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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死にたい時はおやすみなさい

作者: 仁門創司

思い立って初めて書いたものです。

誤字等ありましたので何度か直してます。

6/21加筆。他サイトと重複投稿です。


もう死のう。

そう思い生きていた。

いつの頃からか死にたかった。

消えたかった。


ここ数年、毎日毎日会社と家を往復する日々。

家に帰ると力尽きて何も出来ない毎日。


いつもこうだ。

朝目が覚めると、ご飯もろくに食べれず会社に行く。

休み時間もほとんどなく、トイレもまともに行く時間もない。

昼休みも無いに等しい。

朝から晩まで働いた。

土日も祝日も働いた。

給料は未払いに近かった。


経営も傾き、いつの間にか給料自体がまともに払われなくなっていたのだ。

少ない給料がさらに少なくなっていった。

時給とか言う概念は有って無い様な物でまともに支払われず、

残業代おろかも休日手当も出なかった。

それでも忙しい日々を働くしかなかった。




虐められながら働いていた。

虐めているのは経営者側の人間だ。

社長の息子。

奴は結婚もして子供もいる。

しかし、性格は酷く、顔も怖かった。


いつも人を馬鹿扱いしてくる。

自分が仕事をしていないとかミスが多いならともかく、その逆だった。

大量に仕事を渡され、急いで仕上げるとまた大量に仕事を渡されるだけ。

奴は自身の仕事をほとんどこちらにやらせていた。

自分はミスもせずに、もくもくと仕事をこなすだけだった。


ミスをすると取引先から物凄い勢いで怖い人が送られてくる。

腕を組んで文句だけを言う為に数時間居座る怖い人達だ。

天下りの人間らしい。

文句を言ってるだけで給料が50万も貰える人だと言われていた。

この人達が来るといろいろと嫌な思いをするのでミスは出来なかった。




社長の息子は、経営者側の人間なだけあってまともに仕事はせず、

一日中タバコをふかしながら缶コーヒーをがぶ飲み。

新聞を読みながらラジオを聴いてゆっくりと“仕事”をするのが奴の日常であった。


この人のほとんどの仕事は自分がやる。

こちらがパートのおばちゃん達が3人がかりでやるところを

ほぼ自分ひとりでこなしていた。


「お前は馬鹿だ。お前のような馬鹿は〜」

「お前は何が好きなんだ? ~そんなもの好きな奴は馬鹿だ」


奴は煙草を吸いながらお前は馬鹿でああだこうだと偉そうに煽り、

好きなものを聞いては否定するのが好きな様だった。

若くて一番下っ端の自分は何を言われても「はい」と話を聞くしかなかった。


わざとらしく煙草の煙も掛けられるのも苦痛だった。

臭くて息を止めたくなった。

煙草の煙を掛けられる度、筋肉がびくっと勝手に反応するようになった。



残業代も出ない残業を終えてようやく帰宅。

家に帰るも、まともにご飯も食べる気力もなかった。

食が細くなり大分痩せた。

お風呂に入った後は疲れて何もできずに寝る。

何もする力が残されてなかった。

そして、眠ればまた朝が来る。



──おやすみなさい。

とりあえず眠った。






朝。

目が覚めそうになると心臓がバクバクしながら冷や汗をかく

夢から覚めるが目覚めてはいけないと言う焦燥感。


──また、嫌な一日が始まるんだ。


泣きそうになりながら目を覚ます。

何でこんな嫌な気持ちで目を覚まさないといけないのだろう。

辛い。

悲しい。

苦しい。



何のために生きているのか。

この生活は誰かのために役立っているのか?

少なくとも自分の為には何も良い事が無い。

ただ、辛いだけだ。

せめて給料くらいまともに貰え得れば・・・


給料が出ないのなら休みが欲しい。

明日明後日は土日だが出勤だ。

休みたい。

と言うよりも本音は、


──辞めたい。


もう、首にでもなって楽になりたい。

でも、辞めたいと上に言うのが怖い。

辞めたいと言って、奴に何か言われるのかと思うと恐怖と悲しみで嫌になった。

怖くて何も言い返せないんだ。

言う事を聞くしかなかった。

なんて自分は弱い人間なんだ。

上の人間に何も言い返せない情けないやつが自分だ。

キレる若者の方がまだ自己主張が出来ている。



土日の休日出勤は小人数だ。

奴は当たり前に休みなのでいなかった。

少しだけ安心だが、本音は自分も休みたかった。




そして月曜日。

今日も朝から何か煽られてるが、何にも言い返せずにただ「はい、はい、」と話を聞く。

頭にきて手が震えて息が吸いにくくなっても言い返せず我慢した。


「──どうせお前に話してもわかんねーか」


怒りを抑えるも、何かが爆発した。

怒りを我慢するあまり息が止まり、目が見えなくなって全身が震えた。

それは発作の様であった。

普通の若者ならばここでキレているのが正常かも知れない。

我慢のし過ぎは良くないんだ。


見えなくなった視力が戻ると、過呼吸で痙攣しながら仕事を続けた。

落ちつくまで時間が掛った。

情けない。

怒りたい。

暴れたい。

泣きたい。

何でこんな毎日なんだろう。


「この程度で弱音か」と言う人間もいるだろう。

でも自分はこの数年、この生活を耐えられなかった。





形だけの昼休みになった。

奴に関しては昼休みが長い。

外に行って2時間は休む。

自分や他の人間はお昼ご飯を食べたら即仕事に戻らなければならなかった。

しかし、自分は昼食を食べれなかった。



ストレスで長期間、胃腸を悪くしていた。

病院に行く時間もなかった。

胃腸薬を買って飲んだ。

下痢も続いたり血便も出た。

痔なら良かった。

怪我をした様な独特の腹痛で未消化の白い物の中に血が混じってた。

昼休みはご飯は食べずトイレにだけ行った。

やっとトイレに行けた。

毎日これの繰り返し。

何も良い事なんかない。

苦しい仕事だけの毎日。



そしてそれは突然やってきた。

ついに倒れた。

しかも、それから何度も倒れる事となる。


我慢出来ない疲労により、得体の知れない気持ち悪さ、苦しさが全身を駆け巡る。

「はぁ、はぁ・・・」と息が吸いにくくなり体が震え、目が見なくなってきた。

だめだ、もう耐えられない。


視界は中心部以外ほとんど真っ黒で、ぐにゃぐにゃとした緑や黄色の模様しか見えない。

耳も聴こえなくなり、周りの音は一切聞こえないが妙な音が聞こえた。

ゴゴ・・・ガゴゴゴ・・何かが流れる様な音。

それ以外の周囲の音は聞こえない。

それは死ぬ音の様であった。



──死ぬ。

そう思うと、身体も動かなくなって気を失った。



どのくらい気絶していたのか分からないが、数分間だと思う。

気が付くと、まともに息が吸えない状況で全身が痙攣し、

髪の毛がびちょびちょになる程の汗をかいていた。

あまりの苦しさに死んだと思った。


これは立眩みや貧血等ではない。

そう言うのはただふらっと気が遠くなり、一瞬意識が飛んで倒れると言うもの。

ここまでの苦しさはない。



それでも誰も助けてはくれなかった。

机の上で倒れたせいか、誰も気に留めない。

そう言う会社だ。


「ははは、大丈夫か?」

何度も倒れて、声を掛けられたのは一度だけであった。


他の人もあまりの忙しさと過労の所為か、吐いたりしていた。

しかし誰も助けない。

そう言う会社だ。




学校で虐められても社会に出れば通用する。

そう思っている人もいるだろう。

でもそうはいかない人間の方が多いかもしれない。


「駄目な奴は何をやっても駄目」こんな言葉が昔からある。


仕事が出来たとして、"駄目扱いされる奴"は何をやっても"駄目扱い"されるんだ。

実際に仕事でミスをしなくても、周りから認められなければ駄目なんだ。

自分がいくら仕事をこなしても、手柄は経営者達のものなんだ。

給料も増えるばかりか減る一方なので、仕事をする意味がまるで無かった。





ブラック企業なんてどこもこんなものだ。

そして、それについて不満を言っても経営者側はこう言うだろう。


「会社舐めんな。仕事と言うのは甘くない」


どの口がほざくのか。

ブラック企業と言う名の違法経営会社が何を偉そうに言うのか。

賃金を払わないだけでなく、虐めやハラスメントと言う虐待も犯罪と変わらない。

暴力を振るう会社だってある。

そしてこう言う奴等は大概、社員に酷い働き方をさせる癖に、

経営が傾こうが自分達は遊んで暮らしている事が多い。



こう言うブラック企業と言うものは、自分の言う事だけを素直に聞き、

都合良く仕事をこなし、安い給料で働く奴隷が欲しいだけだ。

そして、そこで働く、所謂"社畜"と呼ばれる哀れな奴隷も無害ではない。

お互いがお互いの首を絞め合う存在と言う場合もある。





奴隷が奴隷を監視し、休めば暴言を浴びせる虐めもある。

休むと虐められて怖いから休めなくするのだ。


「あいつはこんな時に休んで!!」

「あいつこの前休んで遊んでたぞ!!」


自分達だけこんな苦しい思いさせて休みやがってと言いたいのだろう。

こう言う輩は学生にも多い。

「あいつずる休みだ」と休む事自体を悪いと決め付けるやつだ。

そう言う輩がいる限り、社畜は自分で自分の首を絞める事になる。



そして奴等は酷い事を言った自分達を正当化するためにこう言うのだ。


「甘えんな!! 自分や仕事に責任を持て!!」

「こんな時に休みやがって周りの事も考えられないのか!! 仕事舐めんな!!」


こいつらはクズ奴隷だ。

特に"甘え"と言う言葉を好んで使って人を罵倒するのが好きな連中ほどやばい。

弱って休む人間をフォローすると言う気持ちすらないのだ。

経営者が奴隷を作り、奴隷が奴隷を監視して休めなくする。

良くあるブラック企業だ。

言葉で表すと非常に薄汚い関係にしか見えないのがモノ悲しい





ブラック企業と言う異常者の集まりに、そこに人を大事にすると言う概念はない。

ただ使い捨てにするだけのコマだ。

使い捨てなので消耗品だ。

駄目になったら次のやつが来る。

それも使い潰して駄目にする。

それの繰り返しがブラック企業と言うものだ。


文句を言うのは甘え。

そんな甘えたやつはいらない。

奴等から言わせれば美しい努力や責任と会社への忠誠心なのだ。

そこには成長と言う言葉もない。


「あいつはうちの会社を辞めて次に行っても大丈夫だな〜」

と言う精神は一切なく、

「あいつ辞めやがって! ! あんな奴どこ行っても役に立たないクズだ!!」

と言う思考なのだ。



辞めた人間を悪く言うのもブラック企業ならではだ。

一生その檻に閉じ込めておきたいのだ。

訓練された奴隷は、奴隷を辞めるやつを許せないのだ。

自分と同じ苦しみを味わう仲間がいなくなるのが嫌なのだ。


「こんな苦しい状況から逃げやがって何てズルいやつ!!」


と言うのが本音だろう。

何と悲しい存在だろうか。




クズ経営者の所為で人を人と思わなくなるクズ奴隷がいつの間にか誕生している。

それがブラック企業と言う悲しい人間達の集まりなのだ。

上から下に悪いものだけが引き継がれる負の連鎖だ。


この不幸で悲しい流れを断ち切るには元を絶たなければいけないんだ。

しかし、トップを消しても次の人間が上に立っても同じ事をするかも知れない。

それを止めるには同じ思考の流れる輩を全員排除し、

クリーンにしないと同じ事の繰り返しなのだ。



しかし、それはそんな事は簡単ではない。

革命家でもない限り無理だ。

一族経営の会社なら尚更難しいであろう。


だから、逃げるしかないのが現状だ。

叩かれて虐げられても逃げるしかない。



──逃げるが勝ち。



しかし、それは勝ったとは言えない。

辞めた人間がいる分、残された人間の苦しみが増える。

新しく来た人間も苦しむ。

だから簡単には辞めれない。

負の連鎖は断ち切れないのか。



もう疲れた。

仕事も疲れた。

人間関係も疲れた。

もう後先の事を考えるのも疲れた。


──だから、もう死のう。

それが答えだった。



こうやって駄目な人間扱いされた奴隷は消えていく。

我慢して我慢して病気や障害を持つまで我慢し、消えていく人もいる。



でも、もう我慢しなくていいんだ。

もう休んでいいんだ。

ゆっくり休んでいいよ。

おやすみなさい。



大好きなものを思い浮かべよう。

楽しかった思い出に浸ろう。

楽しい楽しい夢の中へ。



楽しかった思い出は何?

学生時代良かった事は?

子供の頃好きだったものは?

好きな家族や友達は?

おいしいものは何が好き?




昔は良い事あったな。

小さい頃はあんなおもちゃで遊んだな。

あの頃は友達もいて良く遊んだな。

おじいちゃんおばあちゃんもいたな。

かわいいペットもいたな。

昔の良い思い出ばかり考える。



逆にこれから何か良い事あるかも。

将来は何したい?

成功してお金持ちになったら?

好きな事なんでもしたい?

どこかに旅行に行こうか?

仲の良い人ができてパーティーでも開けるかな?

それとも一人で豪遊しようか?




楽しい事を考えながらおやすみなさい。

ゆっくりおやすみなさい。

好きなだけおやすみなさい。

ずっとずっとおやすみなさい。

もう目が覚めなくてもいい。

目が覚めたら良い日であったらいい。


今はとにかくおやすみなさい。







──目が覚めるといつもの朝だった。

だけどそれまでと違いやる気になった。

今日も一日頑張ろう!!

死んでもいい、とにかく頑張ろう。

行ってきまーす!!



もくもくと働いた。

とにかく一生懸命働いた。

やれば出来るがさらに出来るんだ!

会社で周り奴に何か言われたが無視して働いた。

これからは一生懸命頑張ろう!!



そして仕事も終えて帰宅した。

ご飯も美味しくいっぱい食べた。

お風呂にもゆっくり入った。

さあ、今日も一日おしまいだ。

もう寝よう。


今日も一日お疲れ様!

おやすみなさい!!



ベッドに入ると持ってたナイフを深々と首に突き刺した。

これで本当におやすみなさい。



大好きだったおじいちゃんおばあちゃん、

昔飼ってたかわいいペット達、

子供の頃に良く遊んだ友達や大切だったおもちゃが目に浮かぶ。


なんて楽しい思い出なんだ!

自分の人生は楽しかったんだ!!

もう苦しむ必要なんてないんだ!!!



楽しい思いをしたまま永遠におやすみなさい。



休みましょう。

ゆっくり休んでいいよ。

おらもやすむ。

みんなやすもう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ものすごく今の世の中を忠実に書いているような、僕の今を物語ってるようないい意味で苦しく悲しい気持ちになりましたがどこか救われるような事もありました
[良い点] 主人公の、頭に選択肢がまるでない、たた耐えるしかない、自身が背負い込むしかない、というのがひしひしと伝わってきて重かったです。 [気になる点] 書き方あってか、詩のカテゴリーなのかなと錯覚…
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