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ウィンデーネ=シルファクトリーは今日も頭が痛い

「ウィンディーネ!」

「あら御機嫌よう、ノクス王子。私に何か御用でも?」

「何を白々しい。お前のした事は全てわかっているんだ。さっさと白状すればいい」

「私が何を? 全く見当もつきませんわ」

「ならお前のしたことをこの場所で皆に話そうではないか。お前だって大勢を相手に言い逃れなどできまい」

「あら、それは楽しみですわ」

 

 大勢を相手にといってもここにいるのは私と同じ2人だけ。

 この王子、長年馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかこの歳になって人数まで数えられなくなるとは思いもしなかった。

 そろそろ脳の検査でもしたほうがいいのではないかと思うのだが、王族と公爵令嬢という立場ある以上そこまで言うのも憚られる。


 もちろん私と王子が結婚した暁には躊躇なく国一番の脳外科医を呼びつけて検査をしてもらう予定だ。


 いくら政略結婚とは言えこんなバカと一緒にいたくはない。


 お父様がさえ許してくれるのならばこんな婚約、破棄してしまうのに……と考えるのは公爵令嬢として失格なのだろう。

 まぁこんなことは今考えても仕方ない。

 もう5年近く考えて、そして諦めた結果なんだから今更変えられるようなことではない。


 口をつぐんだままの私が哀れみの目線を向けているのが気に入らないのか、王子は唯一の美点である顔をしかめる。


 戦の神・デューク様の生まれ変わりなのではないかと噂されるほどキリッとした顔立ちが特徴的な国王陛下と、幼い頃から世界一の美姫と名高い王妃殿下。

 2人の、誰もが羨むことすら諦めるほどの顔立ちを、その顔立ちだけを純粋に遺伝させた結果であるノクス王子は顔だけはいい。顔だけは。


 ちなみに私はそれ以外の全てはノクス王子の双子の弟君である、第2王子のサリック王子によって奪われてしまったのではないかと睨んでいる。

 彼はあの2人から生まれたと思えば若干地味な顔だちをしているようにも思えるが、間違いなくあのお二人の子であるとその才能が告げている。


 デューク様の生まれ変わりと歌われるだけあって国王陛下は戦地において、常に最前線に立ち、敵をバッサバッサと切り捨てていくほどの剣技を持つ。


 そして王妃殿下もまた素晴らしいのはそのお顔立ちだけではない。

 王妃殿下はこの国の内政の一部を国王陛下から任されており、そして見事に治めて見せるのだ。

 実際に長年、この国の北部にあった未開拓の部分を開拓したのは王妃殿下お抱えの精鋭部隊である。

 1000年もの間、誰もが手を出せなかったあの山と森を、たった1年で解き明かして見せた。

 もちろんとばかりにそこにいた原住民達の心もガッチリと掴み、独立都市と位置付けた上で交流を深めたのだから、彼女の力は計り知れないものがある。


 今現在、王妃殿下は私の敵にはなりえないが、この後何かあったとしても絶対に敵には回したくない。

 実際、王妃殿下がその土地を収めてからと言うもの、この国に戦を得る輩はほぼゼロとなった。それはそうだろう。彼女に喧嘩売れば国が壊滅に応じ入らされる可能性があるのだから。

 ただでさえ脅威だった国王陛下に加えて、王妃殿下によって内側からもつぶされる可能性があるのだ。

 

 そんな人がこの国トップだと思うと恐ろしい。

 

 

 ――そんな2人の血を引いていながら、なぜノクス王子と弟君の間には埋めきれないほどの差があるのか。


 それはいつまで経っても謎のままだ。

 

「おい、ウィンデーネ!」

「はい? ……ああ、人が揃ったんですか? 遅かったですね。待ちくたびれてもう少しで帰るところでしたよ」

 

 ――とここまで全く関係ないことを語っているかのように思えたかもしれないが、それはただ単純に私の暇つぶしに付き合ってもらっただけである。

 王子が私に喧嘩っぽいものをふっかけてきてからというもの今まで20分ほどの時間が経っている。

 その間、色々と王子が騒いでいたような気がするがそれに意味などないのだろう。というかノクス王子の話すことをまともに聞いていたらこちらが疲れるだけだ。9割くらい聞き流すくらいがちょうどいい。


 そして人を呼び止めておいてこの時間は何だと思うかもしれないが、ノクス王子と関わったことのある人間からすれば、これはよくあることである。

 この男、考えるよりも先に行動する男なのである。一国の王子としてどうかと思うが、まぁそれはどうしようもない。

 昔から散々考えてから行動するように、と口を酸っぱくして言っているがどうにもならないのだ。私だけではない。弟君も国王陛下を国王妃殿下も何度も何度も説得したもとい教育したのだが、治らなかったのだ。

 

『馬鹿は不治の病である』というのが私の結論だ。


 何を言っても仕方がない。

 特に私はなぜか初めてあった時からノクス王子から敵対心じみた何かを向けられている。

 そのせいか私の言葉に耳を傾けようとさえしないことも多々あるのだ。

 結婚において一番大事なのは両者の歩み寄りだと思うのだが、ノクス王子は手負いの獣のごとく私を威嚇している。

 

 おそらく相性の悪さもあるのだろう。

 

 彼と相性がいいのはおそらく、いつのまにかノクス王子の隣に居座るようになったあの女の子。確か最近フリックラー男爵家の養子になった少女である。

 今はいないのかと周囲をグルリと見回したがその少女は発見できなかった。代わりに一周回った後で、ヒクヒクと眉間を動かす王子が目に入った。

 

「……っ、お前はいつもいつもいつも俺を馬鹿にして……!!」

「馬鹿にしてなどいませんよ。ほら王子、皆さんわざわざ集まってくださったのですから、さっさと用事を済ませてしまいましょう?」

 

 早くしろと焦らせ、彼が怒り出したところで適当に帰ってしまおうかと思ったのだが、今日の王子は一味違うらしい。

 

「余裕でいられるのも今のうちだぞ」

 はっと鼻で笑って、私を指差す。

 人に指をさしてはいけないと言ったのは、きっと彼の頭からスッポリと抜けているのだろう。

 

 これは後で王妃殿下に報告するとして……今から何が始まるのか見ものである。

 わざわざ私の足を止めたのだから楽しませてくれないと困るというものだ。

 

 

「お前、ウィンデーネ=シルファクトリーは、俺の婚約者という立場でありながら他の男と夜な夜な過ごしている!」

「は?」

「しらばっくれてもムダだぞ! その証拠として投影具で写した写真があるのだからな!!」

「ノクス王子……あなた、正気ですか?」

 

 ノクス王子が胸元から堂々と取り出したのは一枚の写真。

 そこには確かに私と、王子以外の男の人が写っている。

 確かに彼は男である。そこは否定するつもりなどない。だがまだ3歳になったばかりの私の弟に絵本の読み聞かせをすることのどこが問題だというのだ。

 少なくとも鬼の首でもとったかのような態度で婚約者相手に見せる写真ではない。

 

 …………というかいくら相手が婚約者だからといって盗撮はどうかと思うのは私だけだろうか。

 

 周りの生徒達の目はノクス王子のおバカ加減がすぎるせいか、微笑ましいものを見るかのような優しい目となり、この空間には生易しい空気が流れている。

 

「ウィンデーネ、お前という女は俺の目がないとこんな破廉恥なことをするなんて呆れたぞ!」

「私は弟への絵本の読み聞かせを破廉恥だと称する王子に呆れてます」

「………………は? 弟? お前の子どもではなく?」

「弟ですが?」

「…………………………」

「……まさか王子、私が子を成したとでも思っていらして?」

「…………違う、のか?」

「私がいつ妊娠してたんですか!! ずっと一緒にいたでしょ!」

「ご、誤魔化そうたってそうはいかないからな! 子どもは愛し合った男女の元にコウノトリが運んで来るものだと爺やが言っていたぞ! お前と他の男の元へやって来たんだろう?」

「…………王子、今からでもお勉強しましょう? 私も、ちゃんと付き合いますから」

 

 わざわざこんなに人を集めて……婚約破棄でもいい渡そうとしたのだろう。

 私も婚約破棄をしたいものだが、流石の私もこの状態の王子を他の女性に渡すわけにはいかない。


 私にも彼の婚約者であるという責任感はあるのだ。

 

「皆さん、お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした」

 会場内に集まってくれた生徒達に深々と頭を下げる。

 誰も嫌な顔一つしていないのがなによりも有り難い。

 会場を背に、私は右手で額を抑えて、左手で王子の手をぎゅっと握りながら早足で待たせていた馬車へと向かう。

 

 行き先はシルファクトリー公爵屋敷から王城に変更だ。

 


 とりあえずこのおバカに、現在8歳の私がそろそろ3歳になるあの子を産むことは出来ないとどう説明するべきなのか。


 そう考えると今から頭が痛くてたまらない。


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