01 次なる一歩
本日は会話メインのサクッと版と描写多めの改定版、両方の更新です。
冒険者登録を終わらせた僕は、渡されたばかりのネームタグを身に着ける。
タグの大きさは親指ほど。見た目は長方形の角を少し削ったような形かも。
タグの先端には溶接された金具がついており、小さなチェーンが通ってる。
希望であればチェーンは紐にも替えられる。
うん! さすがギルマスのお手製だ。
裏にはカッコイイ模様が浮かんでおり、ネックレスとしても利用できるのが高評価。
そして気になるのがその素材。
なんでも、ギルマスが冒険者時代に入手したレアメタルなんだって。
だからクールに銀色に光るだけでなく、光に当てれば角度によって色が変わり、月光に当てると水色に発光するらしい。
お、角度を変えると確かにいろんな色が見えるかも! 月光の方も今夜見てみよう!
「さて」
ネックレスのように身に付けたタグを……肌着と上着の間に包み込む。
多分、傷一つ付かない頑丈さだろうけど気持ちの問題である。
服の上から両手でタグを包み、僕はスッと目を閉じ、
「よし!」
力強く目を開ける。
感傷に浸るのもここまで! やりたいことは山積みだ!
もちろん、次にやるべきことも決まってる。
――――。
ドンッ!
ギルドに入ってすぐの場所に椅子を置き、逆向きに座る。
そして背もたれである部分に腕を組むように腕を乗せ、そこに顎を乗せてじっと待つ。
もちろん募集の張り紙もバッチリである。
そう――まずはやっぱりPT募集! 苦楽を共にするメンバーを見つけることである。
入り口で堂々と鎮座してれば、PT募集の張り紙に気づいた人が声をかけてくれるはずである!
「さあ――こい!!」
――10分経過
(そわそわ。そわそわ)
――30分経過
「あ、あれ? タイミングが悪かったのかな……」
――1時間経過
「うぅ……お腹空いてきた」
――2時間経過
(が、我慢するのだ。たった1日でタイミングよく巡り合える方が普通じゃない!)
――3時間――経つ前に、さすがに気づいた。
「な、なぜだ!?」
僕と僕の募集を見てる人がだれも来ない!
間違いなく――無視されている。
そう、いい加減に気づいた。
ギルドに入ってきた人とは間違いなく視線が合っている。
そのうえで、掲示板の張り出しは全員が全部目を通している。
――にもかかわらず、くぅ、誰も来てくれない。
こ、こうなったら――
「お、お姉さん! ヒント! ヒントください!」
そう。ギルドの受付を長年担当し、恐らく誰よりもギルド内を観てきた人。
――受付のお姉さんに助け舟を求めれば、何か手掛かりを得られるはず!
そう思って話しかけたところ、
「うふふ。思ったよりも耐えましたね、メアちゃん♪」
…………ん?
…………。
「気づいてたなら声かけてくださいよーーー!?」
つまり、お姉さんは分かった上で手を出さなかったということだ。
もしかしたらこうなることを最初から見越していた――なんてことは……ないよね?
っというかメア“ちゃん”に降格してるうう!?
くう! 絶対! 見返してやるんですからね!
それでお姉さんはというと、
「あまりにもワクワクされてたので、どうしよっかなーって」
「うッ」
そういわれると強く言い返せない。
そして、
「はい♪ 差し入れです」
――サンドイッチを…………手渡された。
「これを食べて午後に備えましょう! いきなりPT募集をするのではなく、“同じ依頼を受ける人”を探すのがコツですよ♪ そうして共闘を繰り返し、少しずつ打ち解けていくのはどうでしょう? ――。それでは、頑張ってくださいねっ」
――――。
ああ。いきなり教えてくれなかったのは……多分、しゃかいべんきょう? なのだろう。
――自分で体験しながらちょっとずつ覚えていこうね、と。
…………。
「うう――お姉さん! 僕は絶対凄い冒険者に成長してみせますからね!」
「はい♪ 楽しみにしています」
「――! はい!!」
僕は無意識に、笑顔で返事を返していた。
子供扱いされてるんだなぁと思いつつ――悪い気はしなかったのだ。
こうして僕は、苦く恥ずかしい思いをしつつ――また一歩、成長したのだった。