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異界序列  作者: せれしあ
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第七話


 ティーン王国東端、辺境都市ヴァルカン。

 その城門に転移した藤崎ら十人は、目の前の軍勢に戦慄した。


「多いな、こりゃぁ」

「多いなんてものではない。 人数差は圧倒的だ」


 後ろの王国兵士には、何が何だかわかっていないようだった。


「『安心してください。 私たちは王国の味方です』」


 藤崎の声が、拡声機により王国中に響き渡る。


 

 何故、彼女はそのような機械を所持しているのか?

 答えは、彼女たちが持ち歩いている『端末』にある。


 超高性能端末。 名前は無いが、『ノート』とでも呼称しよう。


 ノートには、様々な機能がある。

 イヤホンと併用した、クラス間での無線機能。

 周囲の地形情報を解析する、レーダー機能。

 そして、藤崎が用いた拡声機能などの、各種便利機能。 勿論カメラも、ボイスレコーダーもついている。


 耐久性は抜群、特殊な電源装置によって電池切れは発生しない。 日本の最先端技術の粋を集めた、『本気』の逸品だった。


「『私たちは、王都にて異世界より召喚された、勇者と呼ばれるものです』」

「『王女エリア様の命により、この都市の防衛に助力いたします』」

「『どうかご安心ください。 あなた方の生命と幸福は、私たちが守ります』」


 歓声が上がる。

 絶望に打ちひしがれていた王国軍の兵士に、希望の灯が再燃する。


「テンプレ台詞でこれほどとはねぇ。 ―――カリスマ性が違うってもんだな」


 褒めているのか貶しているのかわからないコメントをしたのは、椎葉だろうか。


「さて、行こうか。 皆、無線は切るなよ」

「うるさくても?」

「うるさくてもだ」


 いつも無線を切断している三枝に、藤崎が釘を刺した。


「そう。 ……わかったわ」


 先程の声を聞いて、帝国軍と思わしき人間たちが都市へ攻めよって来る。


「みんな、これは戦争だよ。 容赦はいらない、虐殺する程度で十分だ」


 宮沢が、他の九人に向けて心構えを示す。 この中では彼が一番、戦いに慣れていた。


「いつものゲームと同じだろ」

「喧嘩と大して変わらんな」

「バレなくていいなんて素敵ですね」

「容赦は無しで、良いんだ」


 ―――そんな言葉は、必要なかったようだが。


「あぁ、そうかもしれないね。 久世さん、味方だけは巻き込んじゃだめだよ」

「巻き込まれる軟弱ものなんて仲間じゃないわ、むしろ敵よ」


 切り込み隊長は、宮沢である。 要するに彼が一番、巻き添えになって焼け死にやすいと言う事だ。


「……邪魔しないように、頑張るね」


 これ以上、何を言っても無駄だ。 最近そんなことが多いな……。

 そんなことを思っていると、帝国側から降伏勧告が為された。


「『武器を捨てて投降せよ。 生命と人権を保障する』」


 その言葉は少しだけ、十人には意外だった。


「侵略国家にしては、随分と良心的だな」

「あっちの王が、転生者だったりするんじゃねぇ?」


 蔵馬と椎葉が、率直な感想を漏らす。


「『丁寧な勧告に感謝する。 しかし遺憾ながら、その勧告は受け入れられない』」

「おい、藤崎」


 何時もの藤崎らしからぬ独断専行に、蔵馬が驚愕した。


「何、勝手に拒否してるんだよ。 こういうのは都市の権力者がだな―――」

「この場の最高決定権は私にある。 エリア王女には、先ほど了解を頂いた」


 いつの間に。 蔵馬が思案している内に、帝国軍は動き始めた。


「『こちらこそ、誠に遺憾である。 要求の拒否を受理した。 これより、武力行為を開始する』」


 前方で、膨大な魔力の収束が始まる。 砲門一門などでは決してなく、数百門をゆうに超える。

 魔法銃と呼ばれる平気だと、エリア王女は言っていた。 敵国の主要兵器で、王国はこれに苦しめられていると。


「『さらばだ、ヴァルカンの諸君』」


 都市一つを消滅させる光芒の束が、一斉に放射された。


 東郷大和の異能は、『金剛風』という。

 その名の通り金剛の様に硬質な乱気流を身にまとい、あらゆる攻撃を防御する異能だ。 自分の攻撃に風を乗せることもできる。

 

 風の防壁は特に、投擲、放射系の攻撃に対し有効である。 政権の一撃でも、この防壁を破るのは困難だろう。

 彼の異能は効果範囲が狭い分、威力が強いものとなっている。 あの光芒が『束になっても』、すべて防ぎきるはずだ。


 数百を超える光芒が、突如空中に出現した鏡によって少しずつ、その向きを変えられてゆく。


 すべてが一つに収束し、膨大な威力を持った光芒が、 ヴァルカンの城門に襲い掛かる!



「―――ふん!」


 一歩大きく前に出た東郷が、異能を発現させた。

 迫りくる光を、金剛の乱気流がせき止める。


「なにっ!」

 

 帝国軍側からそんな声が、聞こえた気がした。


 光芒の勢いは弱まらない。

 少しずつ押されている東郷は、自らを鼓舞するように。


「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ―――吼えた。 

 その咆哮に呼応し、乱気流がその勢いを増す。 光芒の勢いがようやく、弱まってきた。



 轟音を上げながら、風と光がぶつかり合う。

 数十秒にあたる激闘の末、勝利したのは東郷だった。


「東郷君、お疲れ様」


 そうやって彼を労ったのは、三枝だった。


「体力は大丈夫そうかしら」

「あぁ、問題ない」

「そう」


 簡潔な会話。

 三枝はこの戦いでの、自分の役割を把握していた。


「宮沢は―――行ったか」


 これまでの僅かな時間で、突進していった戦士が一人。


「えぇ。 ……まさしく、猪の如くね。 雑兵の相手は、彼と椎葉君に任せていればいいわ」

「そうだな」


 宮沢のことになるとつい、三枝は一言多くなってしまった。

 それを自覚しつつも、『それが何か?』とすまし顔ができる彼女は大したものだろう。


「んじゃ、俺は狙撃に集中すっか」


 そう言った椎葉が、異能によって作り出した照準器を構える。

 彼の口元からニヤリと笑みがこぼれた瞬間、無数の凶弾が結果だけを引き連れて撃ち出された。


 人間の足の速さは、せいぜいが百メートル九秒台だと言われている。

 彼我の距離は数百メートル。 常に最速で走れるわけでもなく、走って迫るのには、一分弱はかかるはずである。 ―――が、宮沢にこの常識は、当てはまらない。


 武術には『縮地』と言う技がある。 長距離を一歩で詰める、達人の業だ。

 彼が一歩で詰められるのは、十五メートル前後。 およそ四百メートル離れた地点になど、二十七歩あれば足りるのだ。


 最初の踏み込みでかなりの距離を詰めた宮沢が踏み込んだ歩数は、結局二十四歩だった。

 帝国軍の兵士が硬直する。 いきなり目の前に人が現れて、驚かない人間がいないわけがない。


 その兵士に、次の一瞬はなかった。

 胴を真っ二つに切り払われた彼は、介錯とばかりに首をも飛ばされ、一瞬で絶命した。


 周りの兵士に、動揺が広がる。

 そして彼らにも、次の一瞬はなかった。


 穂先の鋭い長槍―――蔵馬特製の傑作である―――を持った宮沢が、わずか数秒で十数人もの人間を斬殺した。


 恐怖で体が動かない兵もいれば、咄嗟に銃を構える兵もいた。

 ここが普通の戦場であれば、前者は死に後者は生き残るかもしれない。


 部隊の中心に自ら突っ込んで行く宮沢。 狙いは指揮系統の破壊。 場所は『視えて』いる。


 先程の話に戻ろう。

 彼らは優劣なく平等に、宮沢の一槍で葬られた。



「クソっ! 何なのだ、一体!」


 楽勝であるはずの戦況が芳しくない。 ―――それどころか、数分単位で被害が激増してゆく。

 帝国軍指揮官のシルヴァは苛立たしげに、そう吐き捨てた。


「随分と勇ましい者がいるようだな」


 彼の声にこたえたのは、『十二姫』が一人、『神槍』のアリシアだった。


「あ、アリシア様! 何故、こちらに」

「ミーシャが行けと言うのでな。 クラムとの逢引を中断して来たところだ」

「さ、左様でございますか」

 

 若干彼女が不機嫌なのは、それが原因らしい。 確かに愛する者とのデートを中断されては、良い気持ちはしないだろう。


「―――私が出る。 できる限り、すべての兵を下がらせろ」

「はっ、承知いたしました!」


 そうやってアリシアは、相棒の双槍『グロウリィ』と『ヴィクトリア』を手に、その場から『飛翔』した。


 栄光と勝利の神槍姫、アリシア。

 『十二姫』の中でも最強と名高い彼女が、宮沢に襲い掛かる―――!



(……来る!)


 雑兵を片っ端から蹴散らしていた宮沢が、膨大な殺気を感じ身構える。

 手が止まったことにより周りの兵が銃を構えたが、引き金が轢かれる前に全員『射殺』された。 椎葉の仕業だろう。


 槍の耐久度はまだ持つな。 ―――などとRPGじみた思考を行ってから、空中から音速を超えて突進してきた女騎士へ対抗すべく、宮沢がカウンターを放った。


(……取った)


 チェックメイト。

 アリシアの槍は宮沢にはかすりもしておらず、 対し宮沢の槍はどう足掻いてもアリシアの首元に命中する。


 一瞬の後に、姫騎士の亡骸が地面に激突するだろう。 彼は勝利を確信しようとして、


(―――訳がないか)


 改変される現実に、諦念を持った。 



 神槍のアリシアが持つ二本の槍、『グロウリィ』と『ヴィクトリア』。

 『栄光』と『勝利』を司る二本の神槍は、持ち主に『不滅』と『不敗』の祝福を与える。


 彼女は、どのような状況になっても負けることはない。 それは危機に陥ることがないわけではなく、本来負けるはずの状況が、祝福によって強引に『勝てる』状況に改変される、ということだ。 じゃんけんで例えるならば、こちらがグーを出し相手がパーを出したとしたら、次の一瞬には相手がチョキを出していたことになる。


 酷評するならばただのチート、反則、インチキである。 神槍もクソもない。 因みに先ほどの説明は『不敗』に対するもので、彼女はどんな攻撃を喰らおうが絶対に死ぬことなく再生するという、冗談みたいな祝福『不滅』も併せ持っている。



 チェックメイト。

 アリシアの槍は宮沢の心臓を捉え、宮沢の槍は完全に狙いを外していた。


(そりゃぁ、ないだろうさ)


 純粋な武術を競い合いたい宮沢からしたら、とんだ興醒めである。

 命中ギリギリでアリシアの槍を躱した宮沢は、アリシアの腕を掴んで彼女を、力まかせに明後日の方向へ放り投げた。


「ほう、中々―――」


 アリシアの言葉を聞く前に、宮沢は彼女を蹴り飛ばしていた。

 鎧のお陰で死ぬことはないが、アリシアは冗談みたいな距離を吹っ飛ばされる。


「黙ってくれると嬉しいな、アリシアさん」


 珍しく頭に血が上っている宮沢は、技の加減を完全にやめていた。


「……がはっ」


 鎧越しから内臓を破壊され、アリシアが大量の血液を吐く。


「最近異能やら祝福やらに負けすぎて、僕はちょっとキレ気味なんだよね」

「……くっ」


(ちょうどいい。 この人は殺そうが死なないんだ)

(……だったら)


 宮沢が、口の端を釣り上げた。


「責任の一端は、君にもあるんだ。 だから……。

殺してくれと乞うてくるまで、何度でも壊してあげよう」


 ―――怪物が、牙をむく。 

どうでしたか? ブクマと感想、良ければ評価までして帰っていただけると嬉しいです。

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