大ピンチというのは唐突に訪れる その5
――俺は、ロープで彼女を下ろすと、窓からの光景をジッと見つめていた。
暗いし、良く見えないが、僅かに動く彼女の黒い影が動くのだけは分かった。
「――きっつ……」
待つ時間がもどかしい。痛みも熱も、どんどん増してくるが、それに加えてくる焦燥感がかく汗の量を倍加させているような気がしてならない。
「はあ――」
早く――速く――疾く――
「無事に、戻ってくれ――」
多分入ってからそう時間は経ってないはずなのに、もう一時間ぐらい彼女が戻ってこない錯覚に陥る。
頼むから――
その時、何か蠢くものが闇に見えた気がした。
叫び出したい気持ちを抑え、俺はそれを見つめる。その影はサッとこちらに向かってくると、真下に来てロープを一度軽く引く。
俺は急いでそれを引き上げる。
ロープの先には、ガラス瓶に入った透明な液体が入っていた。
「よし――」
俺はそれを開けて、一気に呷る。
呷りながら、ロープを下に垂らすと――
「あ――」
蠢く黒い影が、奥に見えた。
しかも――次第にそれは増えていく。
「やべえ」
俺はロープを握りしめながら、次の合図を待つが――何の反応もなかった。
俺は窓の下を覗き込むと――そこにいる人影は縮こまり、動こうとしない。
「レ――」
叫び出したい衝動を必死に抑える。俺は寸でのところで彼女の名を呼ばなかった。
ゴホッという咳き込むような音が聞こえて――黒い影は一斉にこちらへ向かい始める。
「もしかして――」
そうだ、発作だ。
一度彼女が地下で見せたあの発作がまたぶり返したのだ。
動けなくなっているのだ、彼女は。
俺は降りることを考えたが、しかし、すぐに思いとどまった。
「狙う――」
ここからのほうが、見やすい。多数来る目標相手にやるなら、こちらのほうが圧倒的に狙いやすかった。部屋の中に入ってしまうと後ろに隠れた影に当てることは難しい。
俺は短杖を構えると、標準を絞る。
絶対に――近寄らせない。
バシュン!
一発撃ち込むが――少しよろけただけで倒れない。
「ちっ――」
バシュン! バシュン!
「威力が無い――」
距離のせいか、よろけはするが、致命傷になっていない。
「だけど、無駄じゃない」
俺は狙いを奴らの足の方面にシフトした。
ヘッドショットは難しいが、これなら――的がでかい。
彼女に近づく、推定ゾンビ達の足を目掛け俺は上から撃ちまくる。
「弾切れ――」
一個目の聖結晶を撃ちきり、俺は最後の聖結晶を装填しようとした瞬間――ロープが強く引かれた。
「レネ!?」
俺は驚きつつも杖を置き、ロープを渾身の力で引っ張る。
凄い――確かにもう、体調が戻ってきている。
「ふんぐっ!」
――帰ってこい。無事で。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
今日二回目の引き上げは――
「――ただ、いま」
「レネ!」
俺は――窓から出てきた、全身埃まみれになった彼女を受け止める。
「……これで、おあいこ――ね?」
「――ああ」
俺はぼろ雑巾のように横たわる彼女の身体に付いた埃を手で払う。
「無茶しやがって……」
俺が彼女の頭についた埃を払った時――陽光が東の空を照らし始めた。
すいません。ネーム作業していて投稿遅れました。
ちょいちょい更新していきます。