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異界序列  作者: せれしあ
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第八話


 素手の人間と、槍を持った人間が戦っていた。

 『剣道三倍段』と『槍術三倍段』の法則によれば、素手の人間は槍を持った人間の九倍実力がないと、それに対抗できないといえる。


 槍使いは『神槍』と呼ばれるほどの名手。 当然そんなことは、あり得るはずがない。


 ―――あり得ない。 拮抗どころか、圧倒することなどできるはずもないのだ。




 機関銃の如き、打撃音の連鎖。

 槍が風を切る音など、全く聞こえない。



 「……くうっ」


 『神槍』のアリシアが、槍を捨ててかかってきた宮沢に圧倒される。 その双槍は振るわれる前に、全て弾き飛ばされていたのだ。


 殴る。 殴る。 殴る。 殴る。


 男性にも急所があるように、女性にも急所はある。

 執拗なほど的確に、宮沢はアリシアの急所を攻撃し続けていた。


 彼女の心の中に、恐怖が蓄積されていく。

 死なないのはわかっている。 だがしかし、『いずれ死ぬのではないか』という幻想が、振り払っても振り払っても離れない。


 

(いや、あり得ない!)


 断定したアリシアは、激痛を堪えながら槍を振るおうとする。


 しかし、攻撃はさせて貰えず。 『そもそも攻撃させられなければ、負けるも何もない』という理屈のもと、宮沢はアリシアを蹂躙していた。


(流石に十二姫だね。 この位では壊れないか)


 数分ほどたって、宮沢は冷静さを取り戻していた。 ―――より的確に、アリシアの急所を捉えるようになる。


「『Situation is what has become?(状況はどうなってる?)』」


 宮沢がふと、無線機能で仲間と連絡を取り始めた。 その間にも、攻撃の雨はやまない。


「『Пока нет проблем. Миядзава, как есть, остановить врага

(今のところ問題なしだ。 宮沢はそのまま、敵を食い止めてくれ)』」


 英語の質問に、ロシア語で返答が為される。


「『我明白了如果公主认真出来,我将无法控制,也许我可以问与与那国的合作

(分かったよ。 姫が本気を出せば僕では手に負えないから、与那国さんに協力を仰ぐかもしれない)』」


 宮沢は藤崎の回答に、中国語で返した。 英、露、中の並びは、敵に自分たちの使う言語を解析させないという意味合いがある。


(……何かの詠唱か?)


 アリシアは宮沢の予想通り、彼らの会話が理解できなかった。

しかし目の前の宮沢が表情を変えたのを見て、『何かある』と言う事を瞬時に悟った。


(このままでは、何が起こるかわからない)


 もう、許容範囲外だ。


「『levis est(光あれ)』」


 光が、爆ぜた。

 彼女の『真の力』が、解放される。



 それは、一瞬の出来事だった。

 『神性』の解放。 物理法則からの解放。


 アリシアはこの瞬間、あらゆる限界を超越した。



「―――」


 音もなく、振るわれる神槍。


「―――っ!」


 怪物じみた動体視力が、神速の一撃を捉えた。

 宮沢はそれを回避し、反撃を入れようとする。


(……なん、だって)


 しかし、それは叶わない。

 『回避した』と言う事実を捻じ曲げられ、『回避できなかった』と言う幻想が真実になる。


(……ならば)


 真後ろには、先ほど地面に突き立てた槍がある。 彼はそれを取ろうとして―――


(おいおい、そりゃぁないだろうって)


 『防御した』と言う事実を捻じ曲げられた彼の手は、槍を掴むことができず空を切った。

 『槍を持ってアリシアの攻撃を受け止めた』と言う現実は、『なかったこと』になった。


 相手が『回避した』『防御した』事実を捻じ曲げ改変し、対象のあらゆる抵抗を無視して必殺の一撃を与える神槍。

 それが彼女の振るう、『ヴィクトリア』と名付けられた黄金の槍が持つ真価だった。



 彼には現在、この状況を打破する手段はない。

 と言うよりもこの神槍、一騎討ちの状態では相手に対策する方法はほぼ、皆無である。


 ―――しかし彼『以外』に状況を改変する外因があれば、『必死』の運命から抜け出すことはできる。


 宮沢の心臓を貫こうとしたアリシアが、上空から降ってきた焔の矢を打ち払う。

 膨大な熱量を放ちながら爆散した火矢は、宮沢を吹き飛ばすという形で、彼を滅亡から救った。



「『神性』持ちが居るのか。 ―――これは、楽しくなりそうだ」


 先程とは打って変わって獰猛な笑みを浮かべたアリシアの眼が、彼女を天空で待つ与那国の姿を捉えた。

どうでしたか? ブクマと感想、良ければ評価までして帰っていただけると嬉しいです。

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