擦り付け
「喜べ。
お前の飼い主が決まったぞ」
ミゲルは一瞬にして凍り付いた。
その言葉は周囲の空気をも凍らせた。
高揚する気持ちを、抑えて貯めて、貯めて、貯めて、一気にそれを味わう。
空腹の状態で御飯には手を出さず、あえて何も食べない。やがて空腹は極限状態までになるが、耐えて耐えて、自分の本当に好物が出た時にそれにありついた時の絶世の幸福感とこの世界で味わったことのないほどの美味に包まれる。そしてその気持ちの良い瞬間。
こいつは今それを味わっているような表情をしてミゲルに語る。
そしてミゲルは、
母親に会えるという期待感を、自分が一番恐れていた、売り飛ばされるというものに瞬時にして替えられ、幸福が絶望にかわったのだろう、目の色が消えた。
「嫌だ。
俺は絶対に行かない」
「おいおい、それは無理だ。今更いかないなんてないんだよ。
おい、さっさと連れ出せ。」
兵隊が、無理矢理ミゲルを連れ出そうとする。
ミゲルは必死で抵抗した。
房の檻を握って離さない。
「嫌だ、いやだ、どうして?
どうして俺が」
そう言いながら、泣き叫んで離さない。
しまいに、ミゲルは殴られ力の力量の前にとうとう連れ出されてしまった。
ミゲルはそれでも逃れようと必死にあがいていた。
もう見て居られない
「まって!」
私は叫んでいた
「もうやめて、」
「おやおや、どうしたもでしょうか」
「どうしてそんな酷い事をするの?」
「酷いこと?
私はあなた達に、ここから出れるように尽くしているんですよ」
「何を言っているの?
貴方たちは勝手にこの人たちを攫ってきて自分の為に売り飛ばしているんじゃない
これのどこが、この人たちの為なの! 」
「はぁ? 何を言っているのかよくわからんな
理解していないのは君たちの方だ。
君たちには希望があるんだ 」
希望ですって?
勝手に人を攫って閉じ込めておいて
「お前らみたいなものに、もう一度住む家ができたり、そして今よりも金のある場所へ、権力者のそばで生活できるんだ
お前らのやりたかった事が色々できる様になるんだぞ」
「そんなのは誰も求めてはいないわ
皆の事を思うのなら、みんなをここから出して、返して!
それが一番よ」
選別人は髭を伸ばすように触った
「ふむ、ではお前さんは、ここから出してやったとして帰る場所はあるのかね? 」
「そ、それは、」
「家族や、両親。待っている人がいるのならいいが、ほとんどのものがそれを失ったのではないか? 」
否定はできない。確かに私の両親は死んだ。
私の目の前で、残酷に。
家に帰ることもできない。
「だけど、そうじゃない人もいるわ」
「それはない」
急に選別人が言葉を返した。
「今、外は戦争中だ。どこの場所でも攻め合っている。国と国が殺し合いをしてるんだ。
そんな中でお前たちが平和に暮らせる場所などが理想郷だ
「なぁ、聞いてくれ」
ミゲルが話し出した。
「俺は、ここを逃げ出そうとしている奴を知っている。
そいつは、この城の事を良く知っていて、頭がすごく切れるんだ
そしてここを今にも抜け出すそうとしている奴を」
「ほう、それは興味深い話だな」
え?何を言っているの。
ミゲル?
「だから、俺を母さんの下に返してくれ。
そうしてくれるなら俺はそいつを教える。
だから連れて行くのを止めてくれ」
それはミゲルの交渉だった。
何を考えているのミゲル?
何か策でもあるのかしら
「で、そいつは誰なんだ?
教えてくれたら、お前を連れて行くのは止めて、お前の母親の元へ返してやろう
それでいいか?」
「本当か?絶対嘘じゃないんだな?本当になんだな」
「あぁ、男に二言は無い。
わしは言った事は守る。
それに、そいつの方が興味深い。
そいつを痛めつけて殺してやろう」
「わ、わかった」
「良し。成立だ。
よく聞け、そんな愚かな事を考えちゃいかん。
これでわかっただろう。
ここから逃げ出そうなんて浅はかな考えは止めねばならんと。
逃げ出すことなど不可能なのだから。
そして覚悟して置け。今からそいつには、酷く苦痛を味合わせてやろう。
そいつの脳裏に刻見込んで理解させてやらねばならない。」
誰もが息を呑んだ。いったい誰の事を言っているのだと。
だけどそんな話をしていたのは私とミゲルだけ。
この話の登場人物で思い当たる節は私だけ。
だからこそ私の心臓は張り裂けそうになっていた。
え、嘘よね。私を指すつもり、じゃないわよね?
止めて。お願い神様。
どれだけ恐ろしい事をされるのだろう。
想像しただけで怖い。
ここにいた時から、罰として、傷だらけにされる人、足を切り落とされた人、痛めつけられ、泣いている人を沢山見せられてきたた。
だからこそ、捕まった後の恐怖が連想する。
あいつの言い方はまさにそうして、殺すまで言っている。
言いなりにしかなれない私たちには、見せられてきた恐怖が焼き付いて離れない。
そんなの誰だってされたくない。
みんなが房の中で震えあがっている、そんな空気がこの場所には漂っている
「さぁ、そいつを教えろ。誰だ
指をさせ」
兵隊の方に担がれたままミゲルはゆっくりと顔を上げて指をさした。
その目はすでに死んでいた。
「あいつだ」
嘘でしょ?
私――――――。
その指は真直ぐ私を指していた。
「ふぅむ。お前か」
選別人が鋭い眼光も向けてくる。
そして連れていた兵隊に耳打ちをして、こちらに兵隊たちがやって来って私を引っ張る。
「嫌、止めて。
ミゲルどうして。
痛い、離して」
私は兵隊に腕づくで房の中から連れ出され、皆の前で押さえつけられた。
「なんとまぁ、自分の身のほどをしらんガキよ。
お前のようなものがいるから
他の物たちが惑わされるのだ
自分の立場がまだわかっていないのか。
身の程を知るべきだぞ。
すぐに謝れ!」
最後は大声を上げだす選別人。
「どうして、私は何もしていないわ。
どうして、ミゲル、どうしてこんな事をするの?酷いわ」
信じていたのに、ミゲル。どうして。
こんなのウソだよね?
「おい、嘘を言ったのか?
ミゲル君?
あいつはあぁ言っているぞ? 」
「嘘じゃない。 本当だ。」
すがる様な目をして話すミゲル
「あいつは俺に、逃げ道を知っているから一緒に逃げないかと、話しかけてきたんだ
俺は断ったが、一人では怖いからって」
「ふん、何か証拠でもあるのか」
証拠。証拠なんてなにも無いわ。
だって私たちの作戦もはすべて、仕掛ける前に打つ砕かれて終わっているのだから。
結局何もできていない
何もできなかった。
でもそれが幸をなしたみたい。
「証拠は、あいつが作戦を持ち掛けてきた事。
あいつはすごく頭が切れる。
ここにきてすぐ、足枷を外す為の鍵の場所を見つけ出したんだ。」
「して、そんな事どうやってするんだ?
鍵の場所なんざ、看守しか知らんぞ
なぁ。」
選別人は看守に振った後、笑い出した。
「まさかガキ、看守が仲間だとでも言うのか?」
そういう事?そういう事なの?ミゲル
看守にすべてを押し付けてどうにかしようとしている?
それだったらちょっと無謀すぎるけど、できる限りそれに私も答えて見せる。
「違う。あいつは鍵の場所を知る為にわざと、怪我を理由に看守に鍵を外させたんだ」
「何と、本当か」
選別人が看守に尋ねた。
ミゲル?あなたは何を?
私を、売るつもりなの?
私は信じられなくなって言葉が出ない
何この状況は。嘘よこんなのないわ。
なんなのこれは。
私の頭は、今の状況に理解が追いついて来ない
そんな事を言ったら確実にこの嘘が、本当の話の様にすり替わってしまう。
「そういえば。確かにこいつは枷を外してくれと俺に持ち掛けて外すた。
こいつ、そういう事だったのか」
「違うの、あの時は本当に捕まって殴られた後で、運ぶにも体が動かなかったから」
私は涙ながらに必死に訴えた。
酷い、酷いはミゲル。
「違う、あいつは鍵を見つける為だと、俺に言っていたんだ」
「そんな、どうしてそんなウソを、」
「もういい!
もういい、わかった」
選別人が話を割る
「ティターナと言ったな。
、もうやめろ見苦しい。お前がやったことはこの話の中ですでに明確だ。
これ以上話すことなどあるまい。
死よりも恐ろしい恐怖をこれから味合わせてやる」
彼の話声が一段下がる。
その声が更に私に恐怖を与えた。
「よく言ってくれた、ミゲル。お前はえらい。
お前には褒美をも与えてやらねばならないほどだ」
選別人が満足そうにミゲルの頭を撫でていた。
「それから、そういう事をしたら言うべきことがあるだろう
ティターナ!」
怒りの矛先がこちらに向く
何?何なの?
「な、なにを言えばいいんですか?」
私は泣きながら恐る恐る聞いた
「そんなこともわからんのか。
悪いことをしてごめんなさいだ」
そんな。
私何も悪い事なんてしていないのに。
どうして、ほとんど、作られた話して、私から誘ってない。誘ってきたのも、逃げ出そうとしていたのもミゲルからなのに
私は悔しさで唇をかみしめ、顔をしかめた。
「ほぉ、お前は謝りもせぬという顔をするか」
違う、そういう事じゃない
「やりなさい」
私は思いっきり、お腹を殴られた。
ぐかっ、
い、痛゛ぃ、
そして寄って集って、蹴りを何発も入れられた。
「い、嫌゛ぁぁ、やめてぇ
痛い」
「はやく謝れ」
「ごめん、な、さぃ」
「聞こえんもっと大きく謝れ」
「ごめんなさい」
「もっと、もっとだ」
「ごっふ、ご、ごめんなっぁ、さい、 ごめんなさい」
私は殴られる中、早く止めてほしくて、謝り続けた。
痛くて痛くてたまらない。
「床にへばりつけなさい」
殴るのが止まった。
私は右手を押さえつけられ、そのまま雑に地面に顔を押さえつけられた。
「ちゃんと謝れ」
「ご、ごめんな゛、ざい」
「鼻水を垂らしてきたない顔でなく。ちゃんと拭けこら
マナーがなっておらんな」
そんな事を言われても、手を抑えらえて拭けないし、この体制、右手の手首が自分の方に押さえつけられていて、すごく痛い
一人の兵隊が鎧を付けたまま私の鼻水をすする。
鎧はでこぼことして尖った部分もありその摩擦が強烈な痛みとなって私を襲う。
「きゃあぁぁあぁ」
「も゛ぅ、いやぁ、ごべんなさい、も゛ぅやめて、ぐださぁい」
「だったらちゃんと謝れ」
「ごめんなさい」
「ご迷惑をかけてしまって申し訳ございません。
私のようなごみが二度とこのような事をしない様誓いますだろうが」
「申し訳ございませんでした。
私のよ゛うなごみ、が、二度ど、ぐすっ、このような事をいないように誓いま゛ず」
どうして、どうして、私が―――――。
悔しくて、悔しくて頭がおかしくなりそう。
「よろしい。
その手を抜いてやれ
罰だ」
とても奇妙な大きな音と共に、右腕に激痛が走る。
「ぐ、きゃあっぁぁぁぁぁぁぁっあ」
痛みで私は蹲った。右手が、右手が、すごく痛い。痛いよ。
力が入らない。動かせない
こんな痛い悲鳴を上げたのは生まれて初めてだった。
ああっ、痛い、痛いよ。お母様。
「よし、終わったな。このガキをさっさと連れていけ」
兵士が軽々とミゲルを持ち上げる
「おい?!
なんでだ! 話がちがう!
止めろ。約束したじゃないか。連れて行かないって! 」
「なに言ってやがる。約束はしたさ。
だけど、何を夢見てんのか、お前の母と父はもういないぞ」
「なっ、なんだって? 」
「あっ、そうか。お前たちは外の世界を見ず、ここで守られていたから知らんのだな」
選別人が笑う。
「ここ、イーストアングリアは先日落ちた。
戦いに負け、支配されたのだ。もうイーストアングリアと言う国はない滅んだのだ。」
右のポケットから紙を取り出し、それを広げて見せた。
「これは王様からのお達しだ。
ここにはこう書かれておる。
イーストアングリアに住む者たちはすべて皆殺しにしろと
我々に付き従うものは生かせ とな」
そんな酷い事。
私は痛みに耐えながら、聞いた。
「ここに住んでいる奴らは全員アングリアの奴らが、ほとんどだろう。
つまりは、お前らに帰る場所はもうないのだよ
街も、家もすべて焼き払われ、再建が始まっているところだ。
素晴らしいよ、王様は。
一度滅んだ国を甦らせる。
この街がどんどんと美しく生まれ変わっていくのだから。
形を変え、より住みやすくなる町だ」
イーストアングリアが負けた?
滅んだ?無くなってしまったと言うの?
あんなに大きな国が。
たったの一晩で………。
アーネちゃんたちも?
死んでしまったの?
「この国を守っていた奴もいないぞ
すべて皆殺しだ。
落ちた後、残党狩りが開始された
ここいるもの、逃げるものすべてがその場で切られ、捉えられ、首を刎ねられた。
ここを守っていた奴は誰一人いない。
そして聞け旧アングリアの民よ。
お前たちが崇拝していた王も、その家系もすべて根絶やしにされた。
どうだ?これが今の外の状況だ。
それでも、外に出て帰る場所を探すか?」
皆が絶望していた。
もしこの人の言っている事が本当なら、外はここにいる、意地悪な人たちばかりであふれかえっているって事?
そんなの信じられない。
それにアーネちゃんたちまでも死んだ
私の両親の様にとらえられ苦しむアーネちゃんたちの姿が思い浮かぶと、絶望の涙がするすると流れてきた。
「お前たちを守ってくれた王はもういない。
アングリアの者を守ろうと言うものもな。
それでもここを出て歩きたいと言うならどうぞ歩けばいい。
ただし捕まればお前ら死ぬぞ」
ミゲルは膝から崩れ落ちていた。
そんなミゲルを引きずるように兵隊が引っ張っていった。
そんな事よりも、腕が痛い、痛くて痛くて意識がおかしくなりそう。
「そうだ、ティターナ。
明日は楽しみにして置け、こんなものじゃ終わらんぞ。
お前の罰は」
私の意識が遠のく中そんな感じの事を言って選別人は兵隊たちと去っていった。
半目が閉じる。
もう、ダメ。意識が持たない。
私の意識はそこで途絶えた。




