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異界序列  作者: せれしあ
2/12

第一話 

定期投稿です。 これからは週一投稿です。 日曜日の零時に掲載します。

よろしくお願いします。

 

 異世界転移。

 近年の小説によくある状況だが、まさかそんな、自分たちが巻き込まれるとはだれも思わないだろう。 異世界への逃避を願っている人でも、実際に起こると思っている人は極めて少ない。

 

 機関では、様々なシチュエーションへの対応力を養うという名目で、奇想天外な極限状況を設定し、これを生徒たちに体験させた。 その中に、『異世界転移』という項目があったのは、ある意味当たり前のことなのかもしれない。

 ちょっとした息抜きのつもりでもあったのかもしれない。 妙にリアルなVRゲームで、ファンタジー世界からの帰還を目指す、と言う訓練。 ゲーム内であると言う理由で、珍しく十人そろって取り組んだ課題。


 彼らだって、まさか本当に起こるなんて思ってはいない。 しかし、避難訓練と同様、実際にシミュレートしておくとしておかないとでは、その後の対応がかなり違ってくる。


 

「やった、成功した……!」


 召喚魔法成功時に発生した煙が晴れた時、彼らが目にした物は。

 

 石造りの部屋。

 先程の幾何学文様。

 燭台と、祭壇。


 そして、銀髪翠眼の美少女だった。



「初めまして。 私はティーン王国の王女、エリアと申します」

「篠崎 天音といいます。 篠崎が姓で、天音が名です」


 かつてゲームで行ったのと同じ回答を、篠崎はエリアに対し行った。


「シノザキさんですね。 後ろのお方は?」


 エリアに名を問われ、残りの九人も答える。


「―――わかりました。 

いきなり呼び出してしまって、申し訳ありません」

「いいえ、あなた方にも差し迫た事情がおありでしょう。 お気になさらず」


 差し迫った状況。

 煙が晴れてから会話が始まるまでの数秒で、篠崎はエリアと、エリアが置かれている状況を大まかにだが、把握していた。 流石は数十万人の頂点、現総理の娘と言える。


「そう言っていただけると助かります。

まずは貴賓室へお通しいたしますので、事情説明はそちらでさせていただきます」


 わかりやすい娘だな。

 十人が抱いた共通認識は、そんなものだった。


 特に戸惑うこともなく、貴賓室にたどり着いた彼らに、豪華な椅子が用意された。


「まずは、召喚に応じていただき、ありがとうございます」

「先ほども言いましたが、礼には及びません」


 代表として篠崎が、エリアと会話を行う。 他の九人は基本的にはこの部屋や、エリアを観察している。


「そう言っていただき、何よりです。 あなた方へのお願いをする前に、私たちの状況について説明させていただきますね」

 

 目礼で返した篠崎をみて、エリアが話を続けた。


「現在、わがティーン王国は隣国のエレスハイム帝国に侵略を受けております。 既に国土の七割以上が占領され、国家の滅亡は目前となっております」


「七割、ね」

 それはもう負けも同然なのでは? と椎葉が言外に告げる。


「はい。 そこで私たちは、古くより伝わる召喚魔法による事態の改善を試みました」

「それで私たちが呼ばれたと?」

「そうです。 そこであなたたちには、是非とも帝国の軍勢を退けていただきたく」


 一瞬考えるふりをして、神妙な表情をした篠崎が言葉を紡いだ。


「――分かりました。 ですが、一つお聞きしたいことが」

「何でしょう?」

「私たちは、元の世界に戻ることができますか」


 先ずそれが、十人にとって重要だった。 彼らは元の世界などうんざりだ、なんていう人生の敗者ではなく、将来を約束されたエリートの中のエリートだ。 その未来が閉ざされるのか否かと言うのは、彼らにとっては無視できないものなのである。


「はい。 帝国の脅威を退け、我が国の領土が回復した後、送還魔法であなたたちを元の世界へ送らせていただきます」


 嘘は言って無さそうだ。

 その判断に基づき、篠崎がエリアに了承の旨を伝える。


「分かりました。 お受けいたします」

「ありがとうございます。 それでは、あなた方の能力を調べさせて貰ってもよろしいでしょうか」


 エリアの声に合わせて、彼女の従者が巻物のようなものを十巻、持ってきた。


「――これは」

「自分に宿った力を記すスクロールです。 魔法陣に血液を一滴垂らしていただければ、魔法が起動します」

「魔法、ですか」


 さも当たり前のように告げられた『魔法』という言葉に、十人は各々の反応を示した。


 篠原と宮沢、そして久世は、驚き。

 蔵馬と椎葉は、高揚。

 佐藤と東郷、桜木と与那国は無反応だった。


「それでは、こちらをどうぞ」


 針のようなものを渡された十人は、各々の観察を行いながら、それを自分の指に刺した。

 篠崎だけは、佐藤が一連の動きを完了するまで待っている。 体に刷り込まれた姿勢は、異世界に行っても変わることはないのだ。


 各々が魔法陣らしき幾何学文様に血液を垂らす。 指定暴力団組長の息子である東郷だけは、垂らすのではなく血判を押したが。 そんな人物でも、優秀で危険性がなければ選抜されるらしい。 入学当初、篠崎が一番警戒していた人物でもある。


「結果が出ましたね。 何と書いてありますか」

 

 魔法陣は起動し、白紙のスクロールに文字が刻まれた。 個人情報保護の為に本人にしか見えないようになっているのだが―――


「……マジか」

「……むっ」

「……」


 彼らの表情は、芳しくない。


「……? 皆さん、如何されましたか」


 エリアの声に合わせて、篠崎が巻物を起動させる。


「―――成程」

「シノザキさん、何か問題がありましたか?」



 そして彼女は、ある意味当然のことを言った。


「申し訳ありません。 ―――私達には、この文字が読めません」

どうでしたか? ブクマと感想、良ければ評価までして帰っていただけると嬉しいです。

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