきた。

 お父様もちょっと空気が読めない性格かもしれない。

 この父にしてこの(わたし)ありなのね。悔しいけれど納得よ!


「本音を言うとね。ケイトリンデにもクリフにもずっと一緒に居てほしいんだ」


 苦笑するお父様の横から、ひょいと赤髪の青年が顔を覗かせる。


「それなら、いっそのこと2人で結婚しちゃえば?」

「お兄様!?」


 わたしの4つ年上の兄、スタンリーだ。急に出てきて何てこと言うのよ。


「2人ともお似合いだし、僕はいい案だと思うんだけどねぇ」


 兄の軽すぎる発言を受け、わたしとクリフは顔を見合わせる。


「わたし達が、結婚……?」

 クリフの青い瞳をじっと見ていたら、視線をそらされてしまった。

 彼の顔が少し赤い気がしたけれど気のせいよね。


 確かにクリフは優良物件だし王子様だし格好いいし最高の相手よ。

 でもわたし達がお似合いかといえば、わたしが残念すぎて釣り合わない。

 それに彼には、帝国に戻って皇帝になるという大切な未来が待っている。


「お兄様。クリフにも選ぶ権利があるから無理を言わないで。そうよねクリフ?」

「私は別に――いえ、私などにお嬢様は勿体なく、分不相応でございます」


「そのとおりよ。身分が違いすぎて分不相応だわ!」


 つい、力説してしまった。

 小国の侯爵令嬢と帝国の皇帝とでは、身分格差もいいところだもの。

 あら? でもよく考えると今のわたしの発言って誤解されそうね。


 これじゃまるで自信過剰で高慢な女みたいじゃない!

 撤回したいけれど、クリフの正体は秘密だわ。ど、どうすれば……

 そのままわたしが何も言えずにいると、お兄様は肩をすくめてみせた。


「ふうん、別にいいけどね。ところでケイトリンデ、新しい投資の話があるんだ」

「は、はい。わかりましたわ」


 以前、兄が投資に失敗しそうになったのを止めた事があり、わたし達はそれなりに信用を得ていた。


 父は騙されやすいのでなるべく人と関わらない仕事をしてもらい、侯爵家の切り盛りは次期当主のお兄様が行っている。適材適所である。


「後で取引先を確認しますから、資料を見せてくださいませ」


 わたしはそう申し出て、察し能力を使うことにしたのだった。



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