1 帰宅
氷室と別れた後、ふらふらとした足取りで自宅に到着した。俗に言うマンション。
鍵を引っ張り出し、差し込む。かちゃりと外れる音がして中に入る。
誰も居ない室内。ダイニングテーブルと椅子、それから本棚、テレビ、あるのは其れぐらいだった。
父と母は行方不明に成ってからどれぐらい経つだろう?
母方の方の叔母からは心配され、引き取られる事になっていたのだが、私がそれを断った。せめてもの計らいで生活費を出してくれている。……それすらも事務所から出される給料で十分なのだが……。
寂しい。なんて思わなかったし、思えなかった。ただ、ただ果てのない倦怠感だけが私を包んでいる。
何分程、突っ立っていただろう。不意にインターホンが部屋に鳴り響く。……帰って……来たのかな……。
そう思って足早に玄関に近付く、覗き穴から見れば見慣れた彼の姿。
「今晩は、紅葉ちゃん」
「うん」
壁に凭れるようにして塊を見る。彼は無表情にも私を見つめ返していた。
あぁどうして、こんなにも疲弊しているのだろうか?
死体を狩った後は何時も以上の倦怠感、並びに体力の消耗が激しい。心も体も死体に吸い尽くされたかのように。
不意に塊の冷たい指先が私の頬に触れる。体温さえ感じさせない手は私の体温を奪いゆく。奪って、奪って、奪って、頬が冷たくなった。
これは“私の体温”であって、“塊の体温”ではない。私は“人から熱を奪っていない”。
僅かな不快感を宥める為に私は何度もこう言い聞かせる。大分言わなくても済むようになったが、其れでもぶり返しは起こるものだ。
塊は笑顔を見せた。
「その前にただいまだね」
「うん」
「紅葉ちゃん」
「何?」
「後悔は……してない。この状態だからこそ出来る事もあるしね。それに見守ってあげなきゃ駄目でしょ?」
私が目を見開くと何時もの、人を喰った表情を見せた。読めない、読ませない、の二拍子揃ったあの笑顔を。
ねぇ、貴方は私が何をしたのか知っているの? 自分のエゴの為に貴方を巻き込んで、最悪な状態にしているのに、如何してそんな風に笑えるの?
嗚呼そうか……。私が何もかも奪ったから、こんなにも空っぽな笑みなんだ……。