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逃亡時には大抵やばいところを抜けねばならない

再び地下まで降りた俺達の前に、黒く、重苦しい鉄の扉が姿を現す。俺が出てきた鉄格子の牢屋の更に奥――まるで黒塗りで闇に溶け込むようにそれはあった。この暗い牢屋の中では見逃してもおかしくないなと思う。


「この奥を進むと――処刑した罪人のための共同墓地があるの」

「案外――優しいんですねえ?」

「そんなたいそうなものじゃないわよ。首を切った者や括った者をぶち込む巨大な墓穴があるだけ。そもそも外に遺体を捨ててアンデッドになんてなられたら困るでしょう? ちゃんと処理して捨てるのは至極当然の話よ」


 ――俺は産業廃棄物かな? つい思ったことを俺は寸で飲み込む。


「処理を施しているとはいえ、もしかしたらゾンビが湧いているかもしれないわ。マクリ、任せたわよ?」

「――はい、姫様」


 俺の返事を待っていたかのように、彼女の腕輪と呼応しその黒く重い扉は、ゆっくりと開かれていった。


 ――うわ。


 扉が開かれた瞬間――異様な死臭が俺の鼻を突いた。

 暗く狭い石畳の通路に、彼女の魔法でウィスプのような灯りが点る。


 ――嫌な予感が、物凄くする。


 先頭はケイト、次に俺、最後が姫様だ。絶対何かいる。その予感だけがビンビンに暗い通路の奥からやって来る。


「――いますよ、これ」

「分かってるわよ、皆ね」


 姫の言葉にも緊張感が滲む。異様な――何か蠢く音だけが前からしてくる。通路が開け――広い場所に出た時、その音の正体はすぐにわかった。


「――げぇ」


 そこにあったのは確かに巨大な穴倉だった。その穴の上には細長い木の板で作られたと思われる蓋があり、被せられている。その被せられた板から――無数の手が板を突き破り、蠢いていたのだ。


「姫様、あまり近づかないでください!」


 さっと穴倉に近づいた彼女はすぐにこちらに戻ってきて苦い顔をして答える。


「――処理用の魔法も、結界も解かれているわ。死臭もそのせいよ」

「――なら、急ぎましょう」


 長居する理由はない。いつゾンビが湧きだしても不思議はないのだ。


「この奥に階段があります。急いで――」


 ベキバキ――。


 彼女の声に重なるように木の割れる嫌な音が背後からする。木の蓋が一部割れて――そこからゾンビが這い出して来るところが見えた。


「走って!」


 俺の声を待つまでもなく二人は駆け出していた。俺は期せずして殿を務めることになった。墓地の奥には幅のある石階段があり、そこから俺達は駆け上がる。後ろを振り返ってみると――もうゾンビは凄い勢いで俺達を追い階段を昇り始めていた。


「くっそ。走れるタイプのゾンビとか嫌いだ!」


 ゾンビにも走れるタイプと緩慢なタイプがある。映画では最初後者だらけだったが、それじゃ怖くないからと前者タイプが増えた結果、今では後者はあまり見なくなった。ファンタジー世界では後者のほうが多数派なのだが、ここではそうではないようだ。

 俺は狙いを定め――一発、先頭のゾンビの頭にぶち当てる。

 ゾンビは崩れ、それが後続のゾンビを将棋倒しのようになぎ倒していく。


「よし!」


 しかし喜んだのもつかの間――すぐに彼らが立ち上がるのが見えると俺は踵を返し再び階段を駆け上る。


「――なっが」


 上を見ると先は相当長い。走っていて息が切れてくる。それは――少し先を走っていた姫様も同じだった。俺が姫様の所に辿り着くと、彼女は蹲り、激しい息を整えている。


「――は」

「姫様!」

「ほら、早く――立たないと」


 俺がせかし、ケイトが彼女に手を貸すが、彼女の苦しみ方が尋常じゃなかった。激しい脂汗を掻き、苦痛に顔を歪ませている。後ろを見ればもうすぐ近くまでゾンビが迫っている。



「まずいって!」

「わかってる!」


 そう言うとケイトは剣を引き抜き、俺より階下に陣取る。


「おい!? 逃げないと――」

「駄目だ――姫様は……発作を起こしていて動けん!」


 発作!? 


「どっか悪いのか!?」

「ああ、普段は大したことがないが――たまにあるんだ。埃っぽいところなどに来ると急に呼吸が乱れたり――」


 喘息か、それに近い病気を俺は想像する。


「行け! 俺が食い止める間に――姫様をお連れしろ!」

「なら俺が――」


 その申し出に、しかしケイトは首を横に振った。


「中間部分まで昇れば休憩小屋があるはずだ! そこへ行けば――お前のほうが役に立つはずだ!」


 何を言っているのかわからないが、ケイトは頑として譲らなかった。


「――ケイ……」


 苦しそうに彼女は自分の騎士に手を伸ばす。しかし俺は彼女の肩を持つと、階段を昇り始めた。


「死ぬなよ!」


 俺は立て続けに5発回復魔法をケイトに向かう先頭のゾンビたちに撃ちこんだ。再び将棋倒しが起き、暫くは時間稼ぎが出来ただろう。しかし――もう打てて残りは2発程度まで魔力が目減りする。役立たずまで、あともう一歩である。


「――中間地点、ね」


 姫の肩を担ぎながら、俺は汗だくになりつつ階段を昇り続ける。後ろを振り返る余裕は勿論なかった。たとえ今――不意に後ろから肩を掴まれたとしても。


「――はぁ、ぜぇ――」


 昇り切った中間地点は少し広い円形の空間になっていた。その奥に――確かに石で造られたと思しき小屋があった。


「あれか――」


 俺は最後の力を振り絞り小屋に近づく。小屋の木戸には鍵は掛かってない。俺がそこに手を掛けると――


「があああああああああああああああああ!」

「!?」


 中から、白い僧服を纏ったゾンビが真っ赤な口を開けて俺に躍りかかってきた。俺は引き倒され、圧し掛かられる。


「――こ、の」


 物凄い力で俺の腕が押さえつけられる。もうすぐで――その赤い口が俺の喉元を引きちぎれる距離まで迫る。


「うああああああああああああああああ!」


 バシュン!


「ぎゃう!?」


 俺は左手で、ゾンビのわき腹に一発撃ちこんだ。そして――


 バシュン!


 怯んだ奴の口内に――空いた右手から一発ぶち込んだ。


「――空っぽ、だ」

 

 正真正銘最後の一発を撃ってしまった。残弾ゼロ、役立たずの完成である。

 俺は襲われたせいで近くに倒れ転がった姫様を抱き起すと、小屋の中に転がり込む。


「――はぁ。くっそ、痛てぇ……」


 ゾンビの途轍もない握力で掴まれていた俺の腕に、紫色のあざが出来ている。



「役になんて――立たんぞ」


 ゾンビとの戦闘で正真正銘、体力も魔力もすっからかんだった。


「ごめんな――お姫様……」


 俺が腰を下ろし、彼女を狭い空間に横たえる。


「――」

「おい、動かない方が――」


 しかし、レオーネ姫は俺を睨みつけ――いや、違う?

 俺は彼女の睨む先を見る。あれは――


      ※


 剣戟の音が闇に響く。


「――!?」


 バキン、という音がして剣が折れる。何体もゾンビを切った代償か――無残にも剣は使い物にならなくなる。


「――折れたか」


 姫――ここまでのようです。観念したケイトは折れた剣先で先頭のゾンビの頭を穿ち、蹴り飛ばす。

 これで――騎士には武器が無くなった。


「――こい」


 しかし、自分は最後まで姫様の剣だ。騎士は拳を固め、襲い来るゾンビの群れに立ち向かう。しかし――多勢に無勢という言葉が相応しいように――ゾンビは騎士を飲み込むように押し寄せる。


「――無念」


 ゾンビの牙と爪が騎士を引き裂こうと伸ばされた瞬間――。


「ケイト――!」


 バシュ――!


 光の散弾が彼の傍で炸裂する。


「――」


「無事か!?」


 さらに襲い来るゾンビに向けて、更なる光の炸裂弾がそこにぶち当たる。


「――まだ、神は私を見捨てなかったか」


 先ほど別れた回復術士の手元から更なる閃光が放たれ続けた。


次は木曜日あたりに更新します。

引き続きよろしくお願いします。

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