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出会いと力と冒険と ③

説明回なので字数多めです!

 「ルミア! そっち行ったよ!」

 「了解! はぁぁぁ!」


 ルミアは勢いよくその刀身を引き抜き、一閃する。

 細剣は自身の色と同じ銀色の弧を描き、後には血飛沫が飛散した。

 捉えられた魔物は呻き声をあげ、まもなく絶命した。


 「ふぅ〜。これでひと段落だね」


 ルミアは一息つくと、木陰にちょこんと腰をおろした。

 僕も獲物を右肩の鞘に戻し、隣の木に寄りかかる。

 それにしてもすごい! 本当にすごい! “天恵レガーロ”を授かっただけでこんなに変わるものなのか。体に力が入りやすいというか、随分と動きにキレが増したように思える。剣だって振りやすいし、足も早くなってる。今ならあの大猪だってすぐに倒せちゃうかも。


 「うん。とりあえず、これでこのクエストは完了っと」

 「あ、レクト。コアの回収忘れないようにね」


 そう言ってルミアは転がった死体、ワイルドボアから紫色の結晶のようなものを取り出した。

 この核というものは魔物の証だ。核の中には魔力マナが溢れていて、その魔力がモンスターを動かす原動力となっている。

 今まではただ魔物を倒すだけだったからコアの回収なんてしたことなかったけど、冒険者にとっては欠かせない行為だ。


 「うん。…よいしょっと。これをギルドに渡せば討伐完了なんだよね?」

 「うん。多分そうだと思うけど」


 僕たちは宿で一晩を過ごし(もちろん部屋は別々だ)、早速翌朝からクエストを受注していた。

 内容は


  『ワイルドボア10匹の討伐』

 クエストランク:I

 受注可能ランク:J〜

 期限:三日以内

 報酬:250ルピス

 備考:なし


 といった感じのものだった。今回の討伐系のクエストだとモンスターの体から取れた魔石、すなわち討伐の証拠を冒険者ギルドに提出することでクエスト完了となる。

 クエストランクというのは簡単にいうと適正ランクのことで、今回の場合はIランクの人に優先的に斡旋される。ただ、優先されるというだけで、もちろんそのランク以外でも受けられる。

 それに関わってくるのは次の項目の受注可能ランクだ。ほぼ全てのクエストはこのランクに達していないと受注することができない。無用な死者を出さないためのギルドの配慮だ。でも、一部のクエストでは受注可能ランクに達していなくても受けることができるらしい。そのほかにも、クエストを遂行する際に重要な事柄は全て備考の欄に掲載される。

 そして、クエストを完了することで発注者から支払われるのが報酬だ。報酬は主にお金だけど、アイテムなども対象になることがあるらしい。報酬のシステムは少しややこしくて、前金や違約金などが発生する。前金はクエストを受注する際、報酬の五分の一が支払われる。この前金は、大抵装備品の整備や消費アイテムの補充に充てられる。けど、その全てを酒代に使ってしまう人や、クエストを放棄する人が少なからずいたため、後になって追加されたのが違約金というシステムだ。違約金は、クエストを放棄したり期限をすぎた場合に、前金の2倍を支払うということになっている。違約金が払えない場合は冒険者ギルドから“警告”される。そして、警告が3回に達すると強制的に“除名”される。除名処分を受けた人は、二度と冒険者を名乗ることはできない。少し厳しい気もするけど、このシステムのおかげで前金泥棒は限りなくゼロに近づいたらしい。まあ、普通にやってれば除名されることはまずないと思う。多分。

 ちなみにルピスというのはお金の単位のことで、銅貨一枚で10ルピス、その後銀、金と一桁ずつ上がっていく。価値はというと、10ルピスでパン一個といったところだ。


 「うーん、やっぱり少し簡単すぎたかな?」

 「そうだね。お試しにとは言ったけど、やっぱりIランクじゃ物足りないかもなぁ」

 「私がHランクで、レクトがGランクだもんね。今度はもう少しあげてみようか」


 出会った時にルミアは僕のステータスを見て驚いていたけど、彼女も十分すぎるほどに高い。さっきサラさんに聞いてみたら、最初からHランクなんて中々いないって言ってたし。まあ、僕のも初期値だって言ったら呆れられちゃったけど。


 「うん、そうしようか。でも、あんまり上げすぎるとサラさんに怒られちゃうからほどほどにしとこう」

 「レクトの担当の人だっけ? あの人、すっごく綺麗だよねー。ヴァルニア一美しい受付嬢だって、噂になってるくらい」

 「そ、そんなことになってるのか…」


 他の美少女がこんなことを言ったら普通は嫌味に聞こえてしまいそうだが、ルミアの言葉からはそんなことは全く感じない。声に出ているのはただ純粋な、彼女の気持ちだ。

 ていうかサラさん、そんな噂があったのか。もしかしたら僕、すっごくツいてるんじゃ…。でもルミアも噂になっていいくらいの容姿だ。

 –––ルミアとサラさん、どっちが美しいだろうか。

 そんなことを考えていると、ルミアは立ち上がり、ぐーっと体を伸ばした。


 「ぅぅ〜っ。よし! じゃあヴァルニアに戻ろうか」

 「帰ったらまずはご飯だね!」

 「そうね。時間もちょうどいいくらいだし」


 広く晴れ渡った昼下がり、僕たちはヴァルニア北西部、ルナール平原を後にした。







 「すごーい! 美味しそうだね!」

 「僕、こんな豪華なもの生まれて初めてだよ…」


 ヴァルニアに戻りクエストの完了を報告した後、「せっかくだし初クリアのお祝いしようよ!」というルミアの提案により、酒場で昼食を取ることになったんだけど、正直驚いた。

 大通りから枝分かれした道の奥の方、人気の少ない通りに構えるこの酒場の名前は『幼鳳の羽音』。はっきり言って外見はボロいし、内部も決して綺麗とは言えない。立看板に書いてあった値段が安かった、ただそれだけの理由で選んだ店なので期待はしていなかった。していなかったのだけど–––


 「いただきまーす! …ん! ぉいしー!」


 本当に幸せそうに食べるルミアにつられて、僕も食事に手を伸ばし、口に運ぶ。


 「いただきまー……っうま!!!」

 「でしょー?」


 –––めちゃくちゃ美味しい。

 パン、とは少し違うサクサクの生地の中にこれでもかというほど詰め込まれた牛肉たち。噛む度に中から溢れ出す肉汁。そしてそれら全てを引き立てる絶妙な味付け。どれをとっても一級品だった。

 メインディッシュは鳥の足を丸ごと焼いたものだった。かぶりついた瞬間に広がる鳥肉の風味と香ばしい胡椒の香り。油は少なくさっぱりして食べやすい。うん。これも絶品。

 そして最後はトマトの香りが広がるスープ。熱すぎず、それでも冷めているわけではない、丁度いい熱さ。じゃがいもや玉葱、人参にもしっかりと味が染み込んでいる。そしてさっぱりとした後味。これも完璧。


 気がつけば、あれだけあった料理があっという間に無くなっていた。


 「あれ? もう終わり?」

 「だってレクト、何も言わずに黙々と食べてるんだもん」


 キョトンとする僕の様子を見て、くすくすと笑うルミア。

 え? 僕そんなに無我夢中で食べてたの?


 「どうだい坊主? 美味かっただろ?」


 カウンターから出てきたのはこの店の店主であろう大柄のおっさ…おじさんだ。

 かみは一切無く、それに反比例してひげは無駄に茂っている。山賊の頭領でもやってそうな風貌だ。

 けど、この人の料理は比肩するものがない。


 「はい! めちゃくちゃ美味しかったです!」

 「がはは! そうかそうか! 嬢ちゃんは?」

 「とっても美味しいです! 毎日でも食べたいくらい」

 「がははは! そんなに美味かったか!」


 なんて無邪気に笑う人なんだろう。

 言葉にすると難しいけど、全身で笑っているというか。見てるだけでこっちまで嬉しくなってくる。


 「–––でも、なんでこんなに人気がないところにお店を構えているんですか? こんなに美味しいのに…」


 確かに。この腕なら大通りにあっても人は入ってくるだろう。いや、それどころか大繁盛するんじゃないか?

 もしかして、何か特別な理由があるのかも…。


 「ああ、それはな、昔ある男と約束したんだ–––」

 「約束?」


 店主は、遠くを見つめ昔を思い出すように、続けた。


 「あいつはいいやつだった。力強くも誠実で、礼儀がしっかりした男でな。男同士話も合って、毎晩あいつが飲みに来るのを楽しみにしておった。そしてある夜、あいつが飲みに来た最後の夜、あいつは言ったんだ」


 彼の声に力がこもる。


 「いつか、戦ばかりの世界を変えるような“英雄”が来るかもしれないから、その時を見届けてくれ。とな。その後、あいつは戦争で命を落としたと聞いている。その時はちょうど第三次オルデア戦争の直前だったからな。おそらくそれで死んじまったんじゃろう」


 第三次オルデア戦争。およそ10年前、オルデア大陸全土で繰り広げられた3回目の大戦。当事国であったヴァルニアとオリヴィアが和平を結んだことで終結したが、被害は甚大。多数の死者が出たと聞いている。


 「そんなことが…」


 ルミアの声は細く、悲しげだった。


 「それで、その約束を果たすためにここに残っているんですね」


 そう問うと、彼は右手で目を隠し、唇を噛んだ。

 戦争で友を失くしたんだ。相当に辛か–––


 「なーんて! ただ店を移すだけのお金が無いだけだ!」

 「「ええ!?」」


 とんでもない言葉だった。

 こっちはしんみりとした空気だったというのに。

 だが、彼の目尻は確かに濡れて光っている。


 「だが、あいつと約束したのは本当だ。俺はあれからずっと“英雄・・”を待っている」


 そう、彼は力強く語った。

 きっと、さっきのは彼の強がりだったのだろう。

 そして、彼は優しく笑って言った。


 「お前らがその英雄になってくれると、そう期待しておるよ」


 英雄。

 そうだ。僕は、あの人のように…。


 「はい! 任せてください!」

 「私とレクトなら、大丈夫です!」


 そう答えると、彼は再び笑顔を見せた。


 「頼もしい若人だ!」



 空が朱く染まり始めるまで、僕たちはバンデさんと話を続けた。バンデというのは彼の名前だ。

 バンデさんはさっきの彼のことや、戦争のこと、色んなことを話してくれた。彼の体験談は優しさや悲しさに溢れていて、聞いているだけでも眼前に彼の姿が浮かんでくるほどだった。


 「バンデさん。今日はありがとうございました!」

 「おう。嬢ちゃん。また来いよ!」

 「はい!」

 「レクト。いつでも来い。安くしてやるからよ」

 「言われなくても何回だって来ますよ。こんなにおいしい店、そうありませんから!」

 「がはは! 褒めすぎだ」

 「じゃあ、また」

 「おじゃましましたー」


 新しい出会いに感謝して、『幼鳳の羽音』を後にした。


The RPG。

それはクエストだと思うんですよね。モンスターを倒して報酬もらえるなんて夢がありますよね!

でも、ただ倒すだけじゃ真偽がつかないと思ったのでコアを回収するようなシステムにしました。

核はクエスト対象のモンスターでなければ各自で持って帰ります。

加工して使ってもいいですが、冒険者にはその技術がないので大抵は換金に出します。

もちろんその相手は素材ギルドです。ヴァルニアに着いた直後のマップで出てきたあれです。

いずれはその辺のこともお話にしようと思います。


次の更新は明日8/21になります。

では。

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