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逃走中は大したダメージは通らない

よくよく考えればその通り――気軽に入れる宝物殿などあるわけがない。


「王族特権で行ける場所にも限りがあるわ。先刻の政教分離の話――彼らが蓄えのある場所を私たちにまで解放するわけがない、当然よね」

「じゃあ――最初から無駄足?」

「そうでもないわ。宝物殿というからにはちゃんと衛兵もいるし詰所もある。聖結晶もいくらか携帯しているはず――」


 完全な無駄足というわけではないらしい。だからこそ俺の指示にそのまま従ったのだろう。


「あれを倒すのは無理――ならいくらか聖結晶をもって脱出するほうに切り替えましょう。ここに入って右に詰所があるはず。そこから聖結晶を見つけたらあの化け物を回避しつつ入口から出る――でいいわね?」

 

 俺とケイトは彼女の言葉に頷くと、観音扉に彼女は手を掛ける。


「最奥が宝物殿――その手前に詰所――一方通行なのよ。だから――」

「時間勝負――ですか」


 例の化け物が追い付いてきた場合、ここで食い止めないと――逃げ場のない場所に追い込まれることになるわけだ。


「行きます」


 言うが早いか、ケイトが扉を開け飛び出す。


「待ってケイト!」

「すぐに戻ります! 化け物が追い付いたらマクリでなければ足止めできませんから!」


 姫は何事か案じるようにその後姿を見守る。俺は彼の後姿を見送りつつ、少女をゆっくりと床に降ろし寝そべらせると、姫と向かい合った。


「大丈夫ですよ、あいつ――強いですし」

「ええでも、もしかして――衛兵が」


 その言葉で俺は彼女の心配の種に気付く。


「――ああ、彼らもゾンビに?」


 だが、ゾンビというのは感染源があってそこから広がるものだろうという先入観があった。この宝物殿に閉じこもっているだろう衛兵が――なっているのだろうか?


「杞憂――」


 だと言い切れない。杞憂なら良いが――もしかしたら、別の原因でゾンビが大量に産まれた可能性は否定できない。そう――広がり方が早すぎる。

 一体かそこらのゾンビが騎士団に挑んで勝てるとも思えない。なのに城はゾンビまみれであり、さらに言えば不死者のエキスパートであるはずの教会の人間がほぼゾンビに作り替えられあのような巨大な化け物に――


「あ――」


 そうなのかもしれない――という答えに俺は行きつく。

例えば全員をいっぺんに変えるような――ゾンビの毒か――


「呪い?」


 俺の言葉に姫が頷く。


「まさか――はは」


 乾いた笑いを造ったままの俺の額を汗が伝う。ただ――説明できないことはある。

 そうだとして、どうして姫達が無事なのか、この少女も無事なのか――。


「無作為の呪いだとしたら――僕らにも影響があるはず、ですよね?」


 しかし、姫は険しい顔を崩さない。


「さっきから――逃げるときからずっと考えていたわ。抱いていた違和感が正解だと信じたくないから――それに、ケイトだけは違うから」


 何のことを言っているのか分からない。ケイトだけ違う? 何が違うのだろう? 


「でも――その少女を見て確信に変わったわ。きっと、そうなのよ」


 少女を見て? 俺は怪我を負い気絶している彼女を観察する。


「それは――」


 その先の言葉は――轟音に打ち消された。


「しゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「ちっ――しつこい!」


 俺は杖を構え――前に出る。ちょうど廊下を曲がったところに奴は顔をだしたところだった。閃光弾で再び足止めを――そう思ったのだが。


「げ――」


 俺を確認した芋虫ゾンビは――まるで、ダンゴムシのように、丸まった。そして、ゆっくりとローリングして――巨大な鉄球のように――こちらに進んできたのだ。


「同じ手は食らいません――ってか」


 いかん。逃げるわけにはいかないが、有効な手が今のところない。となれば――新しく開発するしかない。


「威力を上げるしかない――けど」


 手持ちの武器は杖と聖結晶2つと半。


「あの、これってまとめて魔力使えないんですか?」

「無理よ。それぞれ容量があるわ。それを超えて使おうとすれば発動体は魔力が暴発して砕け散ってしまう。その杖は――一個しか聖結晶を受け付けないわ」


 つまり、一個分で何とかしなければならない、と。俺は試しに1つを使いつぶすつもりで聖結晶を入れ替えてから――マグナムのような、一転集中の貫通力の高い弾をイメージする、しかし――


 バシュン!


 飛び出た回復の光は――そのイメージには程遠かった。せいぜいがライフルだ。一瞬だけ巨躯が揺れたが、それだけで動きは止まらない。威力も距離も上がったが、あの巨体に決定的なダメージを負わせるにはまるで足りてない。この発動体だと、ここが限界なのだ。一発で空になった聖結晶を外し、俺は最後の一個に入れ替える。半分だけ残った聖結晶は懐に仕舞う。これが――最後の要にならないことを祈って。

 速度を上げ奴は突っ込んでくる。ケイトを待っている時間は――ない。


「姫――その子を連れて――奥へ」


 俺は姫を宝物殿の扉の中に入るように促す。


「ですが――」

「もしかしたら――いっぺんに何とかなるかもしれませんよ」


彼女は一瞬だけ逡巡したように視線を泳がせたが、覚悟を決めたように少女を抱き起し――肩を貸しつつ、扉をくぐる。

俺は杖を構えたままゆっくりと――奴を誘導するようにその後を追う。

一発――二発――さほどの効果はないと分かっていても散弾を撃ち込み少しでも足を鈍らせる。

暫く進むと――横に扉――ここが詰所だ。俺はそこを開けようと手を掛ける前に――扉の『向こう側に』散弾を撃ち放つ。

扉を開けると――ゾンビが、そこに二体倒れている。


「ケイト!?」


 見ればケイトがそのゾンビに組み敷かれるように倒れている。まずい――もしかしてあいつ――


「――助かった」


 ケイトは無事だとばかりにすぐに身を起こして答えた。


「傷はないか?」

「ああ、不意をうたれたせいで身動きが取れなかっただけだ――すまない」


 よかった。姫の悪い予感がこれで的中したことになる。少しでも遅れたら――ケイトを失っていた可能性が高い。


「詳しい説明は後だ! さあ、姫も中に入って!」


 俺はそう促して二人を中に押し込むと杖を構えて追跡者の方へと向き直る。奴は狭い通路を壊しながらこちらに爆走してくる最中だった。

 もう――時間はなかった。


「後は――」


 俺は二人に指示を飛ばす。それを聞いた二人は信じられないという顔をして何事か言おうとするが――


「悪いけど――話し合ってる時間はない!」


 俺は杖を構えたまま――近くの宝物殿の鉄扉の前に立った。このまま突っ込まれれば俺はぺしゃんこになる――だけど。

問題は――どれだけ無事か、だな。

 覚悟は決めたつもりだったがいざ実行するとなると――身が竦む。

 ――やるしかないだろ。

 危険は思ったより無いはずだ。覚悟を決めろ。両親を――殺したときみたいに。

 あの時は自分を守るため――でも今は、もっと多くのものが自分の双肩にかかっている。

俺はライフルを構えるように片膝を立て杖の柄を自分の腹のあたりにあてる。


「――こい」


 俺は杖にイメージを溜める。奴はローリングの速度を上げドンドン近づいてくるが、俺は更に魔力を杖にただ――『溜めていく』。そして――あまった半個分の最後の聖結晶を、無理やりスロットの脇にねじ込んだ。

 ビシッ――

 嫌な音が杖から漏れ――そして――その先端が化け物に触れようとした刹那――俺は魔力を解き放った。

 俺が意識を失う前に見た最後の光景は――折れた杖と――眩いばかりの光で――


保育園が6月に再開するのでそれに合わせてようやく書き溜めが出来そうです。

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