第十一話
一章完結です。
「凄いです! たった一度彼らと戦っただけで、停戦協定をもぎ取って来るなんて!」
ものすごい勢いではしゃぐエリアを見て、十人の異能者は苦笑していた。
「いったいどんな手を使ったんですか? どんな奇跡を起こしたんですか?」
先日とは打って変わって、子犬の様である。
「夏凛とマキナの異能を使って、相手の主要戦力の『切り札』を焼却しました。 これで暫くは、再侵攻の恐れはありません」
ここ数日で仲良くなったのだろうか。 藤崎は久世と与那国を、名前で呼び捨てにしていた。
「切り札って、まさか十二姫の『権能』ですか?」
「はい。 封印ではなく焼却ですので、すぐに復活することは恐らくないでしょう」
マキナの神性が持つ『権能』は、『概念焼却』というもの。
彼女は久世の業火の、『繋がる全てを焼き尽くす』と言う性質に彼女の権能を乗せて、十二姫の権能を焼却したのだ。
焼却された権能は、再利用が不可能になる。 再生も不可能。 何か解決策があるかもしれないが、それを見つけ出すには与那国でも、一年はかかるだろう。
彼女らの異能の性質は、宮沢が『視た』。 十二姫の座標の概要も、久世は宮沢から聞いていた。 必要ない様で彼の異能は、重要な役割を果たしていたのだ。
「何から何まで、ありがとうございます。
―――後はこちらにお任せください。 私達でもなんとかなるかもしれません」
通常戦力が残っているとはいえ、帝国が受けた衝撃は少なくない。 確かに今、藤崎らが居なくなったところで状況は変わらないだろう。
しかし。 エリアの言葉への藤崎の返答は、意外なものだった。
「いいえ、まだですよエリア姫。 国土を取り返してはいませんし、帝国の脅威が完全に削がれたわけでもありません」
「―――え?」
藤崎はどうやら、元の世界に帰る気ではない様だ。
「おいおい藤崎、元の世界に帰れるチャンスだぜ? どうしてそんな、ここに残ろうとするんだよ」
驚いた椎葉が、そんなことを言った。
「そうだな。 確かに目標は達成した。 私たちは、元の世界に帰る権利がある」
「だったら何で」
「だが、しかし。 私達にはまだ、やれることがある」
断言した藤崎。 それを椎葉は驚いた表情で見つめ、他の八人は唯じっと、彼女を見ていた。
「私は、いずれ一国を任される者になりたい。 もし私が総理の立場なら、今回の状況は『近隣国からの要請』と言う事になる。
確かに今の状況、『戦争』はなくなった。 しかし国力は、国の豊かさはまだ、回復していない。
それはエリア姫や、この国の人が行うことなのかもしれない。 けれど私は、一度頼まれて引き受けた事ならば、できる限り尽力がしたい」
それに、と彼女は言葉を続ける。
「ここ以上に、私たちが学ぶことができる場はあるか?
実際に戦争中の国で、そして今、停戦条約が結ばれようとしている。
ここからの復興作業を手伝うと言う事は、元の世界で行うあらゆる『おままごと』よりも、学習効果が高いだろう」
そこまで言われて椎葉も、「なるほどな」と理解した。
「『異世界実習』ってか。 流石藤崎、考えることが違うな」
感服したぜと椎葉が賞賛する。
「……つまり、もう少しこの世界に残ると言う事で、よろしいですか」
またもやついていけなくなったエリアは、ようやく口をはさむことができた。
「はい。 その認識で大丈夫です。
言い忘れていましたが、私たちは学生です。 この世界に滞在することは、とても意義のあることだ。
残らせていただく、ではありません。 もう少しだけ、ここにいさせてほしい」
藤崎の言葉に、エリアは言いようのない感動に襲われた。
「―――はい!
少しだけと言わずいつまでも、ゆっくりお過ごしください!」
最高の笑顔で。
エリアはそう、十人に向かって笑いかけた。
数時間の激闘。 一歩間違えれば市が確定する、極限状況。
生き抜いた報酬が可憐な少女の笑顔だとするのならば、それもまた良いかもしれない。
願わくば、何時までもこの状況が続くように。
王城の貴賓室は、幸福に包まれていた。
Fin
ストック溜まってれば、ここから物語が展開するはずです。
電撃大賞に作品を投稿するのは恐らく四月ですので、そこまでは更新が続きます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




