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赤の書  作者: AIR
21/27

アングリア城を去る

「彼女なら、たぶん帰ってこないわ。きっと」



私は連れていかれた、ディアンカの事を悲しむレベッカに一言だけ声をかけた。


話したかったわけでもない。

特に何も思ってはいなかったが、なぜか、彼女の泣いている姿に声を掛けている自分がいた。




そう、ディアンカはもう戻ってこれないだろう。あそこに入れられるという事は、あの恐怖を植え付けられるという事だから。


いまだに私の心の中は恐怖だけが渦巻いて、それ以外が空っぽの様に何もない。

ただ、何も、考えられず、座っているだけしか考えられないのだ。



「ねぇ、どういう意味?

帰ってこれないってなんなの?

レベッカにいったい何をしているの?」



何をしてるの?

そんな事私は知らない。だって私は、今この房に入れられているのだから。


「貴方たちは何なの?

ディアンカを返して。

ディアンカに何かしたら、私絶対許さないから」


レべッカが強気で突っかかって来る。



私はまるで敵のような物言いだ。


きっとあいつらと一緒にいたからだろう。

何一つ逆らわず、従っていたから、仲間になったとでも思ったのだろうか。


でも、私に言われても困る。私は彼女には何もしてい無い。

私はただ言われた通りに動いただけで、あの恐怖を植え付けるのは選別人だ。


あれをこの子に伝えとしても、どう伝えられるのか。言葉にすることすら難しかった。



何と表現すればいいのか、何を言ったらいいのか、そもそも、思い出すことすらしたくはない。


そして、それよりも、私が伝えたことが、捻じれ曲がって、またミゲルの時の様に、ありもしない様に、奴らの耳に入る事を恐れた。



「貴方はなにも言わないのは、きっと私に言えないほどひどい事をディアンナにしているのね? 」



「…………」



「そうなんでしょ? 何とか言いなさいよ」



「………」



レベッカはしびれを切らしたのか、これ以上話しても無駄だと思ったのか、話しかけてこなくなった。



房は静かなまま時が流れていった。


とても気まずい。

誰とも話せないこの環境は何だか息苦しく感じてきた。




そんな最中、選別人が姿を見せた。


レベッカは降りてくる選別人の姿を見て、すぐさま立ち上がって、柵まで駆けた。



「ディアンカは?ディアンカはどうなっているの?


どうして戻ってこないの? 」


必死だ。



「大丈夫だよ、彼女は今色々勉強してる最中だからな。

どうしても、できるようにしてあげないといけないんだ。

それが彼女の為なんだ。



なぁ、ティターナ」



あいつは私に話を振ってきた。

まるで、お前はこの本当の意味が分かっているよな?と問いかける様に。


「はい。」


私が言える事はこれだけだ。



「ほんとうに、本当に酷い事していないのね?」



「あぁ、当たり前だろう。お前たちは

大切な売り物だ。大事にしない道理はないだろう」



ニヤッと嫌な笑みを向けて、あいつは去っていた。


「ディアンカに何かあったら絶対に許さないから」


私に睨みを聞かせて、彼女は横になった。



私は何もしていないのに。




2日ぐらいは立ったのだろうか。


ある日ディアンカが房に姿を現した。


その姿は見るに悍ましいほどに無数の傷と、血が流れて居た。


表情は痛みを堪えているのが伺える。

そして、従う事しか出来ないことを、悟されきったあの表情。私にはそれが痛いほどわかった。


ディアンカもきっと痛めつけられたのだろう。

だけど私とはまた違う痛めつけ方。

背中の裾野辺りからちらりと見える水膨れと痛々しい痕がそれを物語っていた。



ディアンカはみんなの夕食を持ってきたのだと言う。


それは、今までのディアンカとはまるで別人のように、礼儀正しく、みんなの前に、スープの入ったお皿をっ配っていった。


彼女は頭を床につけて一房、一房づつ回らさせられていた。


レッカはあまりの変わりようの姿に口を両手で抑えて仰天していた。


ふさがった瘡蓋が、何度も体を動かすことによって破れたのだろう、背中からディアンカの足を辿り、血が床に流れ落ちてくる。



「もう、止めさせて……。




止めさせてよ―!」




レべッカが怒りを露にして私を壁に押し付けた。


無意識に私は右手を庇ったが、その衝撃は私の背中を襲った。



「お願いよ、あなたなら、あの人たちと仲がいいんでしょ、


お願いだから、もう止めさせて。あんなの酷過ぎるわ。

人間がする事?


ディアンカがおかしくなっちゃう。


お願いだから、お願いだから、ディアンカを助けて。


お願い、お願い、お願いよ……」




彼女は最後には泣きじゃくりながらずるずると膝から崩れ落ちて行った。



私はそんな彼女を見ない様にする事しかできない。







「やめて、ディアンカもう止めて。

私も一緒に配るから、もう、動かないで」


レベッカは必死にディアンカに訴え続けていたが、ディアンカはまるで頭にも無いように、配り続けた。


「ディアンカ…、どうしちゃった、の?」



いつも必ずレベッカには答えてきたのだろう。

ディアンカの変わりように信じる事すらできないレベッカがいた。



全員に配り終わった後、私たちにディアンカは深く頭を下げた。


今までのディアンカなら決してしなかっただろう。

選別人はディアンカの頭をなで足を彼女の前に差し出した。


彼女は膝まづいて、選別人の靴を舐めていた。

そこに何の躊躇いも無く、慣れた様に、それはそれは丁寧に舐めていた。



レベッカにすればその姿はあまりにも強烈過ぎたのか、崩れたままぴたりとも動かなかった。


そして彼女は彼らと帰っていた。

配膳台を引いて。こちらには振り向く素振りすら、レベッカを見る事すらなかった。







「許さない、あなた達は何もしていないと言ったのに」



彼女はそう言って私を睨んだ。


私は、


どうすることもできないよ。




彼女はそれからずっと私を睨んできた。

最初はとても嫌だった。けど、何を言うの?何を言えばいいのだろう。



そうして、私たちの仲は変わらいまま、ディアンカがここを去る日が来た。



少し、綺麗な身形になっていた。着ている物は変わりなかったが、首には大きな鉄の首輪をつけられていた。


選別人は最後の計らいにとディアンカへの花向けとして房に挨拶させに来てやったのだと言う。


とても悪趣味だ。




ディアンカは泣きながらレベッカに謝っていた。


守れなくてごめんと。


そしてレベッカも涙して、謝った。助けてあげられなくてごめんなさい。と


そうしてディアンカは引っ張られながらここを去った。



その後の房の中はとても静かになっていた。


私の食べ物は私が注意していなければ、捨てられていたり、異物が混入ししたりしていた。


気まずいまま、私たちは相変わらず話すことは無く、そしていつしか、レべッカも売られて行ってしまった。


彼女は最後まで私を恨んでいった。





辺りを見ればもうここの房にはほとんど人がいなくなっていた。

わ他紙の腕もいつしか、ギブスが取れ、なんとか動くようになっていた。



そしてギブスがとれて、数日ごろだろうか、私の行先も決まったのだった。

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