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パンデミックに生意気なヒロインはつきもの

「数多すぎだな……」


 かっこよく決めて扉を開けたつもりがもう後悔していた。閂の扉を開けた先は小屋になっていて、幸い魔物――ゾンビなどはいなかった。いなかったが、そのすぐ外を格子窓からのぞくと――見える範囲だけで十数体のゾンビがうろついている。


「せめて城内の見取り図でもあれば……」


 走ればこの場は振り切れるかもしれないが、抜けた先からどういけばいいのか皆目見当がつかない。しかもこの様子ではその先もゾンビ天国――いや地獄だろう。

 少ない魔力で切り抜けるには無理がありすぎる。どうすべきか悩んでいると――地面を蹴るような音が聞こえ、俺は再び窓から外を見ると――。


「剣士と――」


 ドレスを着た可愛らしい銀髪の少女が走っている。その手を引く、長い蒼髪の銀色の胸当てを付けた軽装の剣士が次々とゾンビを切り伏せる。


「こちらへ!」


 彼女の手を引きその剣士はこちらへ向かってくる。それに追いすがるようにゾンビが襲い掛かる。ゾンビはある程度緩慢な動作ではあるが、物凄く遅いわけではない。急がねば普通に追いつかれてしまうだろう。そして――彼女のドレスの裾が、地面の石か何かに引っかかったのか――倒れてしまう。


「姫様!」


 剣士が振り返った時にはもうゾンビが彼女の肩を掴んでいた。噛まれる――と彼女が瞳を瞑った瞬間。


 バシュ――。


「え――」

「早くこっちへ!」


 小屋の扉を開け――閃光と共に、俺の回復魔法が彼女を掴んでいたゾンビの手を撃ち抜く。しかし動きがまだ止まっている彼女に再び複数のゾンビが襲い掛かる。


 バシュ――バシュ!


「早くしろ! 持たないぞ!」


 足を狙い、次々と彼女に追いすがるゾンビをこかす。


「姫様! 今の内です!」


 呆ける彼女の手を掴んだ剣士がそれを引き、こちらへ向かってくる。俺は小屋の扉を開けて、彼らが通った瞬間それを閉める。そして、ゾンビの叩く扉を必死で押さえた。


「その先を開けてくれ! ここも持たないから!」

「わかった!」


 剣士がそう答え、部屋の奥にある俺が出てきた閂のある扉を開ける。俺はそれを確認すると掴んでいた小屋の扉を手放し、そちらに駆け込んだ。


 バタンッッ――


 激しい音と共に扉は閉められる。そして再び閂が掛けられた。


「――はぁ、また逆戻りか……」

「助かった。まだ回復術士ヒーラーが残っていてくれたとはな」


 そう言って彼は俺に向かって手を差し出す。俺もそれに倣い、とりあえずの握手を交わす。


「私はケイト。姫の近衛の一人だ。君は……」

「ああ、俺は……」

「近寄っては駄目よ、ケイト」

 

 俺が名乗ろうとすると、そう言って銀髪の姫様が彼の袖を引く。


「――姫様?」

「――罪人よ、そいつ」


 射抜くような瞳で、彼女は僕を睨みつける。その言葉で、サッと彼は僕から手を引き腰の剣の柄を握りしめる。


「どうしてわかったの?」

 

 僕は彼女に訊ねる。


「無礼者、直接口を――」

 

 割って入ろうとするケイトを彼女は右手を上げて制する。


「捕まった人間には簡単な『認識魔法』がかかっているわ。私にはそれが視えるの」


 そう言って彼女が僕の手の甲に右手を翳すと、そこに青白く輝く紋章が現れた。


「咎人の印――それは教義に反したものの証ね」


 なるほど、仮に逃げられてもこれならすぐに見つかってしまうな。


「……言い訳させてもらってもいい?」


 僕は即座に両手を挙げて降参のポーズを取る。


「……どうやって、出た? 地下牢に入っていたはずだろう?」


 先ほどまでの親し気な口調だったケイトの声が急に冷たいものに変わる。


「……下に行ってみればわかるよ。看守がゾンビになって死んでるから。そいつを倒して鍵を手に入れた。それだけだよ」

「姫様――」

「いいわ、私が見てくる」


 そう言うと姫様は何事か唱え始め――白い、まるで水晶のような球体がそこに現れる。するとそれは一直線に階下を降りていくではないか。多分――何か映像のような物を見る――ドローンのようなものだろうか?


「――本当みたいね」


 暫く剣をのど元に突き付けられながら待っていると、姫様はそう呟いた。


「お止めなさい、ケイト。もういいわ」

「しかし――」

「害はない、そう判断します」


 その言葉で僕の命の危険はひとまず去った。降ろされた剣を見て僕はほっと息を吐く。


「あの――」

「口を開くな、下郎」


 質問をしようかと声を上げた瞬間ケイトにそう制される。


「――いいわ。許します」

「しかし、姫様……」

「非常時よ。どうせこの場から逃げ出すには戦力が不可欠なのよ。回復術士がいるならそれだけでかなり違う、でしょう?」


 この姫様――どうやら大分現実主義者リアリストのようだ。話がわかるのは非常に助かる。


「と、言うわけよ。お互い、協力しましょう」

「――助かります」

「勿論、この事態が収拾されたら――どうなるかは保証しないわよ?」


 俺の心を見透かすように即座に彼女は冷たい瞳を向けてくる。


「――は、はあ」


 さっきはちょっと評価したことを後悔する。まったく、これから協力しようっていうのにどこまで上から目線の――。

 しかし、直ぐにその唇を曲げ、彼女は妖しい笑みを浮かべた。


「それでも、一国の姫を助けたとなれば――それなりの、協力は約束しましょう。無罪放免――報奨もちゃんと払えばいいかしら?」

「姫様!?」

「え、マジ?」


 神様お姫様、この子はなんと都合の良いことを言うのだろうか?


「え、いやでも――それ」


 利用するだけ利用して、助かったらポイ、パターンじゃないの? と一瞬疑う。古今東西よくあるパターンである。人を信用するとろくなことがないものだ。

そんなことを考えていると、彼女は何事かまた詠唱し、俺の右手と彼女の左腕に鎖のような光が現れる。


「これは契約呪文。天使を通じ、言を違わず守らねば、私に害が出る。そういうものよ。――我が名『レオーネ=クロノス』の名において、かの者――ええと、名前は?」

「あ、ええと マクリ――です」

「――マクリの助力を得た場合、その対価を必ず支払うもの哉――」

 

 その言葉が終わると、光が拡散し、俺の腕の鎖も消える。


「これでいいわ。実感としてわかるでしょう? 嘘はない、と」


 俺はゆっくりと、頷いて見せる。たしかに、あの契約の瞬間、俺の脳内にそういう情報が濁流のように叩き込まれたのだ。


「じゃあ、働いてもらうわよ――その前に」

「あうち!?」


 俺は彼女に不意に、脛を蹴られて悶絶する。


「ふん、疑うのは当然だけど、そういう目で見られるのは心外甚だしいわ」


 んごご……こいつ、とんだじゃじゃ馬じゃないか……。涙目になりながら、俺は彼女を睨みつけようとして、間に挟まるように立つケイトに睨み返されてしまう。くそ、覚えておけよ!(捨て台詞)


「さあ、現状と、これからの話をしましょうか」


 姫様の言葉に、俺は今までの経緯を話し始めた。


とりあえずここまで、続きが気になったらブクマ宜しくお願いします。

ここからは週2回更新程度で行きます。

ちなみに本編は7万文字程度は書き終えてます。

コロナでこんなことになってるうちはまったく書けてないのでストック尽きる前に緊急事態宣言が解けないと困ります。

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