俺はチート主人公じゃない!
なんか、追放もの流行ってますね。
なんか、俺、転生したみたいよ?
俺は、まあ、普通に……、現代日本の史学部の院生だった、爽やかな好青年だったのだが。
冬、インフルエンザ、一人暮らし……。あまりの高熱で起き上がることもできず、救急車も呼べず、意識が遠くなり……。
二度と目覚めることはなかった。
そんなこんなで死んでしまった俺。
だが、あるはずのない二回目の目覚め。
目を覚ましたら、なんかよく分からん世界に生まれ変わっていた。
生まれた瞬間に言われた言葉はこう。
……『おお!生まれたか!しかも男児だ!我がバスカヴィル公爵家の嫡男、後継が!よし!名を、ヴァイズ・アガイオン・エル・バスカヴィルとするっ!!!』
俺は一瞬混乱の極みに陥ったが、その言葉を聞いて三十秒もすれば、こう思った。
……「ばぶー(あっ!これ、なろうゼミでやったところだ!!!)」
と……。
必ず、『剣聖』のスキルを継承する、バスカヴィル公爵家の嫡男、後継。
公爵家の長男。
つまり、勝ち組だ!
乳幼児の頃は、「ひょっとして小国の公爵家なのでは?」などと不安になっていたが、五歳にもなれば色々と情報は入ってくる。
曰く、世界一の巨大帝国だと。
帝国、皇帝と言うのは、複数の国……、王を束ねる存在。
王の中の王ってことだ。
そして、ウチ、バスカヴィル公爵家は、皇帝陛下と親戚関係にある上に、巨大な公国を一つ持ち、皇帝陛下と最も近しいと言われる権力を持つ大貴族だと。
親父は、皇帝陛下の親友にして、皇帝陛下を守護する『帝国の剣』と呼ばれる剣聖であると。
つまり、世界一の大帝国、そのナンバーツーの貴族様。
親父にねだって宝物庫を見せてもらったが……、宝物庫だけで建物が三つ四つあった。
お小遣いちょーだい!とねだれば、金貨で丸々太った革袋を、両手にいっぱい持たせてくれた。
……後で知ったのだが、俺のお小遣いは、一ヶ月分で庶民の年収十年分に匹敵するそうだ。五歳の時点で、だ。これから更に増額する。
しかしまあ、この国は、下水道もなく、飯も不味いし、農業も未発達であった。
一応、史学部の端くれとして意見を言わせてもらうが、全体的に文明レベルは中世でも前期の方と見た。
なるほど、そう言うことか。
俺は主人公である。
そして、この世界は、「内政モノ」である。
多分これから、俺……、主人公のヴァイズ少年は、ノーフォーク農法、複式簿記、下水道の整備、料理の革命などをして、出世街道を駆け抜けるのであろう。
良いじゃないか、やってやろう。
だがまあ、焦らない焦らない。
いきなり五歳児がペラペラ凄いこと言い始めたら怖いもんな、しばらくは猫を被るぞ。
剣術の稽古と魔法の稽古、それと内政の勉強をしなきゃなあ!!!
さて、十五歳。
成人の日だ。
この日、全ての人々は、教会に行ってスキルを授かるらしい。
初めて聞いたときは、「あ、そっち系か」と思ったが……。
ここで、俺は、バスカヴィル公爵家に相応しい『剣聖』のスキルを得られなければ、多分追放されるやつだろうな。
そうなると、許嫁の第三皇女、伯爵家の一人娘、お手つきのメイドの三人のヒロインと離れ離れだ。
え?
そりゃ十五歳にもなればまあ、ヒロインもできるだろ。
だって俺、なろう主人公様だぜ?
ヒロインの二人や三人、侍らせるのは義務だろ?
美少女姫のルナ、ツインテツンデレロリ系お嬢様のヒーリア、おっとりボインメイドのアンナ。
この子達は俺のもんだ!
さあ、正念場だ。
ここで剣聖スキルを引かなくては、ヒロインは取り上げられて、今まで必死にやってきた稽古や勉強も無駄になる!
……まあ、万が一追放されても良いように、お小遣いを貯金してあるから、庶民レベルの生活ならば、一生分の金はあるのだが。
「むむっ!見えました!ヴァイズ様のスキルは……!こ、これはっ!」
禿頭の大司教が目をひん剥いた。
「どうだ?!剣聖か?!」
親父が身を乗り出して、大司教に尋ねた。
「いえ、剣聖ではございません!!!」
はいっ!
お疲れっしたーーーっ!!!
もー良いです、消えます!
追放されます!!!
あークソ、ちくしょー!
死ね、神!
「剣聖ではありませんが……、剣聖以上の剣術、賢者以上の魔法を使いこなす、史上最強のスキル、『天帝』ですっ!!!!」
……は?
「なあっ?!!!なんだとっ!!!」
親父が叫んだ。
人々の声が聞こえてくる。
「何だって?!!」
「天帝だと?!!」
「あの、初代皇帝と同じ、最強スキルか!!!」
おおーっとぉ?
これは、逆転勝ち組ルート!!!
びっくりさせんなよもー!
やっぱり俺はチート主人公なんだね!
ありがとう神!
愛してるぜ!
そして俺は、最大級の称賛の声を浴びせられ、親父から、「お前が息子でよかった、私の誇りだ!」などと言われながらハグされて……。
「凄いです!ヴァイズ君!流石私の未来の旦那様ですねっ!」
「す、凄いじゃない……!ま、まあ、それくらいじゃないとこの私とは釣り合わないわねっ!」
「ああ、ヴァイズ様!わたくしはもう、胸がいっぱいです!」
ヒロインに褒められて……。
次は、俺のヒロインである三人娘のスキル鑑定が始まった。
ははは、まあ、弱いスキルでもヒロインちゃんは守ってあげるからさ!
『天帝』のこの俺がね!
まあ、あからさまなクソスキルでもない限り追放とかはされないだろうしな!
いやー!人生バラ色!
素晴らしいっ!
えーと、金髪美女第三皇女のルナは、多分、魔法使い系のスキルだろうな。
親が魔法使い系って言ってたし。
んでもって、ツインテツンデレロリ体型伯爵令嬢のヒーリアは、魔法剣士系のスキル。
親父が魔法剣士らしい。
それで、おっとりボインメイドのアンナは、メイド系のスキルだろう。
アンナの父親は、うちの執事だからな。
まあ、俺が神スキルで、ヒロインがクソスキルとか、そんなルートはあり得ねーって!
まあ見てな!
「は……?ええと、ルナ様のスキルは、その……、『村づくり』です」
は?
「えーと、その、ヒーリア様のスキルは、『ネットスーパー』です」
はあ????
「あー……、アンナさんのスキルは、『チートコード編纂』です」
はああああああ????????
なーーーんだそりゃ!!!!
「村づくり?ネットスーパー?チートコード?聞いたことのないスキルだな」
「ひょっとして、ゴミスキルなんじゃ……?」
「第三皇女と伯爵家が……?これは追放だな」
青い顔をして下を向くヒロイン三人。
ちょっと待て、一言いいか?
なーんで君達が俺を差し置いてチートスキルを持ってるんですかね?!
えっ、これは……、あれか?
俺、ひょっとして主人公じゃなかった?
……追放された女の子がやがて俺に復讐、とか?
………………。
しゃ、洒落にならん!!!
「どんなスキルが使って見せよ!」
皇帝陛下、ヒーリアの親、アンナの親が言った。
「え、ええと、『ここには村を作れません』と表示されて……」
「え、あ、その、『お買い物ポイントが足りません』って……」
「『HP無限』と言うのを使ったのですが、何も変わらなくて……!」
そりゃそうだよなあ!
ここには建物があるから、村は作れない。
ネットスーパー系はお金をスーパーの代金にする必要があるだろう。
HP無限になっても、目に見えた変化はないはずだ。
だが、そんなことはお構いなしに話は進む。
「「「……追放だ!出て行けっ!!!」」」
ま、待て、頼む、やめろ!
チートスキル持ち三人を敵に回すのはやめろ!
そんなん、元許婚の俺に復讐しにくるやつになる系のアレだろ!!!!
ばーかばーか!!!
皇帝のアホー!!!
三人のヒロインちゃんは、真っ青になって下を向き涙を溢す。
しゃーねーな!!!
もう、しゃーねーよ!!!
「待たれよっ!!!!」
俺は声を張り上げた。
「この三人は私の愛する人だ!スキルなど関係ない!!!」
「ヴァイズ君……!」「ヴァイズっ!」「ヴァイズ様っ……!」
三人はこちらを向いて、縋るような顔をした。
「ヴァイズ!『天帝』のお前が、ゴミスキル持ちを愛するなどと!」
親父が目を白黒させた。
この世界の価値観では、あり得ないことなんだろうな。
でも……。
「黙れっ!父上といえど、私の愛する人々を蔑むことは許さんっ!三人が追放されるならば、この私も共に追放されよう!!!」
そっちの方が勝ち組だもんね!!!!
そんなこんなで追放された俺と三人のヒロインちゃん。
「ヴァイズ君……、本当に良かったの?貴方なら、そのスキルで、皇帝の座をも狙えていたかもしれないのに……」
「そ、そうよ……、私みたいなゴミスキル持ちなんて、見捨てれば良かったのよ!!!」
「ヴァイズ様……、すいません、すいません!私みたいなもののために、辺境へ追放など……!!!」
そう言って、ぺんぺん草一本も生えない辺境の地、帝国最北端の『エンドランド』に追放された俺とヒロインちゃん。
食料などの資材は、四人で一ヶ月分。
どうするの?
どん詰まり?
って感じなのだろうが……。
「ルナ、村づくりスキルを使ってみてくれ」
「えっ……?でも、私のスキルは……」
「頼む、俺の予想が正しければ、君達のスキルは最強なんだ!」
「……わかり、ました」
そう言って、村づくりスキルを発動させるルナ。
「……あっ!ここでは村を作れるみたいです!住民一人につき、一日で10ずつ増える村ポイントが、最初から500あって!100で家と畑を、50で井戸を、80で蔵を作れると!」
「全部ひとつずつ作ってくれるか?」
「はいっ!」
すると、何もないところに家や畑が!
「こ、これは……!」
「君のスキルは村づくり、何もないところに、家や畑を出すスキルだよ」
「……良かった!私は、ヴァイズ君の役に立てるのですね!」
次は、ヒーリアのネットスーパー。
「ヒーリア、この金貨を握って、お買い物ポイントに変換してみてくれないか?」
「えっ……?よく分からないけど、こうかしら?」
すると、ヒーリアの掌の上にある金貨が、光の粒子になって消える。
そして……。
「あっ……!買えた!」
そう言うと、ヒーリアの手元に、クッキーの詰め合わせが落ちてきた。
「ヒーリア、君のネットスーパーは、お金をお買い物ポイントに変換して、それでいつでもどこでも買い物ができる、と言うスキルだと思う」
「うんっ、うんっ!私、スキルが使えたっ!ありがとう、ヴァイズ!」
そして最後、アンナ。
「アンナ、俺に『HP無限』を付与することはできるか?」
「えっと、はい、できました」
俺は、腰にぶら下げた太刀と小太刀のうち、小太刀を抜く。
え?ああ、子飼いのドワーフに作らせた。なろう主人公といえばやはりサムライソードなのだ。
そして、俺は、小太刀で掌を斬る。
「ヴァイズ様、何をっ?!」
だが、HP無限の俺の身体には、傷がついても超速再生するようだ。
「え?!傷がすぐに消えてしまいました!」
「HPとは、古い言葉で生命力を表す。生命力が無限になれば、理論上、生き物は死なない。アンナ、君のチートコードは、世界の法則を書き換えるスキルだ」
「……ありがとうございます、ヴァイズ様っ!!」
その後も、俺は、チートスキル持ちのヒロインちゃん三人と上手くやりとりをして……。
「ヴァイズ坊!お前さんがおらんとつまらんぞい!お前さんの子飼いのドワーフ衆、全員集まった!」
「ヴァイズ様!私の料理道はヴァイズ様と共にっ!!!お願いします!新しい料理を教えてくださいっ!!!」
「ヴァイズ!俺様だよ!お前、新しい領を作ったんだってな!お前の親友にしてドラゴンスレイヤーの冒険者である俺様の力が欲しいんじゃねえか?!」
ガキの頃知り合った奴らが集まってきて……。
「「「「ヴァイズ帝国、万歳!!!!」」」」
どうしてこうなった!!!
いや、俺は確かに、上下水道や道路の整備などのインフラを整えて、世界各国にいる、行き場のない天才達を保護して、チートスキル持ちヒロイン三人に媚びてチートスキルを使ってもらっていただけだが?!!!
お、俺は何にもやってない!
チートなのは俺の嫁なんだ!
俺はチート主人公じゃない!
いかがでしたか?
新人物書きです!
(なろうでは)初めて書きました!
評価お願いします!