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第16話 ヒースクリフ王子の真実の愛

今回、クリフの気持ちがケイトリンデにばれます。

(すでにバレバレですが)




 わたしは、少しでもクリフの助けになりたくて【察し能力】を使いまくった。

 名簿に載ったあらゆる関係者の情報を調べて、書面に記していったわ。

 びっくりするような真実も出て、わたしが知っていいものかと戦慄する。


 もちろん、悪役令嬢を名乗るドリスのことも調べてみた。

 知らない語句が多すぎてよくわからなかったけど、能力者なのは間違いない。

 侮ってはいけない相手なのは確かね。クリフにも伝えておかないと。


 作業に集中しているうちに、窓の外がだいぶ暗くなってきていた。

 わたし用の個室のドアがノックされ、薄茶色の髪の王子様が姿を見せる。


「お疲れ様です、ケイトリンデ様」

「ヒースクリフ様! お茶ぐらい自分で淹れますわ。どうかお休みになって」

「いつも通り、クリフと呼んで下さい。あなたこそ少し休むべきですよ」


 そう押し切られて、ワゴンに載せた軽食と紅茶を出された。なんて恐れ多い。


 でも、執事の衣装じゃないクリフを見るのは久しぶりね。

 変装する必要がある時以外はずっとお仕着せ姿だったもの。真面目すぎよ。

 半袖の青いドレスシャツに黒いズボンという普段着でも気品が漂って見えるわ。

 

 わたしが書いた書類にさっと目を通し、クリフは深く頭を下げた。


「ご協力、感謝致します。大変ありがたい情報です。あなたを面倒ごとに巻き込んだうえ、利用するような真似をして申し訳ありません」


「わたしが協力したいからするのです。お気になさらないでください、クリフ様」

「2人きりの時は、敬語もやめにしませんか?」

 クリフはそう言うと、困ったように眉を下げて苦笑した。

 

 

 それから、テーブルに向かい合って2人で夕食をとることになった。

 郷土料理だという、揚げパンの中に色々な具材が入った物をいただく。

 素朴な味わいでとてもおいしい。何個でも食べられそう。


 お昼はクリフのご家族や護衛の人もいたから、とてもにぎやかだったわ。

 クリフのお母様であるエメリーン様の手料理をふるまってもらったり、アデーラちゃんの焼いたケーキを食べさせてもらったり。本当にいい人たちばかりね。


「夜は他の皆さんと一緒に食べなくてもいいの?」

「静かな方がいいかと思いまして。お昼は騒がしくて、疲れたでしょう」


「いいえ、楽しかったわ。あんなに歓迎してもらって申し訳ないくらいよ」

「ケイトリンデ様は私たちの恩人なのですから、当然のことですよ」


 そう言って微笑まれてしまい、わたしは何も言えなくなった。

 国のことで大変な時に、きっと迷惑を掛けているに違いないわ。

 食べた分ぐらいは、きちんと働かないとね。


 黙々と食事を続ける。クリフと2人きりで食事をするのって、昨日のお茶会を入れてまだ2度目だから何だか新鮮ね。


 じっと彼が食べるのを見守っていると、

「何か、顔についているでしょうか?」

「ご、ごめんなさい。珍しくて。クリフもご飯を食べるんだなあって」

「あなたの中で、私は一体どんな珍獣扱いになっているのですか」


 呆れたように苦笑いされたから、ついぽつりと本音をこぼす。

「だって、お茶も一緒に飲んだことがなかったのよ。わたしにとって、貴方は近いようでずっと遠い存在だったわ……」

 

 執事と主人――今は、帝国の王子様と小国の侯爵令嬢。

 この地へ来て、彼が身分の違いすぎる存在だというのを改めて実感したわ。

 やっぱりわたしなんかが、馴れ馴れしくしていい相手ではないのよ。


「…………席を移動しますね。声が聞き取りにくいので」

「えっ」


 クリフは食器を持って立ち上がると、わたしの隣に座り直した。

 3人掛けのソファーだから余裕はあるものの、少し近付きすぎのような。


 そんなにわたし、声が小さかったのかしら。


 ◇ ◇ ◇


 食事が終わり、クリフから帝都に入る計画についての説明を受けた。

 現況を見ながら、2週間後くらいの予定だそうだ。

 彼らが出発したら、わたしはここでお留守番よ。

 バッドエンドを避けるため、絶対に帝国内に立ち入らないようにしないと。


 以前助けた能力者の子たちも力を貸してくれるらしい。それは心強いわね!



 隣に座っているクリフが、真剣な表情でわたしの手を握ってきた。


「全てを終わらせたら、ケイトリンデに伝えたい事があります。そのためならば、俺は何をしてでも戻ってきますので……聞いて頂けますよね?」


「え、ええ。わかったわ。気を付けて行ってきてね」

 ドキドキしながらうなずく。な、何を聞かされるのかしら。

 執事をやめてから、彼の距離がやけに近い気がする。

 

 握っていた手を離し、彼はわたしにこんなお願いをしてくる。


「その前に、俺に能力を使ってみて頂けますか。先程の書類に無いという事は、まだ見ていないのでしょう。あなたの勘違いではないと理解できるはずです」


「勘違いって?」

 クリフの情報を見るのって、ずっと怖くて避けていたのよね。

 彼を助けるつもりなら、真っ先に調べるべきなのに。

 好きな人とかわかっちゃうし……ってクリフの愛する人はわたしなんだっけ。


 えっ!?

 あ、あれはきっとわたしの聞き間違いよ。混乱してたし。

 好きっていっても、友人として好きなのかもしれないし。そうよね!

 


 ――そして。クリフの結果がどうだったかというと。


◆題名:ヒースクリフは王子をやめたい

◆粗筋:帝位とかどうでもいいので好きな娘を幸せにする所存です。

◆部類:世界的な大恋愛

◆重要語句:溺愛 狂愛 ケイトリンデ至上主義 特殊能力持ち チート ヤンデレ予備軍


「どうでしょう。お分かり頂けましたか?」

 わたしの目の前で、クリフが青い瞳を細めてニコニコと微笑んでいる。


「…………たいへんよくわかりました」


 クリフがわたしの事を好きすぎて、嬉しい……けどちょっと怖い!

 なんとかして正気に戻さないと。こんな帝国の王子様はいけないわ!!

 相変わらず、意味不明な語句があるわね。ヤンデレ予備軍とは一体…。



 ――ちなみに、自分の情報も一応確認しておいた。


◆題名:悪役令嬢ケイトリンデVS悪役令嬢ドリス

◆粗筋:帝国で空気の読めない令嬢同士の戦いが始まる。勝つのはどっちだ?

◆部類:コメディー

◆重要語句:婚約破棄 ざまぁ 国家崩壊? 異能力バトル


 あら……? なんだかすっかり変わってるんだけど!?




果たしてクリフのヤンデレ化を防ぐことができるのか・・・!?


次回、「悪役令嬢からの招待状」をどうぞお楽しみに!



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