転勤の地
ある晴れた昼下がり
レンガの敷き詰められた美しい街並みの中、無表情な通行人が忙しなく行き交う
誰も顔を合わせる事はなく、声をかける事もない
ただ、コツコツと靴音だけが辺りの建物の壁に反射して響いていた
この街を行く人々の瞳には光がない
生きながらにして死んでいる
形容しようものならばそれが一番しっくりくるだろう
しかし陽が落ち辺りが暗くなれば、たちまち人々の瞳には光が宿る
そんな異質なサイクルの街に、1人の男が現れた
彼はとある魔術師で、転勤先であるこの街の下見に来たのだ
男は街の入り口で立ち尽くし、その異質な光景を眺めていた
そもそもおかしいと感じていた
上司から急に転勤を言い渡されるのはいつもの事だったのだが、今回はいつもと違い こう念を押された
「この石を肌身離さず持っておけ」
上司から渡されたその親指ほどの石は、薄っすらと緑色に光を常に放っており、強力な魔力を感じた
「これは何なんです?」
そう質問してみるも、
「お守りのようなものだ。だが詳しくは儂からは何とも言えん。現地の者にでも聞いてみてくれ」
そう言って深くは語らずやり過ごされてしまい、男は疑念を抱いた
なぜ自分だったのだろうか?
いつものように愛する家族を連れて来ても大丈夫なのだろうか?
男は気づいていた
その石を受け取った瞬間に己の周囲に結界が張られていたことに
一抹の不安を抱えながらも、男は街へ一歩を踏み出した