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そろそろと跡を着いていく私に気が付いたように振り返る。千明さんは未だにぐったりと愛子さんの首に手を回し、引き擦られるようにして運ばれている。
……この際、項に腕を回される位だから運んでも問題は無いはずだ。大丈夫、青ざめて気を失ってはいるが、死体になった訳じゃない。
そう思ってそっと千明さんの腕を自らの肩に乗せようとした時だった。
「俺がやる」
私も愛子さんも驚いて振り返った。声の主はある意味以外な人物だった。
首に巻き付きだらんと垂れ下がる右腕が、愛子さんが力を抜いた瞬間に滑り落ちかけた。私は慌てて腕を掴み、倒れるのを阻止する。柔らかい暖かさが手を伝って気持ち悪いが、それを気にしていたら尚面倒な事になるので我慢する。
なんとか二人係りで体制を立て直すと、愛子さんが面白そうに言った。
「おっ、委員長。格好良いー!! こりゃ、ほむちも惚れちゃうね!!」
「からかうな。別に……偶々見かけただけで……」
「理由はなんであれ、助けてくれるのは有り難いよー」
朝霧凛空。我らの学級委員長であり、『二年C組の鬼』と呼ばれたら彼の事である。基本的に甘さは皆無で自他共に厳しい。そして何故だか真反対の性格の千明さんとは仲が良い(と私は勝手に思っている)。
彼は相変わらず不機嫌かつ無愛想な表情で千明さんを見ると、私達の間を抜けて千明さんの前に回り込んだ。それから彼女の額を指の関節で軽く叩くと、意識の確認に移る。
千明さんは朦朧としながら目を開き始める。どうやら完全に気を失った訳ではないようだ。
朝霧はとても『鬼』とは思えない口調で『俺が分かるか? 今から運んでやるから首に手を回せ』と言った。
その言葉を認識した彼女は少しだけ頷くと、背負う体制を保った朝霧の首に手を回して体を預けた。
「悪いが微笑か不知火。出席に遅れたら手短に先生に伝えておいてくれ」
「あいさっさー!!」
「うん」
愛子さんはまるで英雄を送り届ける村人のように手を振る。それは二人が教室を出て、姿が見えなくなるまで続けられた。
二人の気配が消えたところで愛子さんは此方に振り返る。顔に苗字の如く『微笑み』が張り付いている。
「二人はね、幼なじみなんですよー!!」
「へー……」
初耳だ。なる程……道理であのお堅い委員長、朝霧凛空に日々めげずに接している訳だ。昔から親しいのであれば、あれぐらいは日常茶飯事で、慣れているのだろう。
私が一人顎に手を当てて思案していると、愛子さんはきゃっきゃとまくし立てる。
「これは恋に発展するかなー!! したら良いなぁ……。あのお堅い委員長様がデレる姿なんか想像出来ないけど、貴重過ぎて拝んでみたい!!」
「愛子さんは特に恋愛方面の対して情報通だよね」
平坦な口調で言うと、キラキラとした双眸を此方に向けてきた。とても嬉しそうだ。
「だって楽しいじゃないですか!!」
愛子さんはこのように恋バナ大好きな女子高生である。




