第3話 当家のパーティは婚約破棄会場ではありません!
ケイトリンデの最近の悩みについてのお話です。
「レイモンド様。貴方との婚約を取り消しさせて頂きますわっ!」
「な、なんてひどい事を言うんだー! スザンナ嬢!!」
侯爵家が用意したパーティ会場で、突然始まる茶番劇。
主催者であるわたしは、それを冷めた目で見つめるしかなかった。
どん底なわたしの気分とは裏腹に、周囲のお客様は大いに盛り上がっている。
「どうなさいますか、お嬢様」
「正直、見なかったことにしたいわね……」
小声で尋ねてくるクリフに、つい小声で本音をもらす。
このまま放置したいが、そうもいかない。
わたしは重い腰を上げて席を立ち、騒動の渦中の2人を【察し】てみた。
本の形で浮かび上がる情報を、心の中で呟きながら分析していく。
え~っと。レイモンド様は子爵令息で、スザンナ様は男爵令嬢ね。
もっといい条件の殿方が現れたから穏便に別れたい女性と、実は浮気をしているから別れてもいい男性の組み合わせ。
いや、普通に話し合いで解決しましょうよこんなの!
――なお、内容はこんな感じであった。
◆題名:婚約者がいる俺に、めちゃ可愛い幼馴染が世話を焼いてくる件について
◆粗筋:子爵家の次期当主レイモンドが選ぶのは、果たして誰なのか!?
◆部類:ラブコメ
◆重要語句:三角関係 幼馴染 浮気 イチャイチャ 婚約破棄希望
◆題名:男爵令嬢スザンナの正しい婿選び
◆粗筋:スザンナは気付く。結婚に大事なのは愛よりも甲斐性だと――。
◆部類:エッセイ
◆重要語句:新しい恋 伯爵令息 高収入 現実主義 婚約破棄希望
お互い、どっちもどっちじゃない。でもどうにか円満に収めるしかないわね。
いがみ合う恋人たちの元へ歩いて行き、わたしは仲裁に入った。
「お待ちください! その破棄、こちらで預からせて頂きますわ」
毅然とした態度でそう告げると、観客から歓声が沸き起こった。
「いいぞー!」
「よっ、待ってました!」
飛んでくる掛け声に顔を引きつらせつつ、一気に解決策を述べていく。
「わたしが察しましたところ、レイモンド様には昔から心に決めたお相手がいらっしゃるご様子。意に添わぬ婚約で無理をしていたのを、スザンナ様が感じ取ってしまったのでしょう。真実の愛のためにはここでお別れになった方が最善かと。心配しないで。スザンナ様には、きっと相応しい殿方が現れるはずですわ」
「まあ。ケイトリンデ様……!」
「なんと素晴らしい采配だ」
「「おおーーーっ!!」」
割れんばかりの拍手が巻き起こり、侯爵令嬢を褒めたたえる。
ちらりと見やると、当事者のレイモンドとスザンナまで一緒になって楽しそうに拍手をしていた。解せぬ。
◇ ◇ ◇
「さすがに疲れたわ……」
無事に宴も終わり、わたしは自室のテーブルに力なく突っ伏した。
執事のクリフが、甘いホットミルクを準備して労ってくれている。
「わたしがパーティを主催すると、なぜいつも破棄騒動が起きるのかしら」
「本日は3件も発生しましたね。最高記録更新です」
「うっ…何てこと」
クリフの言葉に、わたしは両手で頭を抱えた。
恋人が行くと必ず別れるパーティ会場なんて、不名誉もいいところだ。
しかし不参加が続出するかと思いきや、不思議と参加を望む声は多い。
「本当に困るわ。どうしてみんな楽しそうなの! 不幸な婚約破棄なのよ」
「お嬢様が鮮やかに解決されるのを、皆さん楽しみにしているのですよ。もちろん私もです。とても参考になります!」
クリフは絶賛しているけど、平穏に過ごしたいわたしは憂鬱でしかない。
もはや見世物みたいになっているし……恥ずかしすぎる。
他人が不幸になるのを見たくないわたしは、ついつい婚約問題の円満な解決に手を貸してしまうのだった。
まるでお見合いを仲介する仲人みたいな心境ね――高確率で別れさせるからちょっと違う気もするけれど。
でも他人のことばかりで肝心のわたしの恋路はどうなるのよっ!?
と、声を大にして言いたくなる。
貴族の結婚適齢期は、一般的に18歳から20代前半までくらいだ。
あと5年以上もあるとはいえ、あまり悠長にはしていられない。
大人になるまでに能力を使わないと、間に合わなくなってしまう。
第2王子との婚約破棄後、わたしにもそこそこ縁談は来たのだが【察し能力】を使ってみるとろくな相手がいなかった。
だいたいが侯爵家の家名と財産目当てである。そしていずれ破滅する。
――例の第2王子との復縁は考えなかった。なぜならば。
◆題名:第2王子イヴォングと12人の嫁による世界最強伝説(仮)
◆粗筋:美形の王子と可愛いヒロイン達が繰り広げる楽しい生活。そして惨劇!
◆部類:ホラーサスペンス
◆重要語句:美少女 ハーレム 女の争い ドロドロ愛憎劇 結婚相手は破滅
うん。とっても分かりやすいお断り物件ね!
婚約前に能力に覚醒していればと、わたしは後から悔やむばかりだ。
※ケイトリンデの察し能力ですが、コメディとしての表現方法ですので、どうか広い心でお読みくださいね。




