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大ピンチというのは唐突に訪れる その2


「こんな物しか見つかりませんが、どうぞ」


 俺達は見つけたカッチカチのパンと干し肉をゆっくりと噛みしめる。


「――無理」


 そう言うと姫はそれをペッと吐き出した。


「勿体ないけど、噛んでる方が体力使うわ。あと、喉も乾く」

「ですねぇ」


 俺は何とか一口だけ咀嚼したが、まるでこれは石かと思うような硬さだった。


「水が――無いんですよねえ」


 基本何処かにある井戸から汲んできてため込んで使う感じなのだろう。水ガメらしきものは見つけたのだが、中身は空っぽだったのだ。


「回復魔法なんて使えても、肝心なことは何一つ出来ない。やっぱり、人間はご飯と睡眠が永遠の友ですね」


 そう、自嘲気味にぼやくと――


「でも――貴方が居たから私は生きているのよ。誇りに思っていいわ」


 一番言って欲しい言葉が、俺に投げかけられる。そして、それが現実主義者から零れたことに、一瞬で胸が満たされた。


「――ありがとう、レオーネ姫様」

「……あのね。お願いがあるのだけど」


 レオーネ姫は不満そうな口ぶりでそう言う。


「なにか――お気に障りました?」

「その言い方もよ。もう運命共同体なのだから、適当な話し方でいいわよ」

「……姫様、つまり?」

「呼び方はレオーネ、いえ『レネ』でいいわ。親しい人は皆そう呼んでいる。後、他人行儀はいらない」

「え?」

「やりにくいのよ。命令系統は私が上、みたいなことになってるけど、それはあなたにもメリットがあったからそういう風にしてあっただけ。今の現状を見て――それが守れているか疑問なのよ、私は」

「えっと……要は、対等に行きたい、と?」

「そう言うこと。だって――もう私の戻る城は無いかもしれないのよ? 確約できる保証も、財宝も無い。なら貴方は私を守るメリットはない。なのに貴方は私の命を救った。生き残りたいなら、今すぐ貴方は私を置いて一人で行くべきなのよ? なのに、なぜそうしないの?」


 彼女の詰問に、俺は一瞬答えに窮した。だって、あまりにも当然な話だったからだ。


「なぜって――最初に約束したじゃないですか」

「それを、私が守れなくなっても?」

「守る気はあるんですよね?」

「……一応は」

「なら、それで良いです。俺が裏切るのは、裏切られてからでいいんで」


 自分が一旦した約束は、反故か決定的になってからでないと覆したくなかった。

 彼女は納得していない顔をしていたので、俺は補足する。


「いつも、両親には嘘吐かれてました。『勉強したら欲しい物買ってやる』『手伝えば遊びに連れてってやる』。でも――それが守られることはなかったんです」


 ――それでも。


「それでも、俺は彼らの言うことを聞きましたよ。自分が、彼らみたいな嘘吐きになりたくないから」


 馬鹿だったかもしれない。けど、どうしても彼らと同じようになりたくなかったのだ。嘘を吐いて、平気な人間に。


「だから裏切るなら、それが確定してからで良いです。俺は貴方を無事な所に返す。それは、俺が、そうしたいし、そう生きてきたからです」


 俺の恥ずかしい告白を聞いて――彼女は黙り込む。そして――


「ごめんなさい」


 彼女は、謝った。


「貴方を侮辱したわ。本当に、ごめんなさい」

「え、いや――単なる生き方の問題ですから……そこまで言われるようなことではない……かと」

「いいえ、私が悪かったわ」


 短いが、その言葉には本当に申し訳なさが滲んでいた。


「……言葉通り、受け取らせて頂きます」

「そうしてくれると助かるわ。それで――」

「ええ……レネ……でいいです?」

「ええ、マクリ、これからもよろしくね」


 しょうがないな、お願いされたし。

 俺はなぜか可笑しくなり、軽く噴き出してしまう。それが姫にも伝わったのか――お互い声を押し殺しながら、暗くなっていく部屋の中で暫く笑い合っていた。


     ※※※


「――ふう」


 姫様とはぐれてしまった――

 無事だろうか? いや、無事である、と思うしかない。

 15で騎士として命を受け、18で姫のお傍に配属された。それ以来、片時も彼女の傍を離れたことはなかった。

 あの時、彼女とマクリが転げ落ちていく姿を見送るしかなかった。

 それが、歯がゆい。


(――任せたぞ、マクリ)


 心の中でそう願う。

 短い時間しか触れ合っていなかったが、不安は思ったよりも無かった。

 きっと――マクリは彼女を見捨てないだろうと信じていたからだ。


(あの状況でなら、俺よりもきっと――マクリのほうがいいはずだ)


 そう思い、何とか自分を納得させる。

 今自分は偶然入った廃屋の地下倉庫に閉じこもっている。

 火種は持ち歩いていたから、それで転がっていたろうそくに火を灯し、荷だった少女を下ろし、一息ついている――場合ではないのだが、外には無数のゾンビが蠢いて、そのうえ陽が落ちてしまっていた。

これからは――死者やつらの時間だ。


「――ん」


起き上がる少女の口元を、優しく塞ぐ。


「し――大丈夫、ここには敵はいない」


 落ち着かせるように、ゆっくり、静かな口調で彼女の耳に声を届ける。

 少女は最初だけ驚いたように瞳を大きく見開いたが、直ぐに大人しくなる。

 こういう時の対処法を自分は誰よりも心得ていた。

 

 ――姫様の相手より、よほど楽だな。


「良い子だ。さて、何処から話そうか……」


 置かれた状況、これからのこと、それから―― 一つ一つを解きほぐすように、ケイトは言葉を続けた。


まだまだ続く大ピンチ。

そして私は今現在漫画のネーム作業に入ってまして小説のストックが減り続け大ピンチ(ぇ

コロナで作業が止まってた商業の方を形にできるように鋭意制作中です。

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