3
「紅葉、氷室、お疲れ様。もう抜けても構わないよ。塊は……もう少し残って」
「えー」
駄々っ子のように不満を垂れ、思いっきりソファに凭れ掛かる。私は素知らぬ振りをして塊の視線を回避する。
「それでは失礼します」
二人揃って一例し、事務所を後にする。塊に対して憐みも無ければ同情もしない。唯一つ、妙に引っかかる。
階段を下りるときに氷室が首を傾げ、何やら疑問の表情。彼女も何かを感じ取ったらしい。
「どうしたの?」
白い建物が並ぶ住宅街に女子高生が二人。傍から見れば塾帰りだと思われるだろう。実際、見回りの警察官ともすれ違ったが何も言われなかった。
「いえ、塊さんの『嫌な予感』というのが気になりまして……。塊さんの感はよく当たりますから……」
確かに、彼奴の感は“何故か”、“妙に”当たる。
今頃長々とした尋問を受けているであろう塊を思い浮かべ、思わず私も首を傾げる。
……塊って反省したことはあるのだろうか? いや、無いな。
“塊で無ければ所長の尋問は心が折れるだろう”と思い、吹き出しそうになる。
……吹き出さないけど。
漆黒の闇が包み込む中、赤レンガの舗装された道を歩く。深夜にも関わらず沢山の車が横切っていた。
「では、私はこれで」
氷室がぺこりと頭を下げ、白い歩道橋を上がって行く。暗闇で表情が良く見えない中、私は黙って彼女を見上げ、鞄を肩に掛けた。
「気を付けて」
「はい」