第5話_タンポポとの出会い
私だけコンビ二で昼ごはんを買った。
彼曰く、自分は人間ではないため食事は取らないのだとか…。
彼の言動にいちいち反応するのをやめた。
きりがないからだ。
”そういう体”ということで話を聞こう。そう決めたのだ___。
「今日もここは平和!平和!」
自分の家へ帰ってきたかのような口ぶりで彼はそういった。
突然、彼が袖を強く引っ張ってきた。
「ほら、あそこにいるの。タンポポたちじゃん!」
その行動にびっくりして”何っ!?”と言わんばかりに彼を睨んだ。
だがその相手は、私の顔など一切見ることなく遠くにいる”何か”を見つめていた。
「行って見る?」
パッと急にこちらを向いた。
その時、彼とばっちり目が合った。___
なかなかきれいな顔をしている。____
「はい?」
袖を引っ張られたり、顔が間近に飛び出してきたり、
近年の私とは無縁の行動が立て続けに起こったおかげで、彼の話など一切頭に入っていない。
それに気がつけば、なぜか鼓動が早くなっていた___。
これは。 ____
なんだ。 ____
「あそこに2人の女の子がいるでしょ?」
「あの子達、タンポポだよ?話しかけに行こうよ!」
やっと彼の話が頭に入ってきた。タンポポ?。
彼が視線を向けている方へ私も目をやった。
確かに、その方角には2人の女の子が芝の上に座っていた。
1人は黄色の髪のショートヘア。もう1人は白髪のロングヘアの女の子だ。
”タンポポ”
その名と2人の頭髪の色から、タンポポの花と綿毛を連想した___。
いやいやいや。ちょっと待て。
どう見ても彼女たちは人間だ。(隣にいる奴も人間の姿をしているが…)
「ねぇ、聞いてる?」
遠くの2人に想いをはせていると急に端正な顔が目の前に飛び出してきた。
「もう、いいや。いくよ。」
少し呆れたよな声でそういった彼は私の手首をつかんでずかずかと歩き始めた。
向かう先はもちろんタンポポシスターズの下。
「おはよう!何してるの?」
その口ぶりはまさに顔見知りといった感じだ。
「あれー?クローバーだぁー。おはよう。」
DVDの再生速度を0.5倍にしたかのようなスローリーな口調で話しをしたのは黄色の髪の女の子だった。
「この子ね、僕の友達。奈々子だよ。僕たちも話に混ぜてよ!」
「なっ!」
私は彼の友達ではない。
というか、急に話をしろと言われても何を話せばいいんだ…
同世代の女の子と会話をするなんて約4年ぶりくらいだ…
何を…話したら…_______。
「ねぇねぇ、奈々ちゃんは私たちがみえるのぉー?」
スローリーイエローが話しかけてきてくれた。
「えっと、見えるよ?」
「でも貴方、人間よね?」
そう言い放ったのは白髪の女の子だ。
スローリーイエローとは真逆だ。ピシャリとクール。そんな表現がお似合いだ。
なんだかクールな人って妙に威圧感を感じてしまう…。
勝手に感じているだけなんだけれど…。
綿毛女子…怖いぞ……。
「そ、そうなんですけど…」
彼女の第一印象を評価すると同時に、質問に答えねばと、頭を回転させる。
「何で見えているんですか?」それが彼女達の質問だろう。
何で見えているんですか___。
何で____。ですか____。
そういわれても…
「ホワイトは細かいよ!見えるものは見えるし、話せるものは話せるの!以上だよ!」
助け船を出してくれたのはクローバーだった。
そして”ホワイト”と呼ばれたのは白髪の女の子のようだ。
「クローバー、またお前の仕業か?」
ギロリと視線がクローバーに向けられた。
「何がよ?怖い。怖いよー助けて、イエロぉー」
そういって今度は彼が助けを求めた。
その相手はどうやらスローリーイエローのようだ。
「白ちゃん、四ちゃんが怖いって言ってるよぉ?。やさしく。やさしく。」
相変わらずのスローリーイエロー。
「ふんっ」
そういってホワイトと呼ばれた彼女はそっぽを向いてしまった。
その表情は”どいつも、こいつも”と言いたげな顔だ。
3人のやり取りをボーっと眺めていた。
その会話からは妙な懐かしさを感じた。他愛もない会話___ただの、他愛も無い会話____。
自分でも気がつかないうちに自然とほころんでいた。
「あれぇー、奈々ちゃん何か持ってるぅー」
急にスローリーイエローに話しかけられた。
ボーっとしていたせいもあり変に焦ってしまった。
「あっ、こ、コレは私のご飯…。お菓子は…買ってこなかったなぁ」
彼女に袋の中身をねだられた様な気がした。
すると彼女が突如クスクスと笑い出した。なぜ、笑われているのか分からなかった…。
きょとんとしている私を見かねたホワイトが口を開く。
「私達は人間の食べるものは口にしない。」
あぁ…確かクローバーもそんなこと言ってたなぁ…
「ふふっ。奈々ちゃんって優しいんだねぇー」
暖かな笑顔が私に向けられた。
陽だまりのようなその笑顔。私に向けられたその笑顔。それを見た私は一瞬、時が止まるのを感じた。
__「奈々ちゃんって優しいんだね」___
そんなこと何年ぶりに言われたんだろう…。
その言葉が驚く程に私の心を包み込んだ。
____わぁ…泣きそう…。____
何に感動しているのか分からない。けれど、涙腺が激しく緩むのを感じた。
しかし、すぐに正気を取り戻す。
初対面の人たちとの会話だ。しかも10分も経っていない。今、涙を流せば変な奴になってしまう。
すぐに涙を眼球の裏に引っ込めた。
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「あんたさ、ちょっと聞いてるの!?ねぇ!!!ねぇったら!!!」
遠くの方から若い女の子の怒鳴り声が響いてきた。
怖っ…。
こんな平日の真昼間の公園で怒りをあらわにするなど、ただ事ではない。
事故でも起こされたのか?…。
そんなことを考えていると
「あれぇーパンジーがまた喧嘩してるぅー。」
パンジー?彼女は外国人なのか?パンジー?聞き覚えのある単語だ。
「また、彼岸ともめているんだろう。」
彼岸。お彼岸…。彼岸ともめるってどういうこと????
スローリーイエローとホワイトの会話が理解できない。
私の頭の中が一気にハテナマークで埋め尽くされた。
「奈々ちゃん、奈々ちゃん!仲裁に行ってきなよ!」
ニヤニヤした顔でそう提案してきたのはクローバーだ。
「いや、意味分からないですよね…。」
「なんで、見ず知らずの男女の喧嘩を私が止めるんですか?」
「だって、彼らも僕らと同じ花だよ?」
____花?…。____
パンジーって花のパンジー?じゃあ、彼岸は…彼岸花!?
私は今、パンジーと彼岸花のバトルを目の当たりにしているのか。
「公園は癒しを求めに来る場所でしょ?」
「喧嘩は誰も幸せにしないよ。止めてあげないと。」
むしろ、癒しを提供している側は花なのでは?とツッコみを入れたくなった。
花の気性が荒いなど誰も想像してないだろう…。
パンジーと呼ばれているその人は、どっからどう見てもギャルだ。
そして、彼岸と呼ばれていた彼は、どっからどう見てもヤンキーだ。
ギャルとヤンキーの喧嘩の仲裁。そんなこと常人に出来っこない。
ましてや常人以下の私に出来るはずなど無いのだ。
「いや、無理ですよ!」
「無理じゃない!公園の平和は僕たちが守るのだ!」
完全な悪ノリだ。
にやっと謎の笑みを浮かべたクローバーにまたもや手首をつかまれた。
そして私は ギャル VS ヤンキー の下へ連行されてしまったのだった_________