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第19話 帝都での戦い



 男爵令嬢ドリスの合図で、貴族姿の兵士たちが一斉に襲いかかってきた。


 わたしの隣に座っていたクリフが、即座に5人ほどを叩きのめしている。

 振り下ろされる剣を華麗に避け、数人同時に鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れ、遠くから椅子を投げつけてきた相手には、逆に投げ返して足止めさせていた。


 能力なしでもここまで戦えるなんて、クリフは本当にすごいわ……!


 薄茶色の髪の少年は、鮮やかな体術で次々に敵を倒していく。

 こういうのをチートっていうのね。きっと。

 周りの状況も忘れ、わたしは白いタキシード衣装の彼に見惚れてしまった。


 会場の奥では、護衛騎士が仲間と協力して敵を捕縛するのが見える。

 アーネスト王子の方もうまく能力者を抑え込んでくれたみたいね。良かった。


 ほっとした瞬間、後ろから誰かに羽交い絞めにされた。

 目の前に光るナイフが迫る。

「きゃっ」

「ケイトリンデ!」


「動くな! この女の命がどうなっても――――うぐっ」

 背後の兵士に肘鉄をお見舞いし、相手がひるんだ隙に腕から逃げ出す。

 これでも一応、破滅回避のために護身術を習っていたのよ。鎧を着ているならともかく、無防備なドレス姿の相手ならわたしにだって対処できるわ。


 すぐに駆け付けたクリフが敵に掌底を叩き込み、わたしの両肩に手を置いて心配そうに見つめてくる。


「大丈夫ですかっ。お怪我は?」

「平気よ。クリフのおかげで、わたし、だいぶ強くなったわよね?」

「……はい。ケイトリンデ様は、私が知る限り世界一最強なご令嬢です」

「それ、褒めてくれているのかしら」

「もちろんですよ」

 思わずわたしがくすりと笑うと、クリフも青い瞳を細めて微笑んだ。


 ほとんどの敵対者を倒し終えて、会場内はだいぶ静かになった。


 それまで黙って立ち尽くしていたドリスが、急に声を荒らげる。

「早く会話に出なさいよイヴォング。寝てるの? もしもし、もしもし!」


 イヴォング殿下? よく分からないけれどどこかで寝ているのかしら。


 散々イヴォングを罵倒したドリスは、きょろきょろと辺りを見回した。

「能力者は? 護衛の能力者はどうしたのよ!」


「彼らなら、最初から私たちの味方でしたよ。敵に回った者も既に捕縛済みです」

「何の話を……ってあんた、アーネスト王子じゃないわね。誰っ!?」


 そのドリスの問いに答えたのは、新たに現れた人物だった。


「彼の名はヒースクリフ。第3王子で僕の弟だ。君も市民なら知ってるだろう?」

 金色の長い髪をした線の細い少年、ジェラルドがそう説明する。


「そんな。追放されて死んだんじゃ……そうだわジェラルド王子。早くあたしを助けなさいよ。婚約者でしょう!」

「観念するんだ、ドリス。君との婚約は只今をもって破棄させてもらう」


 突然の婚約破棄に、わたしは他人事ながらどきりとしてしまった。


「何言ってるのよ、自分だけ逃げるつもり? あんたも同罪じゃない!!」

「ああ。重々承知しているさ――彼女を牢まで案内してやってくれ」

「ははっ!」

 ジェラルド王子が命じると、彼の護衛騎士たちがドリスを取り囲む。


「放しなさいよっ。あたしはこんな所で終わっていい人間じゃないんだから!」

 抵抗するもあっけなく、拘束されたドリスはホールの外へと連れて行かれた。


 ドリスの背中を見送っていると、鎧姿の人物が兜を外して歩いてくる。


「無事に終わったようだな」

「アーネスト殿下、ご協力ありがとうございます。危ないのに申し訳ありません」

「いや。俺の能力が役に立って良かった。味方の能力まで封じるのは厄介だがな」


 苦笑している黒髪の王子に、クリフも一礼して感謝の意を述べる。

「敵の能力が不明なこの状況で、殿下の能力は万全を期すためには重要でした。ご助力、誠に感謝致します」


「こちらこそ協力感謝する。心強い友人が居てくれて本当に良かった。どうやら、ドリスには戦闘用の能力は無かったようだな。取り越し苦労だったか」


「そうですわね。先読み能力とは、てっきり未来を見通す力だと思っていました」

「真実については、本人に聞いてみるしかなさそうですね」


 今回、敵の罠に飛び込むために、わたし達は細心の注意を払っていた。

 たとえばクリフがアーネスト殿下の変装をしていたり、アーネスト殿下が護衛騎士に扮してパーティ会場内を回って能力無効空間に変化させていたり。


 さらには味方の能力者をドリス側で雇うように仕向け、敵の内情を探ってもらっていた。中には敵に回っている者もいたので、事前にわたしの察し能力で見抜いておき、アーネスト殿下の能力で無力化させて捕まえたのだ。


「いずれドリスの能力も分かるはずだ。これから帝国側で事情聴取を行い、厳重な処罰を下すらしい。ジェラルド王子、貴殿の罪が決まるまでは我々に協力してもらえるだろうか」


「勿論だ。僕もドリスと同じ大罪人だからね。逃げも隠れもしないよ」

「兄上……」

 全てを諦めているような第2王子の態度に、クリフが複雑な表情をしていた。


 ジェラルド様の母の第2皇妃シモーヌ様共々、彼らの派閥は処罰を受ける。

 兄弟同士でも、継承争いのせいで敵対していがみ合わないといけないなんて。


 何とかならないのかしら……。



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