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異界序列  作者: せれしあ
3/12

第二話



「―――冗談、ですよね?」


 篠崎ら十人が異世界に旅立ってから、一週間が経過した。

 否、一週間で、最初の学習が完了した。


「まだまだ細かい部分は間違えるかもしれませんが、大概のものは」

「いえ、嘘です。 私達ですら習得が困難な大陸語を、たった一週間で」


 篠崎の声は、さも当然としたものだ。 対しエリアは、信じられないものを見たような声で、彼女の言葉に答えた。


「文法が私たちの知る言語に似ていましたので」


 ラテン語に法則が似ているそれは、やろうと思えば彼らには一週間程度で理解できるものだったのだ。 与那国など、二日目にはほぼマスターしていた。

 基本的に彼らは、ぱっと見したものですら完全に記憶する。 フラッシュ計算の様に単語を羅列されようが問題ない。 当然のように習得する。


「人間の学習能力ではありませんよ……」

「いえ、私たちはれっきとした人間です」


 某有名ゲームの表現でいえば『6Vの色違い』である彼らに何を言おうが無駄である。 篠崎らは天才というよりも、超人と言ったほうが適切だろう。


「そ、そうですか。 それで、巻物のほうの解読は」

「終わりました。 丁度昨日、解読したところです」

「おぉ! 内容、内容はどうなりましたか」


 余裕がないエリアを、藤崎は冷たい目で見ていた。


「そうですね。 まずは、私の能力について説明いたしましょう」


 目の色に温かさを戻し、藤崎は自らの異能について説明を開始した。



 『純潔の氷帝』。 簡単に言えば、処女である内は絶大な力を持つ、というものだ。

 詳細に言えば、水分子の支配。 氷の練成、射出は勿論のこと、水分を持つ生物の支配も可能となる。

 氷の魔女というには少々強力すぎるこの異能だが、処女性を失った瞬間にすべての能力が消滅することを考えれば、妥当と言えるかもしれない。


「大体、こんなものですね」


 生物の支配という内容をまるっきり伏せて、藤崎がエリアに回答した。 嘘発見器を仕掛けられている可能性は否定できないが、言っていないだけで嘘はついていない。


「そうですか。 大体、というのは」

「お気になさらず。 実際に使用したことのない力ですので」


 これも、嘘は言っていない。 それも一つの要因だからだ。


 その後の九人も、少しずつ情報を操作してエリアに伝えた。 久世の異能は元々不可思議なものだったので、騙す必要はなかったのだが。


「皆さん、とても強力な異能をお持ちのようですね」


 どこがだ―――と宮沢と三枝は思ったのだが、エリアにとっては非戦闘系の異能でも強力なものであるらしい。


「正直、実感はありませんが」

「外に出ましょう。 広間で、あなた方の異能をお試しください」


 一刻も早く、十人の異能を確認したいエリア。 

 「まるで子犬だな」と、誰かが思ったのは仕方あるまい。



 連れられた場所は、当たり前だが王城の練兵場だった。 特別に時間を空けてくれたらしい。


「こちらの的に照準を絞ってください」


 十人に宛がわれたのは、魔法の訓練に使うような的だった。


「それでは、どうぞ」


 エリアの号令に合わせて、各々が異能を発現させ―――ようとした。

 しかし実際に破壊されたのは、十個の内四個だけ。 エリアは少し、予想外と言った表情を見せた。


「……どう、されました?」


 宮沢と三枝は異能を発現させたものの破壊は出来ず、佐藤、東郷、久世、与那国は余波を警戒して異能を発現しなかった。 的を破壊できたのは藤崎、蔵馬、桜木、椎葉の四人。 彼らの優秀さを見ると、少し物足りなく見える。


「僕と三枝さんは、異能を使ったところで攻撃は出来ませんから」

 

 少し疲れた様子の宮沢が、エリアに答える。


「俺の異能をこんなところで使えば、皆に迷惑をかける。 大方、佐藤や久世、与那国も同様だろう」


 否定の声は出ない。


「そう、ですか。 もう少し、広い空間が必要ですか?」

「あぁ。 俺の異能であれば、何もない平野が望ましい」


 風圧で味方に被害が及んでしまうことを恐れた東郷は、異能をここでは発現しなかった。

 

「私は、ここでもいいのですが」


 そんなことを、佐藤が言った。 では、なぜ先程は発現させなかったのだろうか?


「できれば、一人にしていただけると幸いです」

「皆さんがいらっしゃると、何か不都合があるのですか?」

「はい。 まだ私が、どれほど制御できるのか。 ……それがわかっていない内は」

「分かりました。 それでは、終わり次第お伝えください」


 トントン話で会話が進んでいく。 藤崎が何も言わない所を見ると、既定路線であったのだろう。


 平原では、与那国と東郷が異能を発現させた。


 片方は膨大な熱量が発生したがそれを制御し、片方は膨大な風圧が発生したがこれを手なずけた。


 平原が文字通り『荒野』に変わった瞬間を見て、エリアは唖然とした。


 (貴方たちは、化け物ですか……!?)


 無論、そんなことは口にしない。 思った事がそのまま飛び出るほど、エリアも甘くはなかった。


「みんな強いなぁ。 ……僕の異能は、視るだけだから攻撃できないや」


 宮沢がふと、そんなことを口にした。


「お前ならば大丈夫だろ。 正直俺は、異能をもってしてもお前に勝てるとは思えねーぞ」


 椎葉がそう返したことに、エリアが疑問を持った。


「シイバ様、ミヤザワ様は、それほどお強いのですか」

「え、見てわからねぇ? こいつは地球上―――いや、俺らのいた世界の中では、人類最強の怪物だぜ」


 ……一瞬、エリアには理解できなかった。 

 人畜無害な表情をしているミヤザワ様が、世界最強?


 エリアにはそれが、冗談のように思えた。 表情は完全に、彼の言葉を疑っていた。


「大げさだなぁ。 どうあがいてもアキレウスよりは遅いし、オリオンより弓は下手だし、武蔵と斬り合えば負けるだろうし、巨人と喧嘩しても良くて相討ちだよ」

「アキレウス? オリオン? ムサシ? ……ミヤザワ様、一体何を言っていらっしゃるのですか?」


 宮沢の謙遜も、エリアの疑問を誘った。 しかしこの場にいる九人にはそれが、『現在の地球上に』敵などいないという、宮沢の隠された自信であることを見抜いていた。


「前二人は伝説上の英雄。 武蔵っていうのは俺たちのいた国にいた、剣豪の名前だ。 ……こいつにはその位しか、比較対象が居ねぇのさ」


 そんなことを言われても、実感が沸かない。

 エリアの思考は、完全に読まれていた。


「まぁ、信じられねぇだろうから。 この国の騎士団長とでも、戦わせたらどうだ」


 椎葉の提案に、エリアは応じる他なかった。




「ティーン王国騎士団団長、エドワードです」

「ミヤザワです。 胸をお借りしますよ」

「いえいえ。 話によれば、胸を借りるのはこちらになりそうですぞ」


 王城の練兵場で、二人の剣士が相対していた。 それをエリアと九人の級友、そして興味をそそられた騎士たちが見ている。


「では、始め」


  エリアが号令し、エドワードが宮沢に向けて突進した。


「はぁぁぁぁっ!」


 激しい気迫とともに、両手剣が振り下ろされる。

 今回二人が振るう得物は、ともに両手剣だ。 公平を期すため、全く同じ形の剣を持っている。


 そんなエドワードに、宮沢は声を上げることもなく。

 冗談からの振り下ろしをいなし、それと同時に、神速の一撃をエドワードの首に叩きこんだ。


 誰もが、エドワードの死を連想した。

 芸術とすら言える一撃でエドワードの首が断たれ、鮮血が舞うさまを、想像した。


 しかし剣は、エドワードの首に添えられただけ、だった。 すぐに間合いを離した宮沢は、エドワードに向け構え直す。


(今のは、完全に死んでいた)


 遠き日に父親と行った稽古を思い出しながら、エドワードは宮沢に再度向かっていった。

 今度は刺突攻撃を行う。 両手剣の質量を載せた一撃は、宮沢の華奢な肉体など弾き飛ばして余りある。


 しかしその一撃は、指二本で容易く、宮沢に制止させられた。


(化け物か……!?)


 流石にこれは、エドワードにも予想外だった。 そして両手剣が、エドワードの右目に突き付けられ、またすぐに離される。


 ここまで来てエリアは、エドワードが宮沢に『遊ばれている』のを理解した。 彼の異能は視覚の変質と言う事らしいが、それを練習しているのだろうか。


(むっ、今のは危なかった)


 視覚を完全に変質させた上、五感の一切を後回しにして変質したそれの理解に集中していた宮沢にとって、今の一撃は第六感、直感だけで知覚しなければいけないものだった。 ……と言うよりも宮沢はこの試合、全て直感しか使っていないのだが。


(『未来視』は出来るみたいだけど、肉体の動きを合わせるのは難しいな) 


 彼は彼で、何か違うものと戦っていた。 エリアはこの状態を『遊び』と見たが、実際には『実験』だったのだ。 まぁ本来の趣旨である『試合』ではないのは、確かと言えるだろう。

 宮沢は自分の異能で、エドワードの動きを完全に先読みしようとした。 彼が嫌うのは視覚からの奇襲や、思いもよらぬ一手を繰り出されること。 それにすべて対応しきるには、直感だけでは足りないとわかっていた。


(まぁ、練習だ。 この人は強いから、甘えずに訓練できそうだな)


 補足するが、エドワードの剣の腕前は超一流で、その斬撃は音速を超える。 それを軽くあしらって見せる宮沢が、化け物すぎるだけなのだ。



 その後、三十分あたり稽古は続き……。


「いやぁ、参りましたミヤザワ殿。 私もまだまだ、鍛え方が足りませんな」

「いえ、こちらこそ胸を貸していただきありがとうございます。 とても有意義な時間でした」


 1800秒間で宮沢が取った本数は、実に1800本。 途中からエリアは、数えるのをやめていた。


 格の違いを見せつけられたエドワードは、ムキになることすらできなかった。


 宮沢はこの三十分で、異能の使い方を大方、マスターした。

 最強の怪物は異世界で、さらに覚醒してしまった。



どうでしたか? ブクマと感想、良ければ評価までして帰っていただけると嬉しいです。

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