新たなる世界 ①
このお話から本編です!
ではではよろしくです。
「…はぁっ。はぁっ。…やった! やったぞ!」
ボロボロになった体。
切れ切れになった呼吸。
だけど、そんなことはもう関係ない。
だって僕は、この日のために今日まで頑張ってきたんだから。
僕はついにあの地への挑戦権を手にしたんだ。
ナルル村。
僕が住んでいるこの村はオルデア大陸の南西部に位置する小さな村だ。
俗に言う田舎というやつだけど、緑に溢れ、空気も美味しい。おまけに村のみんなも最高に愉快で優しいので、別に大都市に憧れたりもしないし、不便に感じることはない。…あ、やっぱり不便に感じることはあるかも。物流の人たちが1ヶ月に一回しか来ないこととか。
でも、僕はこの村を出なくちゃいけない。
天空都市、《スカイスフィア》–––その存在を知ったのはいつだっただろうか。幼い頃、何気無く手に取ったある男の英雄譚。戦乱の時代に生まれた少年が悪党を倒し、怪物と戦い、恋に落ち、世界に平和をもたらす。これだけでも十分興味が惹かれるものだったけど、僕は最後の一節に心を奪われた。
–––六つの聖なる紋章を合わせし時、汝は天空都市へと導かれん–––
これを目にした瞬間、僕の人生の行き先は決まった。
一年中ずっとのんびり暮らしたり、なんでも買えちゃうくらい裕福な生活もしてみたいけど、今の僕にはこれしか考えられない。
必ず天空都市に行く–––!
そして、今日。
僕は夢への第一歩を踏み出した。
それはすなわち、試練を達成し、一人前と認められることだ。
村に帰ると、一目散に村長の元へと足を運んだ。
「–––突然ですが、天空行ってきていいですか?」
「......どうしたんじゃ急にかしこまって」
「あ、ごめんダリ爺。えっと–––」
僕の発言にしばらくぽかんと開けていたダリ爺。まあ唐突だったから仕方ないけど。
仕切り直して試練の達成、すなわち大猪の討伐の旨を伝えると、村長であるダリ爺は年甲斐もなく目を大きく開き、今までに聞いたことないくらいの大声を出しながら振り返った。
「な、なんじゃとぉぉぉ!? レクト、そりゃ本当かね?」
「ほんとほんと! なんなら確認しに行ってみる? でっかい死体が転がってるから」
「そこまで言うなら本当なのじゃろう。今までこんな早さで達成した者はおらんかったから、ちと面食らってのう」
「へへっ。昨日14になったばっかりだもんね。けど、僕は天空都市のために今まで鍛錬を積んできたんだ。こんなの序の口だよ」
ナルル村では、村から出るためにはある条件が必要だ。
それは近くの森に棲む大猪を討伐することだ。
もっとも、村を出たがる人があまりいないから大猪が倒されることはあまりないらしいけど。
ダリ爺はまだ信じられないといった顔をしながらも、羊皮紙に何か書き込み始めた。おそらく村を出る際の手続き書か何かだろう。
「前例がおらぬといっても、掟は掟じゃからのう。では、レクト、こっちに来なさい」
促されるままにダリ爺の目の前に来ると、ダリ爺は急に真面目な表情になって声高らかに宣言した。
「レクト=アルトゥールよ。汝の力を認め、村を出ることを許可しよう。ただし、決して無茶するんでないぞ」
「ダリ爺! ありがとう!」
ダリ爺から手続き書を受け取り、礼を告げる。
少し談笑した後、僕はダリ爺の家を後にした。
別れ際に「思い直してはくれんかのぅ...」とダリ爺の独り言が聞こえてきたけど、我関せずを貫き通した。ごめんよダリ爺。
▷
村を出る手続きを終えた後、僕はすぐ、自宅に帰って事の顛末を報告した。
「へぇ〜......ぇえ! ほんとうなのレクト!?」
僕の話を聞くや素っ頓狂な声を出したのは母さんのマリアだ。
母さんはそのおっとりとした見た目同様、中身ものんびりとしている。
いつもなら「へぇ〜。すごいわねぇ」としか返してこないくらいなんだけど、今回は流石の母さんでも驚きの声を隠せなかった。
「レクト。よくやった」
「う、うん。ありがと」
父ロベルトの低い声音での祝福に、少し照れ臭くなってしまう。
父さんはいつも厳格そうな感じで、正直子供の頃は苦手だった。それはある特殊な事情も関係しているんだけど。
それでも大きくなるにつれて、自然と距離を縮めることができた。今では家族3人、笑いの絶えない生活を送っている。
「そっかぁ。いつかは村を出るかもしれないっては覚悟してたけど、まさかこんなに早く決まっちゃうなんてねぇ」
「ははっ。確かにそうだな。あの時《・・・》はこんなこと思いもしなかったなぁ」
そう言って父さんは窓の外へ目をやり、何か懐かしむように優しく息を吐いた。
おそらく、僕たちの出会いを思い出しているのだろう。
僕もつられて思いを馳せる。
実を言うと、僕は父さんと母さんの本当の子供ではない。
10年前、僕は2人に拾われた。そのころはまだ小さかったし、気絶していたらしいから記憶は残っていないけど、母さんによると僕は村の北東部の森の中で倒れていたらしい。その時たまたま通りかかった2人が助けてくれたのだが、相当に危険な状態だったそうだ。命を繋いでもらったのだ。2人には感謝してもし切れない。
当時2人は結婚したばかりでまだ子供はおらず、僕のことを天からの贈り物だと言って我が子のように育ててくれた。そんな2人の心遣いは僕にとってありがたかった。
出会ってから10年。いつも一緒に過ごしてきた。喧嘩もしたし、ぶつかり合ったけど、結局最後には笑いあっていた。まるで本当の親子のように。
そんな生活ももうすぐ終わりを告げる。
「あの、父さん、母さん–––」
「さあ、愛息子の門出を祝って、今日はご馳走よ!」
まだ別れの言葉は聞きたくないということなのだろう。僕の言葉を遮るように母さんは買い出しへと出かけてしまった。
父さんもまだ窓の外に顔を向けている。
ついに別れの時が来てしまう。昨日までは全く意識していなかったけど、2人の顔を見て、急に実感が湧いてきてしまった。
そんな気持ちを振り切るように、僕は二階の自室へと向かった。
一週間が経ち、ついに旅立ちの時が来た。
村の唯一の出入り口である門の前には、村人全員と言っていいほど、多くの顔が見受けられた。
「ちょ、ちょっとダリ爺、こんな大事にしなくても...」
「薄情もんじゃのう、お前は。この村はみんなが家族じゃ。家族を見送るのは当然のことじゃろう」
「ダリ爺...」
ダリ爺の温かい言葉に、思わず眦が熱くなる。
そうだ。この村はみんなが家族なんだ。関係ない人なんているはずがない。
「レクト」
「父さん、母さん」
そして、両親。
本当の子ではないのに、こんな僕をここまで育ててくれた。僕に、愛というものを教えてくれた。かけがえのない、繋がり。
「今まで本当にありがとう。2人は僕に家族っていうものを教えてくれた。今までは照れくさくって言えなかったけど、僕にとってはたった1人の父さんと母さんだ」
「レクト...!」
母さんは涙を流し、父さんも目が潤っている。そして、僕も。
「今日から離れ離れになっちゃうけど、絶対に2人のことを忘れない。そして、夢を叶えたら、絶対また帰って来るよ」
「ああ! レクト、頑張ってこい! お前ならできる。なんたって俺たちの子供だからな」
「うぅっ。...れぐどぉ。......元気でね」
「うん! じゃあ2人とも、仲良くね!」
2人の言葉を背に歩を進める。
奥の方では村のみんなの声援がこだましている。本当にあったかい村だなぁ。
門が鼻先まで近づいたところで、振り返って最後の別れを告げる。
「みんな! ありがとう! じゃあ、行ってくるよ!」
これで本当に、お別れだ。
脳裏に色々な思い出が蘇る。
けれど、僕は進まなければならない。
天空都市に辿り着くために。
僕は両手で門を開け、10年間過ごした故郷を後にする。
さあ、冒険の始まりだ!
両親と離れ離れになっちゃうのって悲しいですよね。
自分も最初の頃は恋しくて仕方ありませんでした。
でも一週間くらいするとこっちの方が快適に思えてきたり。。。
レクトには親の大切さを忘れずに育ってほしいですね!
連載記念ということで一週間は毎日投稿していこうとおもいます!
皆様の応援があればもっと伸びるかも...?
それではまた明日。