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第12話 能力者と魔法使い



「本日は、お招きいただきまして誠にありがとうございます」


 お茶会に呼ばれたわたし達は、王宮のサロンに案内された。

 2年前に来たことのある部屋と違い、室内は上品で落ち着いた雰囲気だわ。


 席を勧められてテーブルにつくと、即座にアーネスト殿下が謝ってくる。

「ケイトリンデ嬢。先程は嫌な思いをさせて大変すまなかった」

「いいえ。こちらこそわざわざ出迎えて頂き、感謝しております」


 あのとき通路でイヴォング殿下と遭遇して、わたしは逃げたくなった。

 クリフとポーラが居てくれたから、なんとか踏みとどまれたのよ。

 何も起きなくて本当によかった……ぶん殴りたくなるところだったわ。


 アーネスト王子は、後ろに控えている執事のクリフに話しかけた。

「なかなか痛快な口上だったな。正直、胸のすく思いだったぞ」

「――身分を弁えず、出過ぎた真似をしました。どうかお許し下さい」


「いや、悪いのはこちらだ。許せ。弟は王族の矜持も忘れた腑抜けだ。お前の方がよほど王族らしく見えるというものだ」


 とんでもない事でございます、とクリフは深々と頭を下げている。


 わたしは、そりゃもう本物の王子様ですから! と心の中でうなずいておいた。

 颯爽と現れたクリフが格好良すぎて、12人のご令嬢も見とれていたものね。


 あの子たちもいい加減、目を覚ましてほしい。殿下と結婚したら破滅するのよ。

 何とかして伝える方法はないかしらと考えていると、


「ケイトリンデ様、先日はお手紙をありがとう。とても参考になりました」

「どういたしまして。エリーザ様のお力になれたようで嬉しく思いますわ」


 公爵令嬢のエリーザ様から、輝くような微笑みを浮かべて感謝された。

 以前まで儚げな印象だったのに、今は笑顔の力で生き生きとして見える。

 元気になられたみたいで良かった。ダジャレ作戦、うまくいったのね。


 ◇ ◇ ◇


 王家の侍女が用意してくれた紅茶とお菓子をいただき、しばし歓談したのち、殿下はクリフ以外の使用人を人払いされた。


 クリフにも着席を勧められたので、彼はわたしの隣に遠慮がちに座る。


 アーネスト王子は、声量を抑えた低めの声で告げた。

「さて。本日ケイトリンデ嬢を呼んだのは、他でもない。能力者のことだ」

「は、はいっ」

「君が王国の敵でない事はよくわかった。それと、俺とエリーザの問題を解消してくれて非常に助かった。礼を言わせてもらう」


 え……それだけ? もっと重大なことを言われるのかと思っていたわ。

 拍子抜けしていると、真向いに座るエリーザ様が話を振ってくる。


「わたくしからも重ねてお礼を言わせて頂きますね。貴女のおかげで、アーネスト様と前よりずっと、親密になれた気がします」

「エリーザの話は面白いし、最高だ」


 そう言って婚約者同士の2人はにこやかに見つめ合った。

 あの殿下が笑ってる…! 何というか、ごちそうさまです。


 

「ねえ、ケイトリンデ様。わたくし、先日アーネスト様からお聞きして大変驚きました。能力者というものは本当に存在していたのですね」


 エリーザ様が語ったことによると、公爵家で過去の文献を調べたら、国内で能力者が最後に出現したのは100年ほど前だそうだ。資料が少なく詳細は不明らしい。


 クリフが裏組織で得た情報だと、世界中で1年に数人は見つかるとのことだが、そちらもはっきりしない。大人になったら消えてしまう能力だし、うまく隠し通している場合もある。正確な数の把握はやっぱり難しいのね。

 

 第1王子はいつもの真顔に戻って眉を寄せた。

「便利な力かもしれないが、悪用されると困るな。実は、俺はエリーザ以外には自分の力のことを話していないのだ」


「わたしも、クリフにしか話しておりません。恐れながら、殿下は別の能力者について何かご存じでしょうか?」


「それはこちらが聞きたい事だ。敵対しそうな者について調べたいからな。俺は能力妨害ができる力を授かりはしたが、相手に効いているかの判断はつかない。能力者の特定ができないのだ」


 あっ、なるほど。てっきり特定できるのかと勘違いしていたわ。

 そうなると、わたしが国民全員をひとりずつ調べないと把握できないのね…。

 子供しか能力覚醒しないから若い世代だけでいいのだけれど、大変そう。


「もしお調べするとしても、時間がかかると思いますわ」

「そうか。俺の方でもできる事はやっておこう。現在、おかしな行動をする者の報告は特にない。わかりやすかったのは、ケイトリンデ嬢ぐらいだな」


「うっ。それは……たいへん面目ないことでございます…っ」

 わたし、どれだけ目立つ行動をしていたのよ!

 もう侯爵家でパーティを開くのはやめた方がいいかも……


 小さくなって恥じ入るわたしを、クリフが心配そうに見つめてくれていた。

 

 ◇ ◇ ◇


 それから、わたし達は殿下と協定を結んだ。

 王国の危機に関することがあれば協力する、という簡単なものだ。

 他人に能力のことを伝えるのは、各自の判断に委ねることになった。


 能力者を悪用する組織があった事を伝えると、王子は腕を組んで唸った。

「ふむ。やはりそのような悪人もいるのか。……家族に伝えるのはやめにしておこう。イヴォングなどに知られたら、何をされるか分かったものではない」


 確かに、身内の敵は怖いですもんね。前に調べた事を伝えておこうかしら。

「わたしの能力では、今のところイヴォング殿下は女性関係で身を滅ぼしそうだという情報しか分かっておりませんわ」


「それは能力を使わなくても見れば分かる」

 アーネスト殿下は渋い顔で即答した。ですよねー。

 ふと隣のクリフの方を見ると、彼も苦笑したように微笑んでいた。

 さっきは王子から守ってくれてありがとうクリフ。後でお礼を言わなくてはね。



 王城では殿下の能力妨害のせいで【察し能力】が使えないから、帰ったら色々と調べて殿下に伝えることをお約束した。


 クリフの能力についても一部のみ開示しておく。もちろん正体は伏せた。

 嘘をつくのは心苦しいけど、さすがに帝国の王子で元暗殺者ですとは言えない。


 わたし達の話を聞いたエリーザ様は、しきりに感激している。

「能力とは、凄い力なのですね! まるでおとぎ話にある魔法のようです……」


 彼女の言葉にわたしもうなずいた。

「そうですわね。確かに、魔法や魔鉱具のように不思議な物だという印象です」


 古代には魔法が存在したそうだけど、現代にその名を残すのは魔法鉱石を使用する魔鉱具ぐらいだ。食品を冷やしたりお湯を沸かしたりできる便利な道具である。


「魔法か…能力者こそ魔法使いみたいなものだがな。クリフ、お前はどう思う?」

 急に王子から話を振られたというのに、クリフは全く動じずに答えていた。


「能力は、魔法とは違って遺伝ではなく後天的に発現し、成長と共に消えると聞き及んでおります。能力は神が与える物だという説もありますが、祀る神のいない現代では真相を知るのは難しいでしょう」


「……そうか。よく分かった、ありがとう」

 クリフの説明を聞き、アーネスト殿下はそう呟く。


 わたし達が知っている情報もそこ止まりで、詳細不明というのが現状なのよね。



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