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Prologue
どのくらい眠っていたのかは覚えていない。
ぐったりと重たい瞼を持ち上げると、最初に視界に飛び込んできたのは煙草のヤニで黄ばんだ薄汚い天井だった。
少しだけ開いたカーテンの隙間からは直線状の光が部屋に差し込んでいて、もう既に日が高いことがわかった。
今まで寝ていたはずなのに、随分疲れている気がする。
締め付けられるような頭痛に耐えながら、女は気怠い身体をベッドから起こした。
すると自分が何も着ていないことに気づいて、ベッドの縁に腰かけたまま床に落ちているシャツに手を伸ばす。
摘み上げたそれは裏表が反転していて、昨晩どれだけ雑に脱ぎ捨てたのかと自分で呆れそうになった。
部屋のローテーブルには煙草の吸殻が山のように積まれた灰皿と、それを文鎮代わりにした一枚の書き置き、そして二枚の紙幣があった。
女はそれを見てふんと鼻を鳴らすと、裏返ったシャツを手に立ち上がる。
ふと足元を見ると、服は着ていないのに何故か靴下だけは履いていた。
少しばかり胸やけがするような不快感を覚えた女は靴下を脱いで部屋の隅に放り投げ、シャワールームへと足を運んだ。