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花に口なし  作者: 桃崎 白
9/9

最終話_花に口なし


「はぁ、はぁ…。いないじゃん…。」


私は彼岸の姿を探していた。

けれど、彼の姿はどこにもない。


時刻は18時30分。

あたりはオレンジ色から薄闇へと変わりかけていた。



このまま、見つけられる保証は無い。

今日は諦めよう。

そう思い、入口を目指して芝の丘を下り始めてまもなく



「痛った!!!」



私のつま先に硬いものが当たった。

暗くて一瞬よく見えなかったが、よく見るとそれは人だった。



「痛てーな!おい!」



声の主は彼岸だ。



「あ!!!居たっ!!!」



罪悪感よりも、探し回っていた本人を発見した喜びの方が勝った。



「居た、じゃねーわ!謝れよ!!」



彼の言葉で我に返る。



「あぁ…頭を蹴っ飛ばして、ごめんなさい…」



こんな薄闇の中、芝生で寝そべっているなど、”私を踏み潰してください”といっているようなものだ。けれど、それは彼には言わないでおこう。



「ったく、気をつけろよ。」


「あのぉ…あれからパンジーさんと会いました?」


「パンジー?なんで、あいつの名前が出て来るんだよ」


「いやぁ、なんとなく…」



昼間の喧嘩の理由がなんだったのか知りたいわけじゃない。

ただ単に、彼の言動が気になるのだ。



「あいつとは昼間以降、会ってねーよ」



ぶっきらぼうだが、彼はちゃんと受け答えをしてくれる。



「パンジーさんって、結構、いい人ですよね?」



夕方、パンジーと出会ったのを思い出す。



「……さぁ、俺はあいつと仲良くねーから、知らねー」



自分には関係ない。いや、興味が無いといった表現の方が適当だろうか。

そんな風に、彼は言った。

私は他人の揉め事に首を突っ込むのが好きな野次馬ヤロウではない。

しかし、どうしても昼間の彼岸かれの言葉が頭から離れない_____



「あのぉ…」


「イメージだろ。どうせ。」



私の言いたいことを察したかのように、彼が話をさえぎった。



「あいつが、俺のせいにするのはイメージのせいだろ。」


「…イメージ?…ですか?」



「彼岸花。その花から、お前は何を想像イメージする?」


________________


彼岸花。それは彼岸の時期に咲く花として、その名が付けられた。

彼岸から連想するものは”死”や”不吉”といった言葉だ。


迷信の中には、

「彼岸花を家に持ち帰ると火事になる」

「彼岸花を摘むと死人がでる」

などというものもあり、


花言葉は、”あきらめ”や”悲しい思い出”だ。

誰が、いつ、どんな理由で、それを言い伝えたのかは分からない。

けれど、その花はとても良いイメージといえない。


_______________________


「そいつのイメージが悪ければ、おのずと、そいつに対する態度も、考え方も悪くなるんだよ…人ってのは…」



確かに、人間ひとはすべての人間ひとに対して同じ態度をとってはいないだろう。


好きな人、大切な人には、それなりの態度を。

嫌いな人、苦手な人には、それなりの態度を。


それぞれの人間ひとにそれぞれの態度を。

無意識のうちに使い分けているのかもしれない。


きっと、それが人間という動物の習性なのだろう。



けれど、彼岸かれの場合はどうだ。

彼のイメージは彼の悪行で培われたものではない。


生まれつき、そのイメージが、彼を決め付けている。


周り(みんな)にでっち上げられたイメージ。

それを周り(みんな)が鵜呑みにして、コミュニティー(なかま)の端へと追いやる。



それじゃあ、まるで____________



「それって、かなり、悲しいですよね…」



両方の目から涙が零れ落ちそうになる。

彼に見られまいと必死にそれを押し殺した。



「……」


「別に…。」



もう、慣れた。そんな感覚なのだろう。

それは、悟りのようで、どこか諦めにも似た気持ちなのかもしれない。



「決まっているものは、どう足掻あがいてもひっくり返せ無いんだよ。」

「それをずっと嘆き続けるのなら、俺は、それを受け入れる。それだけの話だ」



なんて悲しい考え方をしているんだろう。

けれど、それは身に覚えのある考え方だ。自然と涙がポツリとこぼれ出た。



「それは…違うと思います…」



抑えていた涙がぽろぽろと両目から零れ落ちはじめる。



「それは……違うと思います!!!!」



どうして、こんなに悲しい気持ちで胸が押し潰されそうになっているのか

私はとっくに気付いている____________



「”世間のイメージ(それ)”は、決して、本来のあなたの価値すがたじゃないと思います!!」


「…」



彼はまっすぐ前を向いたまま何も言い返えさない。



「自分の価値は、自分の行動ちからで変えていけます。」

「最初は、誰にも見向きもされないし、相手にもされないし、評価もされないかもしれないけど…」

「でも、きっと、自分が……自分が、自分を諦めなければ、未来の形は変えていけます!!!!」


「たとえ、悪いイメージがついちゃったって…最初からついてたって…」

「ずっと、ずっと、嫌われ者でいる必要なんてどこにもないんです!!!」

「何度だって、絶対、絶対、やり直せますから!!!!!」


「そんな、悲しい考え方は止めてください!!!!」



「っふ…」



ぼろぼろと泣きながら熱弁する私を見た彼が吹いて笑った。



「なんですか…」



今にも鼻水がポタリと地面に垂れてしまいそうなほど鼻水がそこまで顔を出している。

まるで大泣きした子どものような顔だったに違いない。



「それさ、俺に言ってんの?」



「えっ…」



彼岸の優しい、微笑む顔が一瞬見えた気がした。

その瞬間、突風が吹き、視界を遮った。


あまりの強風におもわず目を瞑った。

目をあけると、そこには彼岸の姿は無かった。



「あれ…」



まるで夢を見ているかのようなイリュージョンにきょとんとしていると



「僕の宿題の答えが分かったみたいだね。」



その声に後ろを振り向くと、クローバーが立っていた。



「彼岸が、消えちゃった…」



話の前後を説明せず、来たばかりのクローバーに今起こった出来事を言う。



彼岸かれならそこにいる。けれど、君にはもう見えないんだ。」



何を言われているのか分からない。

急に擬人化した花が見えるかと思ったら、今度は、その姿が見えなくなってしまったというのだ。



「君は、君自身の希望ねがいを自分の力で掴み取ることが出来るはずだ。」



私の希望ねがい



「友達は、花じゃなくて、人間になりそうだけどね。」



そう言ったクローバーはにこっと笑った。



「宿題の答え合わせをしよう!」


”そこにあるのにどこにもなくて、大勢に認識さられるとそれは存在することを許される。”


「それは、”価値”だ。」


「その人間ひとの価値は、周囲たにんの評価で決まるものだ。」

「けれど、君が言っていた通り。」

「一度付けられた価値だって、その人間ひと行動どりょくで何度だって変えることが出来る。」


「今は、自分を許せなかったり、自分が嫌いだったり、自分の価値を信じられなくてもいいんだ。」

「いつか、逆転ホームランを打てる日が必ず来るから。」



「…」



こんな私に、逆転ホームラン…



「奈々ちゃん。君の人生はもっと自由だ。」

「君の心は自由なんだ。」

「行きたい場所へ行って、会いたい人と会って、なりたい大人ひとになるんだ。」

「別に皆にほめられる大人ひとになるんじゃない。自分のなりたい大人ひとになるんだ。」



「奈々ちゃんに足りないのは価値じゃない。」

「友達でもない。」

「ほんの少しの勇気だ。」



_________勇気…_________



「人生はジェットコースターと一緒だ。」

「乗る前は怖くて、乗るのを躊躇ためらうかも知れないけど、一度乗ったら、いやがおうにも進むしかない。」

「それで、進んだ先では、”思ってたより大したこと無かったねー”ってなるんだから!」


「そう…かなぁ……」


「人間の人生は長くない。貴重な人生じかんだ。」

「たくさん、たくさん、やりたいことをやっていいんだよ!!」

「たくさん、たくさん、失敗してもいいんだよ!なんでも、挑戦していいんだよ!」



________私のやりたいこと____________


「私、大学に行きたい…」


「うん!」



そう、受け止めてくれたクローバーの笑顔は優しかった。



「それから、新しい友達を作りたい。意外にパンジーとか、気が合うかもしれない!!」


「うん!」


「それから、怖いけど、バイトもして、お小遣いがもっと欲しい…」


「うん!」


「それから、それから…」



自分でも驚くほど、心の中はやってみたいことで溢れていた。

自分で蓋をしてビンの中に閉じ込めた気持ち。心の奥底にしまっていた気持ち。

その蓋をクローバーが取り除いた。



「これからさ!! ……」

「クローバー?…」



やりたいことを一所懸命指折り数えているうちに、クローバー(かれ)の姿も消えていた。

19時前の公園に残っていたのは私、1人だけだった。



___________________


あれから1ヶ月が過ぎた。

私は何度かあの公園を訪れ、花たち(かれら)の姿を追い求めるも、それが叶うことは無かった。


彼らには、私の姿が見えているのだろうか。

園内を探し歩く度にそう、考えてしまう。


あれは、とても不思議な1日だった。

なんせ、擬人化した花が見えていたのだから_____

たった1日の出来事だったけれど、あの日のことは今でも鮮明に覚えている。

と言うよりは、忘れたくても忘れることはないだろう。


なんせ、私が忘れていた大切な思いを思い出させてくれた日だったのだから。



中学校のいじめ以来、自分のことが大嫌いになった。

いじめた友達も嫌い。助けてくれない友達も、自分を甘やかす親もみんな、みんな嫌い。

けれど、何よりも、いじめなんぞにあっている自分が一番嫌いだった。


惨めで、恥ずかしくて、誰に謝ればいいのか、誰を怒らせているのか、何もかもが曖昧で大嫌いだった。

私がいじめられた理由。それは、私の価値が低いことにあると思っていた。

だから、私がいじめられたのだと。


けれど、それはきっと違っていた。

自分の価値を一番下げていたのは、自分自身だった。

それに気づかせてくれたのは、花たち(かれら)だ。


自分の価値は、自分の行動どりょくで変えていける。

周囲せけんの声を100%鵜呑みにして落ち込んでいてはバッターボックスにさえ立っていないのと同じなのだ。

それでは、いつまで経っても逆転ホームランは打てない。


今はバッターボックスに立てなくてもいい。

立ちたいと思った日がやってきたら、ホームランを打つ練習からはじめるのだ。

自分の価値は受け入れるのではなく、変えていくものなのだから。


___________________


もう一度花たち(かれら)と話がしたい。

本音を言えば、花たち(かれら)と友達となってみたかった。


けれど、もう、花に口はない。

再び彼らと会話が出来る日は、もう、一生こないのかもしれない。


けれど、私には口がある。

自分の意見を言う口。自分の心を伝える口だ。

その口を閉じたままにするのはもうやめよう。


私は、私の新しい価値じぶんを育て上げるのだ


_________


End










はじめまして、桃崎白です!


「花に口なし」これにて完結です!

1度でも読んでいただいた方、評価をしてくださった方、本当に、本当にありがとうございました!


「花に口なし」は桃崎の処女作でございます!

思っていたよりもシリアスになってしまいました(汗)



未熟な点も多かったかと思います。感想などで叱咤激励が頂戴できると幸いです^^

別の長編小説も考えておりますので、ぜひ、そちらもご贔屓にしていただけるとありがたいです!



貴重なお時間を桃崎の小説に使ってくださったこと、とても感謝しております。

ありがとうございました。

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