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ケイトの昔話


「お前はこの家を出なさい」


 父が自分の書斎でそう告げてきたのは私が十に満たない年の頃だった。


「わかりました」


 断る言葉は教わっていなかった。

 訊ねずとも、そうなるとは思っていた。ただ、もう少し後になるかと思っていただけだった。


「ゲリノスの聖教会に紹介状は書いてやる。支度金も出す。後は好きにしろ」

 

 深々と礼をした私は自室に戻る。部屋はもう片付いている。予め、自分で掃除を終え、荷物もまとめてあったからだ。

 それを手に取り私は部屋を出て、誰にも見とがめられぬよう裏口からそっと家を出る。


「お世話になりました」


 私は振り返らずそう呟くと、『名』を『身』を捨て、歩き出した。

 私はゲリノスに着くと教会に一度顔を出すと、目だけ笑っている修道女にこう言われた。


「すべてを捨てたのならこれからは――神に尽くしなさい」と。


 私はその言葉を額面通りに受け取った。そう神という言葉を『自分』に置き換えて。

 僧が祈る時間分、私は剣を振った。

 僧が説く時間分、私は剣と共に過ごした。

 

 やりたいことをやった。自分自身が、何処でも生きていけるように。

 そんな私を疎ましく思ったのだろう。私は爪弾きにされ、郊外で好き勝手に剣を振るっていた。しかしある時――教会の視察に来た『姫』に出逢い、人生が変わったのだ。


 その日も剣を振るい帰ってきた私に、叱責を浴びせる修道女たち。

 姫の手前、規律を大事にしているアピールもあったろう。いつもより激しく、一番年上の修道女は私を罵る。その中で『そのような剣の腕を鍛えて何になりますか!』という言葉が飛び出る。

 私は何も言わずに項垂れていると――姫が事も無げにこういった。


「では――確かめてみましょう。役に立つか、立たないか」


 戯れか、恥をかかせてやろうとしているのだと、私と変わらぬ年頃の少女を見て私は思った。しかし、彼女は私に向かって続けてこう言った。


「証明する良い機会よ。己の無能を嘲られて消え入るか、奮い立つかはあなた次第。他人がどう思うかなんて気にしては駄目よ。貴方がやりたいことをして成果を出すつもりなら、今、立ち向かいなさい」


 本気だ、と直感する。彼女は本気で私にやってみせろと言っていた。


「では、貴方相手をなさい」


 彼女はお付きの騎士に声を掛ける。戸惑いながらも彼は木剣を構え、私の相手をする。

 結果は――


「――いい勝負でしたね」


 私は勝った。しかし、不満そうな騎士は私を睨みつける。


「しかし、あのような卑劣な剣技とも呼べぬようなものは――」


 騎士は私の剣技を批判した。そう、まるで喧嘩のような、無法の戦い方を。


「でも、勝ったわ」


 その一言に騎士は押し黙る。


「それに剣技なんて、後から身につければいいのよ。戦場じゃ二度目はないわ」


 そう言うと彼女は私に向かって、手を差し出した。


「――あの、これは?」

「スカウト」


 端的な言葉で彼女はそう言う。


「私の傍に付きなさい。こんなところにいても、しょうがないでしょう?」

「姫――それは」


 年配の修道女が声を上げるが、彼女は取りつく島もないように、彼女を睨み返した。


「――こんなところに閉じ込めたところで、意味はないでしょう? なら私が有効に使ったほうが役に立つわ」

「ですが、その者は――」

「――身分に問題はないことは確認したわ。しかしまあ、地方貴族の『ご息女』だと言うのにずいぶんな扱いだこと」


 ――『ご息女』。

 

 そう、彼女は私の身分をもう、知っていた。


「地方貴族に男児が産まれ、いらなくなったから放逐――ほんと、典型的なところ払い。有能か無能かなんて関係ない。地位ですべて決めていく。どうにかならないのかしらね?」


 そう私『ケイティ=ゲラルド=マクドウェル』はマクドウェル家の長女として生を受けた、まごうことなき『女性』である。

 女性が剣を振るう、女性が家督を継ぐ、そのようなことは許されぬ――そう教えられ私はずっと生きてきた。だから私は『女』を捨てたかった。捨てたつもりでずっと、ここまで生きてきたのだ。


「意固地で、とても効率的とは言えない生き方だけど――そういう子がいないと、時代は変わらないと思うのよ」


 そう言って――彼女は私に右手を差し出した。


「さあ、どうするの? 私の騎士になるの? ここで、ずっと朽ち果てるの?」

「――どこまでも、お供します」


 私は彼女の手を恭しく取り、頭を下げた。


「――では誓いなさい。これからは神ではなく、私――レオーネに仕える、と」

「――はい、レオーネ様」


 こうして、彼女は私に新たな名を与え、私の新たな神になったのだ。


     ※※※


「さて、そろそろ出るぞ」


 騎士の言葉に少女は頷く。

 その顔には『信頼』の色が浮かんでいる。

 怯えてはいたが、彼女の瞳には前に進む意志が込められていた。

 昨晩から、言葉を失った少女に対しケイトがしたことと言えば――ただ、語り掛けることだった。

 己の生い立ちから――いかにして生きてきたかを。

 家族が死んだとしても、心の拠り所に誰かが居れば生きられることを教えるために。

 

「――この後、私たちは出る。きっと厳しい戦いになるが、決して諦めるな」


 少女が深く頷くを見ながら、『彼女』は昔のことを思い出していた。

 ああ――自分だ。

 何かを信奉することで奮い立たせている。

 姫も――手を焼いたのだろうな。

 心の中で苦笑しつつ、彼女の無事を願う。不安や心配は消えていない。今彼女が傍にいないことに焦りは勿論ある。しかし――

 

「マクリ――か」


 どことなく不思議な男だった。このような絶望な状況下を、どこか楽しんでいるような飄々とした――


「任せたぞ」


 誰にも聞こえないぐらい、小さく呟いた彼女は、地下の扉を開け放ち、外へと飛び出した。



 ケイト=ステグマ(旧名 ケイティ=ゲラルド=マクドウェル)

 現在20歳の男装の女性騎士。


 HP 100

 MP 0

 

 攻撃力 素手 20 剣 100 ぐらいのイメージ


 装備 サンブレード(対ゾンビ特攻)

    ???の鎧(一応騎士叙勲の際にと不憫に思った祖父から送り付けられた物。父は未だに無視を続けている)



実は女でした系って嫌がる人は嫌がる要素よね。

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