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出会いと力と冒険と ②

 「え? うそ!? どうしてこんなに高いの…?」


 ルミアは僕の“ステータス”が記された羊皮紙を手に取るや、その端正な顔に驚愕の色を滲ませた。


 「えっと…よくわかんないんだけど、これってそんなに高いの?」


 そもそも僕は“天恵レガーロ”の存在さえルミアに聞くまで知らなかったから、“闘威”が高いか低いかなんてわかるわけがない。それは多分ルミアも同じで、おそらく自分と比べて、という意味だろう。


 「少なくとも私の初期値よりは遥かに高いわ。ちなみにレクトは闘威によるランク分けは知ってるわよね?」

 「ああ。そのランクによって受けられるクエストとかも決まるとかって聞いたけど」

 「そう。そのランクなんだけど、普通の人は、というかほとんどの人は最低のJランクから始まるの」

 「そうなのかー」

 「そうなのかーじゃないわよ。これってどれだけ異常なことかわかる?」

 「い、いや」

 「だってIならまだしも、Hすら飛ばしてGランクだなんて」


 ルミアが語気を強めながらグイグイと迫ってくる。彼女の性格上、ハキハキとした物言いなので、意図せずとも身が後ろに引けてしまう。まるで新婚の妻に浮気でも問い詰められている様な気分だ。僕は何も悪いことなんてしていないはずなんだけど。


 「あなたって、一体何者?」

 「……に…人間?」


 言いながら、自分でも思った。やってしまったと。ここからの展開は容易に予想できる。

 もう観念して謝り倒すしか–––


 「–––もういいわ。とにかく、天恵は無事受け取ったのだし、早く冒険者ギルドへ向かいましょうか」


 結果は…呆れられてしまったようだ。彼女はもう怒る気にもなれないといった感じで、すたすたと歩いていってしまった。

 はぁ。どうしてこうなってしまうのだろうか。何も悪いことはしていないのに。あ、でも最後の返答は自分でも後悔してるよ? でもステータスは僕のせいじゃない。そう、神様のせいだ。



 でも、あとで謝っておこう。なんか怖いし。






 冒険者ギルド。その名の通り、冒険者の組合だ。冒険者の登録やパーティの結成、解体、クエストの受発注など様々な業務があるが、全てこの冒険者ギルドで済ませることができる。

 そのため、冒険者業が盛んなヴァルニアのような大都市では、日夜を問わず多くの冒険者が往来する。僕たちもその例に漏れず。


 「すみませーん。冒険者の登録をお願いしたいんですけど」

 「かしこまりました。ではここにご記入をお願いします」


 裏から出てきたのは、若い受付嬢だった。

 栗色の髪をやわらかく靡かせ、どこか穏やかな雰囲気を持つ彼女は、ルミアとは違った意味で美しい。全てを優しく包み込んでくれるような、そんな美しさだ。年は、俺より二つか三つ上、といったくらいだろうか。

 彼女から手渡された用紙に名前や生年月日、ステータスなどをしっかりと書き込む。誕生日は母さんたちに拾ってもらった日を書いた。いつものことだ。

 漏れが無いか確認し、受付嬢に用紙を返却する。


 「はい。確かに受理いたしました。レクトさん、これよりあなたは冒険者となります。高みを目指して頑張ってください–––と、言いたいところですが、くれぐれもお気をつけください」


 彼女は真剣な表情でこちらを見つめている。

 頑張るのはいいが自分の命を第一優先にしろ、きっとそういうことだろう。


 「はい! ありがとうございます!」


 笑顔でそう告げると、彼女も微笑んだ。

 相変わらず若い女性には慣れていないので、顔が赤くなっていないか心配になる。

 そんな僕の心配をよそに、彼女は飄々としている。これが経験の差か。


 「あ、自己紹介が遅れちゃったね。私はサラ=フルール。これから一年間、よろしくね」


 不意に彼女の口調が変わる。優しくて親しみがあって、おそらくこれがサラさん本来の話し方なのだろう。いたことがないからわからないけど、姉っていうのはこんな感じなのかな。


 「あの、よろしくねってどういう…?」

 「ああ、新しく冒険者になった人には約一年間、担当の受付嬢が付くことになってるの。それで、君の担当は私ってこと」

 「へぇ。そうなんですか」

 「わからないことがあったらいつでも聞いてねー。できる限り教えるよ」

 「はい! お世話になります!」


 なるほど、それならば冒険者になりたての新人が命を落とす確率をぐっと下げられる。さすが大都市、よく考えられたシステムだ。冒険者の数は膨大だから、受付嬢の人はかなり大変だろうけど。


 「ふっふっふ。どう? 担当が私で嬉しかった?」

 「はい!」


 優しそうだし、でもしっかりしてそうだし。何より親しみやすい。


 「え! …ちょ、ちょっとそこまで素直に言われると…」

 「じゃ、これからよろしくお願いします!」


 なぜか急に顔を紅く染めたサラさんはもじもじと何か言っているが、気にせずその場を後にする。


 「もう、困った子だなぁ…」






 ギルドに併設されている酒場に戻ると、ルミアは一人椅子に腰掛けていた。

 彼女の容姿だと、ただ座っているだけでも絵になる。まるで物語に出てくるお姫様みたいだ。


 「あ、レクト。終わったのね。どう? 晴れて冒険者になった感想は」

 「んー、正直まだ実感はないかなー。でも、担当の人もいい人そうだったし、これから頑張っていけそうだよ」

 「やっぱり最初はそうよね。私もやっと実感が湧いてきたくらいだから」


 そう言うと、ルミアは遠くを見つめ、呟いた。


 「あの場所には、まだまだ遠いもの」


 あの場所。

 彼女の言うあの場所とは、おそらく僕が目指しているものと同じだ。


 「–––天空都市スカイスフィア

 「へぇ。やっぱりレクトも知ってるんだ」

 「知ってるもなにも、僕の夢だからね」

 「そっか。冒険者になる人はみんなそうなのね」

 「ルミアも?」


 すると、ルミアは少し虚ろげな表情を見せ、かぶりを振った。


 「ううん。私の場合はみんなが思ってるようなのとは、ちょっと違うかな。–––時々ね、夢を見るんだ。雲が手に届くくらい高いところで、みんな幸せに笑ってる。顔も見えないし、誰かもわからないけど、きっとみんな笑顔。その夢を見てるとね、まるで家族みたいに感じるの。あっ、お父さんもお母さんもいるし、そんなわけないんだけどね」


 ルミアは「上手く言い表せないなー」と首を捻っている。


 「まあ、とにかく! 私はそれを確かめたい」


 少しの静寂が訪れる。小鳥は餌を啄み、道を行く人の喧騒は絶え間ない。

 止まっているのはきっと、二人の空間だけ。

 そしてふと、考える。


 夢の在りようはきっと、人によって違うのだろう。

 僕とルミアがそうであるように。

 だが、その先は必ずしも違うとは限らない。

 僕とルミアがそうであるように。

 そして、その道程は?

 どっちでもいいならば–––


 「ねえ、ルミア–––」

 「ねえ、レクト–––」


 どっちでもいいならば、僕は彼女と、その先を見てみたい。


 「–––僕と、パーティを組んでくれないかな」

 「はい! 喜んで!」


 互いに手を取り、挨拶を交わす。


 「改めてよろしく、ルミア」

 「こちらこそ」



 出会って間もない女の子。

 村を出なければ出会いもしなかったかもしれない。

 少しでも違う行動をとっていれば出会わなかったかもしれない。

 それでも、僕たちはこうして共に旅をすることを選んだ。


 これはきっと運命だ。

 だけど、定められた運命じゃなく、自分で決めた(・・・・・・)運命だ。



 「じゃあ、行こうか」


駆け出し冒険者同士のパーティ結成!

たとえスタートが違くても、想いが違っても、自分で引き寄せた運命は変わらない。

いつかくるその時に向かって。


次回の投稿は明日8/20です。

では。

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