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ゾンビものにおける幼女は保護されるもの


「マクリ――何の音!?」


 姫が血相を変えて部屋に飛びこんできた。

 俺は――勝ち誇ったように一本の『杖』を見せる。


「ありましたよ、ほら」

「え? ええ――そう、なの? でも今の音は一体……」

「ああ、それは――」


 派手に何回も、俺は燭台やらその辺の金属製の物品で真鍮の杖を殴りまくったのだ。その結果、周囲には真鍮の破片と金属の破片が派手に散らばっている。


「壊したんですよ――この『外装』」

「外装――?」


 俺は真鍮の破片を手に取り彼女に見せる。


「これ――周囲を筒状に真鍮で固めてあって、杖の本体が中に入ってたんですよ」


 俺は黒光りする、片腕ほどの長さの杖を彼女に見せる。

 そう、この杖――鉛筆のように二重構造になっていたのだ。


「中身を使われたくないのか――破棄されたくないのか、兎も角本来の物が隠されていたんですよ」


 俺は興奮気味に杖を構えて彼女に撃ち込むような真似をする。


「よし! 後は試し撃ちですね! いや――」

「……そう、良かったわね」


 そこで初めて白い目が自分に向けられていることに気付く。


「はしゃぐことでもなかったですね、はい」

「ふふ、まあいいわよ。無事に出れるならなんでも、ね」


 俺は新しい杖に聖結晶を一つ入れてみる。すると――


「え、これ――」


 スッと消えるように聖結晶が飲み込まれる。しかもまだ――容量がある。


「もう一個――」


 続けて二つ目を入れても容量は満杯にならない。この杖――相当ポテンシャル高そうだ。


「行けそうです」

「よかった。こっちも準備できてるわ、あとは――」

「ええ、ついでにちょっと試し撃ちさせてくれますか?」


 俺はゆっくりと、びっこで、未だに気絶している金髪の少女の元へと向かう。


「――ごめんね、後回しになって」


 俺は杖を構え――その傷ついた頭部に狙いを定め、回復魔法を放とうとすると――


「!?」


 何だこれ――杖が、過剰に魔力を吸い上げようとするかのように、俺の腕に張り付いてくる。

 ――いかん。絞らないと。

 俺は爺のツボ押しを思い出しながら魔力を調整する。杖を自分の身体の一部のようにイメージし、吸い上げる力を分散、逆流させていく。


「――よーしよしよし、いい子だ」


 最大にメモリを解放したガスバーナーの火力を力づくで絞るように、俺は慎重に、慎重に一発を撃つ。


 バシュン!


「え」


 ……何と一発で、聖結晶半分を使い切ってしまった。調整したつもりだったのに――過剰に魔力を浪費してしまった。これ――大丈夫か?


「――どうかしたの?」

「ああ、いえ……ちょっと慣れない道具だったので」


 しかし代替えは見つかってない。それを探す時間的猶予もなさそうだ。出来るだけ早くに使い慣れるしかないだろう。


「――う」

「あ……」


 そんなことを考えていると、目の前の少女が目を覚ました。


「よかった――大丈夫?」


 姫が心配そうに声を掛けるとその少女は暫くぼうっとしていたが――急に何かを思い出したように激しく震え始めた。


「――……?……?」

「もう大丈夫――私はレオーネ=クロノス。この国の第二王女よ。見覚えはないかしら?」


 落ち着かせるためか、彼女は自ら名乗る。


「この二人は信頼のおける従者。二人だけしかいないけどどちらも、とても強いのよ? だから安心して――」

「――――! !!!!」


 ――?


 しかし、少女の様子は何処か妙だった。何かを言おうとしているけれど――それが言葉にならない――もしかして……。


「その子……喋れないのでは?」

「――え?」


 確認するように、姫は口を指さして――それから×印を両手の人差し指を交差して作る。それを見た少女は涙を両の目に溜めながら――ゆっくりと頷いた。


「――そう、仕方ないわね」


 少女に向けて彼女は安心させるように優しく笑い掛ける。


「ついてくるなら――貴方は安全な場所まで送り届ける努力はします。それが無理なら――ここで待っているしかないわ。すべてが、終わるまで」


 優しい笑顔ではあるが、その言葉の内容は思ったより辛辣――というか現実的だった。この歳の子に言っても酷な選択だが、他に取れる方法がないのだ。彼女は――とても誠実に少女と向き合っていると言える。


「どちらを選んでも貴方の選択を尊重します。あまり時間はないの――決めるなら、少しだけ待つわ」


 少女は困惑の渦中にいるのは目に見えて明らかだった。押せば今にも倒れそうなほどに小刻みに揺れ、憔悴している。大人の言葉にただ狼狽し――追い詰められ――ただ頷くしかない――


「マクリ?」


 俺は分け入るように、姫の前に出る。


「君を救ったのは俺だ。だから、俺が最後まで責任を持つ。俺の出来る限りで――君の命は助けてあげるから――」


 そうして俺は少女に手を差し伸べる。

 つい――自分と彼女を重ねてしまった。両親に追い込まれ頼れるものもなく、自分で何とかするまでの長い間を耐えていた幼い――無力な自分を。そしてその時――唯一手を差し伸べてくれた――


 ――逃げていいし、やっつけたっていいんだ。


 そう笑って――俺に色々教えてくれた隣のお姉さんのことを。


「頷きたくないなら頷かなくていい。ただ俺がしたいからそうするだけだ。君は傍で――見てればいい。来る――かい?」


 もう一度、俺は手を差し出す。すると少女は――ゆっくりと、震える白い手で俺の手を掴んだ。

 その様子を見ていた姫が「いいの?」と俺に目配せをする。


「――残しても、戻れるとは限りませんから」

「――そうね」


 今のところ安全な場所など見当たっていない。ここは一時避難で使っているだけで、食料もない。いざとなったら――あのような化け物に襲われ続けたら、もうここに戻れない可能性も非常に高いのだ。


「――それじゃあここにあった装備に着替えるわ。貴方もいらっしゃい――それと男性陣はあっちへ行ってね? 死罪を覚悟で覗いても良いけれど――」


 姫の悪戯っぽい笑みと殺気を込めたケイトの視線が同時に俺に向けられる。


「一足先にゾンビになりたくなったら――そうします」


 俺の冗談に――少しだけ少女が笑った様な気がした。


楓さんがこなくて助かった(どうせ2か月以内に実装される

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