第2話 ケイトリンデの能力
※本日2回目の更新です。
この世界では、ごくまれに子供が特殊な能力を発現させることがある。
ケイトリンデの場合、それは13歳の誕生日のことだった。
初めて能力に目覚めた時、彼女は自分自身に【察し能力】を使ってみた。
◆題名:侯爵令嬢ケイトリンデ・ワイルダールの転落人生物語
◆粗筋:空気の読めない言動により、近いうちに破滅。
◆部類:悲劇という名の喜劇
◆重要語句:婚約破棄 ざまぁ 没落 処刑 バッドエンド
「なによざまぁって! ざまあみろってこと? 失礼しちゃうわ」
しかも完全な悲劇ですらないらしい。
婚約破棄とあるが、第2王子イヴォングとは先日婚約したばかりなのだ。
ケイトリンデはいたく憤慨し、その能力を信じることができなかった。
だがそれが現実となり、あっさりと第2王子に婚約破棄されてしまう。
婚約してから3日後という超高速破棄であった。
ベッドに伏せって涙しながら、13歳のケイトリンデは悲嘆に暮れた。
「殿下……わたしのどこが悪かったのですか。お茶会で、殿下の上げ底靴の秘密をうっかり暴露したこと? それとも殿下から頂いたお手紙が嬉しくて、誤字脱字を直しながら皆の前で朗読したこと……?」
自らの空気の読めなさを、ケイトリンデはようやく自覚した。
それからの彼女は心を入れ替え、空気の読める淑女へと成長しつつある。
15歳になった今、ケイトリンデは自分の未来が変わるのを確信していた。
薔薇のように赤い髪と白いドレスをひるがえし、彼女は華麗に歩き出す。
「わたしは絶対に、悲劇を幸せな結末に変えてみせるわ!」
ケイトリンデは自らの破滅回避とちょっぴり善行を積むために、今日も頑張るのだった。
◇ ◇ ◇
わたしの朝は早い。
日が昇る前に起床し、特殊能力の特訓や侯爵家が没落しないように立ち回るための勉強をするのが日課だ。破滅回避への地道な努力である。
「ふぁあ~。眠いわ……でも頑張らなくちゃ!」
乱れた赤い長髪をとかし、自分で衣装を着替えて身だしなみを整える。
メイドはいるのだが、難しいドレスの着付けや化粧・髪結い以外は自分でやると決めており、メイド長のポーラにもきちんと了承を得ている。
まあ、変わり者だと思われているわよね、きっと。
わたしが自室で半眼になりながら読書をしていると、ノックの音がした。
「はーい。どうぞ」
「失礼致します。夕べは遅くまでお疲れ様でした、お嬢様」
扉が開き、薄茶色の髪をした少年が姿を見せる。
黒を基調とするお仕着せを上品に着こなした、わたしの執事を務めるクリフだ。
「クリフもお疲れさま! 昨日はうまくいって良かったわね」
昨晩、わたし達はとある商家の屋敷に忍び込んでいた。
商業ギルドの不正の証拠となる、裏帳簿を探すために。
我が家を含むたくさんの人々が詐欺にあっていたが、犯人を押さえて役人に突き出して、無事に破滅回避できた次第である。
眠気覚ましのモーニングティーを頂きつつ、昨日の大捕り物を思い出す。
敵の見張り役に見つかりそうになり、わたしは習いたての護身術で挑んでみたがもちろん無理で、結局はクリフのお世話になってしまった。
「貴方のおかげで助かったわ、ありがとう。【瞬間移動】って本当に便利よね。わたしも戦闘向きの能力が欲しかったな~」
「例の情報をつかめたのもケイトリンデ様の【察し能力】あってのことです。移動能力にも制限がありますし、私などまだまだでございます」
謙遜するクリフは、わたしと同じ15歳とは思えないほど落ち着いている。
彼は何でも卒なくこなし、全く隙を見せない人物だ。
もっと気楽に過ごしてもいいんじゃないかしら、とわたしは常々思っている。
給仕を終えて静かに後ろに控えている少年の方を向き、お茶に誘ってみた。
「これ、とても美味しいわ。クリフも一緒にどう?」
「いえ。執務中ですので。お気持ちだけありがたく受け取らせて頂きます」
「そう……仕方ないわね」
すげなく断られてしまい、わたしは正面に向き直る。
クリフを執事として雇って早2年だが、一緒に食事をしたりお茶を飲んだりしたことが全く無い。そう、ただの1度も無いのだ。
わたしは内心でふっと苦笑し、同時にしょんぼりとした。
本当に真面目すぎるわね、クリフは。そこがいい所なのだけれど。
でも帝国の王子様に執事をさせてこき使ってるなんて不敬がばれたら大変よ。
市中引き回しの上、打ち首かしら?
「って、怖すぎる!」
「どうされました?」
「な、何でもないわ」
恐ろしい結論に至り、わたしは秘密を厳守しようと再び心に誓った。
大丈夫、きっと何とかなる。
ここヴァレン王国でクリフの正体を知っているのはわたし1人だけなのだから。
そんなわたしの決意をよそに、執事の少年が告げてくる。
「お嬢様。今度の夜会についてですが、前回と同じ形式でよろしいでしょうか?」
「あ……そうだったわね。もうそんな時期になるのね」
15歳になり、社交の一環として侯爵家主催でパーティを開いているのだが、そこでの出来事がわたしの悩みの種となっていた。
「次回で第3回目となりますね。招待状をお持ちでない方もぜひ参加したいとの人気ぶりですよ」
「人気……なのかしらね。わたしは憂鬱なのだけれど」
確かに一部では盛り上がっている気がするが、何かが違う。
わたしとしては疲れるだけなので出来れば回避したいところだ。
「ねえ、クリフ。こっそり延期にできないかしら。今ならバレないかも!」
「なりません。出張中の旦那様と次期当主様からお嬢様のことを頼む、と仰せつかっておりますので」
「うう~。クリフが厳しいわ……」
1週間後に控えたパーティを前に、わたしは頭を抱えるしかなかった。
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