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第10話 甘いお菓子と面白い話

※当作品はコメディ9割、シリアス1割でお届けしています。(恋愛は?)



 侯爵家の屋敷に戻り、わたしはクリフと再び話し合っていた。

「お嬢様。殿下の能力について少し分かったことがあります」

「クリフ、本当?」


 あの時クリフは人払いで応接室を出た後、公爵家の使用人やエリーザ様の姉妹にそれとなく尋ねてみたらしい。


 なんとアーネスト王子が声を掛けていたのは、男女両方の不特定多数だそうだ。

「見境ないわね! ではなくて、1人ずつ何かを確認していたとか?」


「はい。恐らく能力者が誰かを特定し、同時に能力妨害が出来るのではないかと。『面白い』という言葉を発することによって」


「なぜ、よりにもよってそんな言葉を選んでしまったのかしら」

「組織にいた時に聞いたことがあります。能力発動の鍵となる言葉を自分で決める際に、誤っておかしな言葉を設定してしまう事例があると」


「それは不便すぎるわね……」

 わたしとクリフは念じただけで発動できる。全くありがたい事だ。


 なおアーネスト王子の奇行は1か月前――彼の17歳の誕生日から始まったので、その際に能力に目覚めたのだろうという結論になった。


「ケイトリンデ様。これからどう対処なさいますか」

「そうね。特に殿下からの呼び出しもないし、王家を敵に回したくないわ。早いうちに、わたし達に敵意が無いことをお伝えしましょう」


 伝える方法を悩んでいると、クリフが午後のお茶を用意してくれていた。


 3段重ねのティースタンドに、珍しいお菓子が並んでいる。

 色とりどりの可愛いマカロンや、宝石のように綺麗なプチフール。

 うちでは滅多に手に入らない高級品だわ。

 

「あら? どうしたの、そのお菓子……?」

「先ほど公爵家のほうで頂きまして」

 そう言って差し出されたのは、王家御用達の高級菓子店の紙箱だ。


 わたしへのお土産ではなさそうね。エリーザ様から何も聞いていないし。

 きっとエリーザ様のご家族に頂いたのに違いないわ。クリフ個人(・・)あてに。


 じっとクリフを見つめていると、彼は恐縮したように頭を下げる。

「すみません。お断りしたのですが、ご厚意を無下にしてしまうのも侯爵家の名に傷が付くかと思いまして」


「ふふっ。別によくてよ。それだけ貴方が魅力的ってことだもの」

「は、はい……?」


 最近クリフは背も伸びて男らしくなったし、女性に人気があるのよね。

 我が家のメイドがきゃあきゃあ言っているのを見たことがあるわ。

 さすがは帝国の王子。これが隠しきれない気品というものね。


 その時、わたしはハッと名案を思いついた。

 ――そうだ。これはクリフとお茶をするチャンスかも!


「貴方がもらったお菓子なら、一緒に座って食べましょう?」

「いえ。あらかじめ毒見を済ませておりますのでご安心を」

「そ、それは用意がいいことね……」


 くっ……抜かりないわね。さすが完璧執事の王子様!

 結局、今日もわたしの野望は粉々に打ち砕かれるのだった。


 お菓子は甘くてとても美味しかったわ。ひとり寂しく食べるのだけが残念ね。

 


 ◇ ◇ ◇



 後日、ケイトリンデはアーネスト王子あてに手紙をしたためた。

 王国に害をなすつもりはなく、能力も皆のために使っていると伝えるためだ。


 最近は婚約問題の解決やお見合いや投資相談にしか使っておらず、他人に迷惑がかからないように気を付けているので許してほしい、と正直に書いた。


「まあ、最終的にはわたしの破滅回避が目的なのだけれど……」

「人助けの結果そうなっているのなら、構わないと思いますよ」


「誰かに読まれてもいいようにぼかして書いたし、うまく行くといいわね」

「アーネスト殿下が敵に回られない事を願うばかりです」


 次に、ケイトリンデは公爵令嬢のエリーザあてにも手紙を送っていた。

 内容は、ちょっとした恋愛の助言である。


 その助言により、エリーザは積極的にアーネストと会話するようになる。


 やがて笑顔を見せるようになった王子の姿に、王妃と側仕え達は大層喜んだ。

「見て。エリーザのおかげで、アーネストがあんなに明るくなって……!」

「はい! 誠によろしゅうございました」



 ◇ ◇ ◇



 アーネストは、ケイトリンデの手紙とエリーザへの助言からある判断を下した。

 あの侯爵令嬢は敵ではない、と。


 アーネストの本音としては、能力者は怖いし痛い事に巻き込まれたくもない。

 ただ、王国が平穏であればいい。


 そのために空いた時間に城内を歩きつつ、効果時間5時間・半径5メートルの、能力妨害の効果を振りまいているにすぎない。

 

 だが発動条件が「他人に『面白い』と告げる」というのが困りものだ。

 独り言や、動物や無生物に向かって話しても効果がない。

 相手を選ばずに面白いと言い続けるのも辛くなり、最近は気分が滅入っていた。

 

 今回のエリーザの件で自然に発動できるようになり、大変助かった。

 エリーザがいない時でも「彼女の話は面白い」と他人に話すだけでいいのだ。


 ちなみに能力者を特定する能力は持っておらず、ケイトリンデに鎌をかけたら、たまたま当たっただけである。


 別れを呼ぶ令嬢という二つ名の持ち主は、やはり普通ではなかった。


(まさかエリーザに元気がなかった理由が俺だったとは……。ケイトリンデ嬢には借りが出来てしまったな。後で礼を言っておこう)



 アーネストが考え事をしていると、隣を歩く婚約者が不思議そうにしていた。

 

「どうかなさいましたか? アーネスト様」

「何でもない。エリーザには、いつも感謝している。ありがとう」

「まあ…そんな。お役に立てて嬉しいです」


 金髪の美しい少女はぽっと顔を赤らめ、今日も面白い話をしてくれる。


「アーネスト様。猫が寝込んで、お布団がふっ飛んだそうです!」

「ふっ、面白い女だ」


 一生懸命に慣れないダジャレを言う彼女が可愛くて、王子は思わず微笑んだ。




これにて円満解決です!!(たぶん)

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