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「随分と空気が重くなってしまったね。話したかった事は以上だよ」
あっさりと締め括りやがった。
所長の話しが終わった後、それぞれが作業を再開する。
閏日さんは私に治療薬を“巻き付け”傷を回復させる。そして包帯を巻いてくれた。明日にはひび割れた腕も、足も治っている事だろう。
氷室は冥鬼の鎖が緩んでいない事を確認するとロッカーの中に仕舞う。
束の間の休息。しかしこれをあっさりと打ち壊すのが私だったりする。
「所長、今日塊が狩りをサボっていました」
右手を上げ、出来るだけ棒読みで語る。一瞬塊の不貞しい眼が此方を見つめたが、無かった事にする。どうせ何時もの真似事に変わりは無いのだから。
「ほう……。それはどういった要件で?」
「『忘れ物した』とか言って、私と氷室に狩りを丸投げしました」
一度上がりかけた所長の周りの温度が、もう一度下がってゆく。物腰は何処までも穏やかなのだが近付けば氷漬けにさせられる恐怖がある。
この人の前世は雪の物の怪なり、怪異であろう。
「しょ、所長さん。でも制圧はしました……」
何処までも優しい氷室が塊を庇う。肩が微かに震えている所を見ると、かなり怖がっているようだ。私からしてみると、小さな兎かチンチラがびくびくしながらユキヒョウに立ち向かっていく様である。
しかし所長は氷室の解答には耳を貸さず、あくまで塊だけに冷ややかな視線を送る。
「塊」
名前を呼ばれてもさして恐れる様子は見せず、笑顔を向ける。とても睨まれているとは思えない、春の微笑であった。そして呑気な声で返事する。
「はぁい?」
「お前、基本的には素手での接近戦だろう? 確かにお前専用の狩り道具もあるが、今回は必要無かったんじゃないか?」
溜め息を一つ残し、前髪をかき揚げる。優秀な問題児を説教する先生になっていた。
確かに塊は素手で戦闘に当たることが非常に多い。元々人並み外れた怪力の持ち主なので、道具に頼ることなく殺り合える。
思い出したくない塊との共闘を思い出し、吐き気が込み上げてきた。
全く至極厄介な相手である。
「今回は嫌な予感がしたもので……ね」
「何も無かったけど」
私は込み上げる吐き気を押し留めながら、さも平然と抗議した。実際苦戦こそしたものの、対して変わらない仕事であった。
所長はもう一度深い溜め息をつき、私と氷室を交互に見る。