表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界序列  作者: せれしあ
11/12

第十話


「大丈夫か、アリシア!」


 愛しき人の、声が聞こえた。


「……あぁ、大丈夫、だ」


 気丈にふるまおうとするが、どうにもできそうにない。

 あの少年。 ―――帝国軍を一人で大量に殺して回り、アリシアをも圧倒して見せた、彼から受けたダメージが響いている。


「意識が戻ったのか、良かった。 ……しかし」


 おぼろげな目で、周りを見てみる。

 するとそこには、恐らく私を助けてくれたであろう『賢者』のエルフレアが、昏睡状態でベッドに横たわっていた。


「……なん、で」

「あの業火には、何か特別な、恐ろしい力があったのかもしれない。 お前を救い出そうとエルが転移魔法を使った瞬間に、あいつは『燃えた』」

「……燃え、た?」


 意味が、解らない。

 そうしてそんなことに、なったのだろうか。


「セーレンが火傷は直した。 体内の延焼も、何とか回復した。 しかし、いつまで経っても意識だけが戻らないんだ」

「そん、な」


 私たちは、何か。 

 恐ろしいものに、触れてしまったのだろうか。


「まずいな……。 セーレンの回復魔法でも、君の傷は『治らなかった』。 転移魔法による『機動戦術』と君と言う『将軍』がいなければ、帝国の軍事力も、兵の士気もがた落ちだ。 しかも今回の、奴らの虐殺劇ときた。 ……停戦条約を望む声が、出てくるかもしれない」 


 たった一度の戦闘。

 辺境の都市を攻めるというだけの、何気ない小競り合い。


 たった数時間の戦闘で、帝国の軍事力は文字通り、『半減』した。


「それ、は」

「しかも、だ。 エルフレアと繋がっていた十二姫と俺も、延焼で少なくない被害を負った。 ……姫の『権能』は消え、俺の『神威』も半分ほど持ってかれた」


 藪蛇にも程がある。 

 これらすべての被害は、久世の『Ⅰ』によるものだ。 たった一撃で王国側は、帝国の主要戦力の『切り札』をほぼ、無力化した。


「ティーン王国の十人の勇者。 ―――とんでも無い化け物だな。 英語もロシア語も、中国語もペラペラときた。 あの年でだぜ? 天才かよ」

「……えいご?」


 ようやく息を整えたアリシアが、クラムハルトに尋ねる。


「俺の―――『前世』の世界。 俺が住んでいた星で使われていた主要言語だ。 意味までは解らない。 ―――英語はともかく、ロシア語や中国語なんてさっぱりだ」

「クラムの前世、か。 『異世界からの転移者や転生者はそろって強い』と言う噂、本当かもしれないな」 

「そうかもしれないな。 あいつら、俺が突っ込んでも倒せる気がしねぇ。 俺の特攻を『誘ってる』気がするしな」


 『天帝』クラムハルトは、前世の名を『雨城あまき 勇也ゆうや』という。 平凡な高校生だった彼はある日突然トラックに轢かれ、気が付くと帝国の王子として、この世界に転生していた。

 

 『天帝』とは称号でも二つ名でもなく、彼の『神威』だ。 

 正真正銘の神の力。 彼に比肩できるものなど、帝国には存在しなかった。


 かれは大陸中に平和をもたらそうとして、大陸平定を開始した。 戦乱に明け暮れる諸国を征服し、後はティーン王国を含む、小国が少しだけと言う状況まで成し遂げた。


 その力も、智慧も、本物だ。 決して紛い物ではない。

 民が増えるほど、彼の力は、『神威』は増していった。


 彼は現在、二十五歳。 十八歳で皇帝として即位してから僅か七年で、彼は大陸の八割を手中に収めていた。


「条約を、結ぶのか?」

「あぁ。 俺もなにがなんだかわからんって状況だが、あちらからの『反撃』を果たして防げるのか、俺にはわからない」

「―――っ」


 忘れていた。

 侵略戦争に負ければ、逆侵攻―――『反撃』が来る可能性がある。

 今日の会戦では、あちらの被害は皆無。 対しこちらは少なくない兵と、切り札を失った。


 追い詰められている。

 小国であるはずのティーン王国に。 彼らが召喚した、たった十人の『怪物』に。


「すまない。 俺が迂闊だった」

「……違う。 私が、甘えていただけだ。 自分の『権能』に」


 

 そのまま、彼らは沈黙する。

 エレスハイム帝国側からティーン王国に停戦協定の話が持ちかけられたのは、それから間も無くのことだった。

 

どうでしたか? ブクマと感想、良ければ評価までして帰っていただけると嬉しいです。

一章の最終話が一時間後に投稿されます。 ここからはマッハで行きたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ