正しい答えって何?
いい香り。
メイド服の人が銀のトレーに乗せたものをお父様たちにテーブルに並べてる。
丁度じぃたちも帰ってきていた。
もう、お腹がペコペコだったのか、アーネちゃんは真っ先にその呼び声に応じていった。
「さぁ、私達も行きましょうか」
アーネちゃんのお母様が優しく微笑む。
「この話の続きがもし気になったのなら、また話してあげるわ」
私とお母様もお父様達の方へ向かった。
薔薇の話もっと聞きたかったのに。
お父様たちのテーブルにつくと、美味しそうな食事が並んでいる。
豪華な食事に、久しぶりの再会。
まるで大家族の様に食卓を囲んで、談話が弾んだ。
お父様たち大人の会話が始まると、私たちは相手にしてもらえないから、私はアーネちゃんと食事を楽しむ。
面倒を見てくれる爺も、この時は大人の会話のほうへ参加してしまう。
最初はこの時間ほどつまらない時は無いと思ったけど、今じゃ慣れたものね。
大人は大人、私たちは私たちで楽しんでいる事が普通になった。
お父様たちの会話にも耳を傾けたことはあるわ。
だけど、政治や深刻な話が多くて。
たまに、冗談言って笑い合ってるかと思うと、すぐにまた険しい顔になって話し出す。
まったく楽しくない会話だわ。
と、言いながら、結構無意識に耳にしていたりはするのだけど。
とにかくこの会話が始まりだすと私たちは蚊帳の外にされる。
「ところで、セバス。
実質、ノートリアム宮殿はどう出ると思う?
今や情勢はよろしくは無いのではないか?」
「えぇ、そのようでした。もし放っておけばいずれ落ちるのは時間の問題かと」
「やはりか。だが、あそこに目をつけられるのは、こちらの状況もまずくなるな」
「えぇ、ですから、ここはひとつ手を打っておくのが良いかと思われます」
「爺もそう思うか。」
「えぇ、いずれ動くでしょう。彼らの目的はさらなる領地の拡大。
ならば、あそこを支柱に納めない手は無いかと」
「この度の進軍はあちらも本気の沙汰である事は間違いない。
このままではいずれ彼らは大きくなる。
そうなればこちらも無事ではいられなくなるな。
なんと手を打たなけらば。
セバス、シチリアイの区域は。」
「何やら面白い事になっております」
「そうか、それはそれで手回しが上手くいっているという事か? 」
「えぇ、それ以上の結果になったかと。
しかし、今回の事といい、後ろで何か動いている気配があるかと。」
「どういうことだ? 」
「まず、第一にうまく行き過ぎている件、
そしてあまりにも事がスムーズすぎる。
それが誰で何なの陰謀なのかは、まだわかりかねてはおりますが、
この件、ただの事柄ですますのはいささか危険かと」
「ふむ。
アルスレット卿は今回の事、どう思われる。」
「爺。」
「はい。
これまで、私共も色々と情勢を嗅ぎまわっておりました。
そこである男の影を見つけたのですが……。 」
「その男とは? 」
「ローグ卿であります」
「ローグ卿だと?
なぜローグ卿が
何かの間違えではないのか?
ありえない。」
「我々も核心という確信はありませんが間違いないかと。
彼を度々目撃している声が多発しています。
事実、この爺もその場で彼の姿を見たとのこと。
であれば、一刻を争う話なのです。
もう一つ、気高き金の十字架を掲げた旗がありました。」
「何だと。」
「えぇ、聖教徒を束ねる集団信者の聖教者ダーヴィル候」
「聖教徒が絡むというのか。 この件には」
「こちらは間違いはないかと」
「そこでです。王、
こちらから仕掛けるべきです。
しかる準備を急いでしなければならいと私は言いに来ました」
やっぱり面白くない。
口に運びながらの会話は無くなり、みんな食べるのをやめて話しに夢中でいらっしゃる。
よくはわからなかったけれど、悩む王様にお父様はとても真剣な話をしていたみたい。
みんなでいる時ぐらい、もっと笑い合える楽しい会話の食事がしたいのに。
私はアーネちゃんと話そう。
割って入れる会話の雰囲気でもなさそうだもの。
私は大好物のアイリッシュシチュ―を口に注いだ。
これがとても美味しいの。
カレーを薄めたような味のスープで、瑞々しく口当たりもよく、中にはお野菜の具材がたくさん入っている。
香辛料にはタイムやパセリ、決め手の塩コショウにスープストックで煮たシチューよ。
人参に白菜キャベツ、ジャガイモにヤギ肉か角ウサギの肉、それから玉ねぎにターリップ。
特にアーネちゃん家のアイリッシュシチューは玉ねぎを煮詰めて甘くしてから切り刻んであるから、とてもこの甘さが少しスパイスの利いたシチューに溶け合うの。
勿論色んなバリエーションがあって、牛乳を入れたクリームシチュー風の味も最高なの。ミックスビーンズを入れたトマト味のものも。
お家によって本当にたくさんの味があるわ。
私はまた掬い上げたスプーンの上の白菜と肉を見ながら口に入れる。
んー、
とても幸せな味だわ。
それにしたって、このところ、この世界の感じは私でも何か、暗い雰囲気みたいなものを感じる。
少し怖い感じ。
まぁそれは、戦争と言うものをしているみたいだからなのだろうけれど。
だからアーネちゃんといてこの感覚を忘れたい。
アーネちゃんの方を見ると、よく食べておいででいらっしゃる。
とても気品のある姿でそこに座って食べるアーネちゃん。
という訳ではなく、凄まじい勢いで食べ物が無くなっていく。
そういえば私たちがもっと小さかった頃もこんなだったわ。
まだ使い慣れていないスプーンやフォークを、習ってはいても、直感で使ってるから、食べ物が手元に沢山転がっているの。
私も、お母様たちから食事のマナーを習っていて、そのおかげで上手に使える様になったけど、アーネの机は、それはそれは、素晴らしかったわ。
横にいた王様とお妃様はとても焦っていて、挙句の果てには止まらないから、もう二人とも苦笑いして、事を済ましていたわね。
それにふふっ、とても美味しかったのかしら。
口の周りにはデミグラスソースなんかとかがはみ出して、口紅の様にこびりついているし。
私は手を伸ばしてアーネの口を吹いてあげるの。
ちらっっとまたアーネを見ると、ほんと昔と変わらない姿がそこにあるわ。
食べこぼしは無くなったみたいだけど。
口の周りにはまだ、口紅をつけている。
ほんと、見ていていこちらが幸せになる様な食いっぷりね。
アーネは幸せそうにご飯をほおばっていた。
は――、 私はお腹もいっぱいになってきたから、フルーツでも食べようかしら。
フルーツの盛り合わせが目に入ったからそこからマスカットを取って食べる。
それから輪切りに薄く切られたキュウイ。
「ねーねー、ターニャ」
裾をひっぱられ私はアーネを見る
キュウイを口に入れようとした手が止まる。
「あっち行こー」
どうやら食べ終わったみたい。食べ終わったら、じっとしてるのが飽きたのかしら。
私まだフルーツをもう少し召し上がりたかったのだけれど、仕方がないわね。
「えぇ、ではお花の王冠を作るのに、またお花を摘みにいきましょ」
「うん、えへへへへへへっ」
アーネはとてもうれしそうに喜んで私を引っ張っていく。
ちょっと疲れてきていたけど、その元気と愛嬌に私は引っ張られていった。
「このお花にしましょう」
「ねぇ、アーネちゃん……
これはちょっとさすがにまずいんじゃないかしら――」
私たちは綺麗な花が沢山咲いている場所に来ている。
どれもこれもしっかりと育てられ、その美しさを魅せている。
その花はアーネちゃん家の庭に咲く花たちだ。
流石の私でもその大事に育てられた花たちを摘んでいくのは、この後怒られる映像しか目に映らない。
だからとても、止めたいのだけど
だって絶対、絶対、ぜーったい、怒られるもの。
あたりまえよ。
でも確かに美しい花ばかりだから。王冠にしたい気持ちはわからなくもないけれど、これはダメね。うん。絶対やっちゃダメ。
なんて言ってるうちに、アーネちゃんがそのうちの一本を摘みだして持って来た。
「はい」
と言って私に渡してくる。
……いや、……受け取れないわ。
「ちょっ、って、ダメよ。アーネちゃん、 」
「え、どうして。
これはみんな家の物よ。
だからターニャも一緒に取ろうー
私が良いって言ってるんだし大丈夫だよ」
あどけなく笑う、楽しそうなアーネ。
いやいや、このままお庭を荒らしてしまって、それまたそこを、お母様たちに見られたりでもしたら、――
なんて恐ろしいこと。
早く止めさせなければ。
でも、確かに、ここのお庭はアーネちゃん家のお庭ではあるのよね。
そのお庭に植えてあるのもアーネちゃん家のお花なんだから、摘んだって泥棒ってわけでもないし、おかしなことでもないわよね?
だったら摘んでもいいのかしら。
以外にアーネちゃんのお母様たちも素敵ねって喜んでくれたりして……
――――――――――――――――――――。
なんてこと、あるわけ無いない。
「まって、アーネちゃん」
ちょっと本当に待って、止めて止めて、
丁度止めようとしたところをお庭に出ていたひとりのメイドに見つかった。
メイドはアーネに止めるように言い利かせた。
流石ここのメイドさんはアーネを従わせるのが上手ね。
なんて感心していると、お母様達に報告しに行った。
終わったわ。
最悪ね。
もう怒られる覚悟はできているわ。何でも来い。
と思った矢先に視線が飛んで来て、すぐさま、お母様たちの姿が見えた。
私の母とアーネちゃんのお母様の姿がだんだんと大きくなってくる。
「貴女たち、」
はい。来た。
「お庭の花は摘んでもいいけれど、それぞれ一本ずつくらいにしてね。
これでもちゃんと毎日手入れしているお庭だから、ぐちゃぐちゃにしては欲しくないの。
いい? お庭だけは荒らさないって言うのなら、少しだけここのお花を摘んでもいいわよ。
特に、わかったわね。アーネ!
約束よ。 」
あれ?怒られない?
おかしい、怒られると思ったのだけれど。
ふぅ、よかったわ。
なんだか肩の荷がすっかり下りた。
私たちはアーネちゃんのお母様と約束してお庭の花を少し摘む事にした。
と言っても抜いていいのは少しだけなので、慎重に選ぼう。
あんまり抜きすぎると、後で怒られるかもしれないわ。
「アーネ。お花は慎重に選ぼう?
じゃないとまたやばい事になるわ
さぁ、選別の開始ね」
「そうだね。ターニャちゃん
よぉーし、いっくよぉー」
あれが良い、これはどうかしら? と、お庭の綺麗な花を一本ずつ集めていった。
この花と、これは止めておいて、あっこれなんかいいわね、
あれっ………。
あの青い薔薇が目に飛び込んできた。
あの薔薇……。
私は、他の花から目が離れ、青い薔薇の方へと知らないうちに、足が私を運んでいた。
とてもきれい。欲しい――
私は知らないうちに美しく咲く、青い薔薇の一つに手をかけていてた。
思い切り机を叩く音がこちらまで響く―――――。
「だからそうではないと言っているのだ。
陛下、今やらなければ、ここが落とされますぞ。」
「しかし私は無益な戦いなど望んではおらん」
「あなたの守りたいものまで、失うことになるのですよ」
向こうはすごく盛り上がってるのね。
あまりの大きな怒声に私はびっくりして手を引いた。
その瞬間だった。
痛っ!!
私の手から血が出ていて、それにびっくりして大きな声を上げてしまった。
横にアーネがいて、その声にびっくりしたのか、私の手から流れ出る血を見て、慌てていた。
「大丈夫?! ターニャちゃん! 痛そう。ちょっと待ってて」
慌ててお母様たちの方へ知らせに行った。
大丈夫なんだけど。
そういえば良く二人で怪我し回ってたことを思い出した。
「ママ―、ママー大変なの、ターニャちゃんが、ターニャちゃんがー」
その欠相を掻いた表情に、深刻そうにみんなが飛んできた。
止めて恥ずかしいわ……
「どうしたのティターナ!」
「なんでもありませんわ。
少し足をすりむいてしまって」
「見せてみて。
あらあら大変」
その後、アーネちゃん家で怪我をすると、良くアーネのお母さんが奥に連れて行って、私を手当てしてくれた。
お妃様に手を引かれて行くと、アーネちゃんが横に並んで一緒について来る。
「アーネあなたはいいのよ。あっちで遊んでらっしゃい」
「嫌だ、私もいく」
そういって私の服をつかみながら歩く。
「アーネ。邪魔になるでしょ」
それでも、付いて来ようとするアーネちゃん。
とても申し訳なさそうな顔をしているの。
別にアーネちゃんのせいではないのに。
「もう、この子ったら。
ごめんねターニャちゃん。
言う事聞かなくて。
本当にこの子ターニャちゃんが好きで」
「いいえ。お気になさらいでください。
私もアーネちゃんと居るのが、一番好きですから」
アーネちゃんに笑顔を向ける
「一緒についてきてくれるかな? アーネちゃん」
「うん」
「よかったわねアーネ。
ありがとうねターニャちゃん。
アーネ、邪魔にならないようにしてなさいよ」
あの頃と似ているわ。いいえ、同じね。
またしても、みんなが駆け寄ってきた。あんなに白熱したように話していたお父様たちも、話を止めて。
「ごめんなさいお母様、少し手をを切ってしまっただけですわ。まったくなんと もありません。
大丈夫です」
一同がほっとした。
「何事も無くて良かった」
「良くないよ、お父さん!
ターニャちゃんが、血が出てるんだよ。
何とかしてあげて」
本当にアーネは大げさね。
全然大丈夫なんだけれど
それにしたって、みんなで駆け寄ってきてくれるんだもの。
とても迷惑かけちゃって。
もう、この件は終わりにしてほしいわ。
「どれ、見せてみないさい」
お母様が手を取ると傷口を見て、ハンカチを当てる。
「ねぇ、ちょっと私にも見せて」
アーネちゃんのお母様まで顔を近づけてくる。
「あら、ちょっと傷が深いわね。大変。
これはしばらく血が流れるかも。
ちょっと向こうの部屋で治療しましょうか。
きてターニャちゃん。」
優しい笑顔を向けてくれる。
女神様ってこの人みたいな人の事を言うのかしら。
「いいえ、そんな。大丈夫ですわ。
このような傷でしたら、ティターナはよくつけて帰ってきますし。
ほんと、女の子なのにおてんばで」
「そんな事ありませんわ。
きっとアーネがまたターニャちゃんに無理を言ったのでしょう。
それに、こんなキレイな手に傷が残ったら大変ですから」
「そんな、ご迷惑なことは」
「大丈夫ですの。お気になさらないで。
このような棘のある薔薇に子供たちを近づけてしまった私の責任でもありますから」
「王妃様、私めがやりますので王妃様は」
「いいの、私にやらせてください。
ティターナちゃんには大変お世話になっているのだから。
少しでもお礼がしたいの」
ここのメイドさんも、私を治療をすると言い出した。
「しかし王妃」
「これは命令です。
それにゆっくりターニャちゃんともお話できてないから。
いい機会なの」
お妃様の優しい微笑みに誰も反論しなくなった。
「王妃様、申し訳ございません」
「滅相もないことでございます。誤らないでください。
さぁ、行きましょう」
「ターニャをお願いしますわ」
「任せてください。」
そうお母様に小さくこぶしを握り、 私を引っ張っていった。
こういう所はアーネに似ているわね…。
「王妃様。本当に私……」
「ターニャちゃんまで、いいのよ、そんな事気にしなくて。
それよりも女性のお肌は大切よ。
ちゃんと治療しないと」
「私も行く! 」
アーネが走って追いかけてくる。
そのまま私の横に並んだ。
これも前と一緒。何も変わっていない。何かあればアーネは付いて来た。
もし、変ったとしたら、アーネがついて来る位置が横だったり、後ろだったりそれぐらい。
そう、あれも、確かこんな感じで、お城の中に向かっていった時の事。
庭を出てお屋敷の中の一部屋に入った。
「ターニャちゃんはそこに掛けて、
ちょっと待っててね」
アーネちゃんのお母様が、薬の入った瓶と、大きな箱を持ってきて横に座る。
とてもふかふかの赤い布のソファは、私の体を優しく包んでくれているような座り心地だった。
「じゃあ、ちょっと捲るわよ」
声が出そうなくらい、痛い。
その声を何とか押し殺した。
「あらあら、すごく擦れちゃってるわね。
痛いわよね。
ひどい傷、たぶん、大分沁みるけど我慢してね」
私の膝に絹を当て、瓶に入った透明な液体を流し出した。
焼けるような痛みに私は涙を零した。
アーネはそれを心配そうに見ていた。
「アーネちゃん、大丈夫だから」
痛みをこらえる私の表情を見たからなのか、
居ても立っても居られないように、涙ぐみながらアーネが私に抱き着いてきた。
「こらっ!アーネ
邪魔しないって約束したでしょう」
アーネちゃんはびっくりして思い出しように私から離れた。
「ごめんなさいターニャちゃん」
アーネちゃんのお母様は申し合わなさそうに謝ってきた。
「そんな、大丈夫です」
なんて言いながら痛みをこらえていた想い出。
お互い沢山転びまくって、沢山よじ登って、木に登って。
うう、女性としては恥ずかしい行動よね。
そうして今、前と変わりのない、医務室みたいな部屋に私はいる。
あの時と同じように赤いソファーに座って。
全く一緒。
「さっ、見せてみて。
もう、ターニャちゃんを応急措置するのは慣れたものよ。
あらー、にしても強く切れたわね。
結構傷が深いわ。
ちょっと痛いわよ。
我慢してね」
そういうと
手に衝撃が一瞬走った。
「よし抜けたわ。
後は引いた時に切れたこの切り傷ね。
ちょっと今度はしみるわよ」
真っ白なガーゼに透明な液体をつけて私の傷口に抑え込んだ
それがとても沁みて私は顔をゆがめた。
ガッシャン―――――
ガラスが割れる音。
「ふぅぇ~、 割っちゃったー。
びしょ濡れだよぉ」
「もう、アーネ! 何やってるの! 」
「ごめんなさい」
ほんとお転婆さん、と言うか天然なのか。
何で今このタイミングで瓶を割るの?
もう笑えて来るわ。
優しい笑顔で話けてくる王妃。
「痛くない?大丈夫? 」
「これくらい平気ですわ」
嘘。ほんとは痛い。早く終わってほしいのが本音。
やっぱり、優しい人に触られてるとはいえ、傷口があるところを触られているのは痛い。
「ターニャちゃん。
本当にいつもアーネをありがとう。
とても感謝しているわ。
感謝してもしきれないほど。
ターニャちゃんにはいつも沢山迷惑かけてると思う。
ほんとうにごめんなさいね。
だから、大変だったら言ってね
アーネったらあなたと会える前の日はいつも元気になって、朝もいつも以上に早起きするのよ。
よっぽど会えるのがうれしいのね。貴女が帰った後も、ずっとターニャちゃんの話ばかり。
あんなに燥いでいるあの子の姿を見れるのは、あなたのおかげよ。
あの子、外に出ると、こことは打って違って、控えめになるし。
それもあって、あの子には友達も少ないと思うわ。
だから、迷惑でなければ、これからもアーネと仲良くしてあげてほしいの」
「そんなの、決まっています。私もアーネちゃんと会えるのが一番うれしいんですもの。
こちらこそ、ずっと仲良くしてほしいぐらいです。
こんな素敵な子、嫌いになんてなるものですか」
「ありがとうターニャちゃん」
こっちこそアーネちゃんとは仲良くしていたい。家族も同然なのだから。
「良し。これでおしまい!
よく頑張ったわね」
気が付くと、私の指には包帯がまかれていて、そこで終わっていればいいものを、腕にまで一繋ぎにして伸びていた。
それはそれは丁寧に。とてもきれいに。
確かに腕にも、驚いて手を引いた時に、何個か薄く擦り傷ができたけど、ここまで大げさにされるほどの傷でもないわ。
これじゃすごく大けがを負って帰ってきた人みたい。
と言うか、一つの包帯で、全部の箇所を撒く必要はないと思うのよね。
普通の処置では終わらないとは思っていたけれど、これはちょっと、重傷者すぎない?
そんな姿になってしまった私がまた何故だか笑えて来てしまうわ。
アーネちゃんの家族、心配性で一人一人をとても大切にしてくださる家族。
いい人たちばかり。アーネちゃんもこんな両親の下に生まれて幸せよね。
もちろん私のお母様たちも負けてないけれどね!
みんな私の大事な人よ。
「もう、横に座ってもいい? 」
「えぇ、いいわよ。でも、ターニャちゃん怪我してるんだからね。
変な事したら承知しないわよ」
「怖いわよ、お母様」
薬品をもの不思議そうに見ていたアーネちゃんが横に座る。
「ねぇ?大丈夫?もう痛くない?」
「うん。大丈夫よ心配してくれてありがとう」
「よかったー」
嬉しそうに思いっきり抱き着いてきた
痛いわ……
アーネちゃん、それが痛いことよ。
痛いけど、でもそれ以上に温もりを感じる。優しい温もり。
あと、脇腹辺りが少し冷たい……。
「あぁ、そうだ、ねぇ聞いてほしいの」
「どうしたの?」
「アーネちゃんのお母さんもいいですか? 」
「えぇ、何かしら」
私はアーネちゃんのお母さんなら、昨日うちのお父様たちがとった、町の人たちへの行動を、どう思うかとても聞いてみたくなった。
だってあんな酷いこと。私は今でも良くないと思って引っ掛かっているから。
他の人の意見を聞くのはとても大切だと思うの。
特にこの人の意見は。誰よりも人を大切に思うアーネちゃんのお母さんだからこそ、参考にしたいと思った。
「でね、話も聞かないで見捨てて行ったの。
それってとても酷い事だと思うわ」
アーネちゃんのお母様は黙って真剣に聞いてくれているみたいだった。
「そうね。確かにターニャちゃんの言う通りね
それはとても酷いわ。
困っている人には手を差し伸べてあげるべきだわ」
やっぱり! そうよね。私のこの思いは間違ってないんだわ。
「でもね、もしその人たちを助けようとしていたら、ターニャちゃんたちはここには辿りつけていなかったと思うわ」
えっ?どういう事?
「もしかしたらこの世にいなくなっていたかもしれない。
お父様もお母様もみんな大切な人を守ろうとしたからそうなってしまったと言ところかしら」
どういう事?まさかこの人もお父様たちが正しいというの?
だったら私にはわからない。私のこの思いはよくないものなのかしら。
ううん、絶対そんなことない。と、思うんだけど。
「ターニャちゃんはとても優しい子だかさ、純粋なターニャちゃんにはまだ難しいのかもしれないわ」
優しく笑うアーネちゃんのお母様。
「でも危ない目に逢ってほしく無いから言うとね、
人間は欲深い生き物なの。 その人たちはきっとお金になるものが欲しかった。
自分の生活を少しでも良くするためにね 」
「それは私たちも、みんなも同じよね?」
「そうね。同じこと。
だけどそこに自分だけ、が入ってくると他の人はどうでも良くなってしまうの。
見栄えなくやってしまう事はダメな事よ。
でもそれが人。自分の事だけしか考えなくなる。
人はね、いつしか選択を迫られていくの。
もしターニャちゃんが大事なもの二つのうち一つしか持っていけないのだとしたらどうする? 」
私なら、
「きっと大事な方を持っていくと思います」
「そうよね。大事なものは人それぞれ違うから天秤にかけるしかないの。
どちらも手に入れることは私たち人には与えられていないみたい。
そうなると結果ね。その行為は、例え望んでいなくても、誰かの幸せを奪っちゃう事になるの」
「奪う?それは良くない事だわ。
でもどうしてそうなるしかないの?他に方法は無いの?
それじゃあ必ず不幸な人が生まれるってこと?
みんなが楽しく暮らせて、幸せでいれる事はできないの?」
「そうね、この世界はみんなが一緒ではないわ。
だからみんなが一緒になるように、平和になれるように頑張ってるの」
そんなのってないわ。こんなに素敵な世界なのに。少なくとも私にはそんな苦痛は無かったわ。
「私にはこの世界がとても素敵に見えたわ。そんな酷いこともされていない。」
「そうね。こんな事言ったらターニャちゃんのお母さんたちに怒られちゃうかもだけど。
それはね、ターニャちゃんのご両親が、ターニャちゃんを守ってくれているから、見えないだけよ」
アーネちゃんはぽかんとしていた。
確かに私は両親に大切にされていて、守られている。だから、私にはわからないってことなの?
「今はいっぱい守られなさい。それでいいの。それがあなた達の務めよ。
そしてその優しさを世界に振りまいて欲しい。」
そういってアーネちゃんを大切そうに抱きかかえアーネちゃんのお母さんの膝の上に座らせる。
「いずれ、あなた達も学ばないといけない時が来る。それは人である以上逃れられない。必然とやって来るわ。
でもそれはもっともっと何年も先の話よ。
だから今はその優しい純粋な気持ちを消してしまわないように大切に育てていって欲しいの。」
いずれ消えてしまう?ってこと?
「みんながターニャちゃんみたいな優しい考えの人達だったらこの世界は平和で包まれていられるのにね。
さぁ、みんなが待っているから行きましょうか
薔薇には結構鋭い棘が無数にあるから近づくときには気を付けてね」
私たちは部屋を出て、お母様たちの元へ戻った。
「お母様」
「ティターナ。」
心配そうにお母様たちが待っていた。
すみません。お手数をおかけさせてしまいまして。」
「いえいえ、このような手当てしかしてあげられませんが」
「何をおっしゃいますか。本当にありがとうございます。
良かったわね、ティターナ」
「うん。」
私は満面の笑みで皆のぬくもりに感謝した。