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「随分と派手にやったね……。氷室ちゃん、変わるよ」
「有り難う御座います。では……」
氷室に向かって回していた腕を塊に向かって伸ばす。塊はその腕を自分の肩に回し、氷室に向かってウインクした。『大丈夫だ』と言う意味だろう。
対する氷室は何かを決心したように口を開く。
「あの……紅葉先輩、塊さん。何時も有り難う御座います。私の棺は対戦等にはなかなか向かないもので……本当にすみません」
右にかかる前髪が一礼すると垂れ下がる。余りに深々と下げるものだから、背負っていたケースが地面にゴツリと当たる。
「あわわ……っ」
「……」
……良い子なのだけどなぁ……。自分に自信がなくて、加害妄想なところがあるから。
そんな氷室が、戦闘時にあそこまで冷静でいられるのは、やはり生き抜くためだろう。緊迫した状況ほど人を変えるものはそうそうない。後はトラウマぐらいのものだ。
「ケースさん、冥鬼さん、ごめんなさい……」
氷室は地に向かってぶつけられた部分を白い手でそっと払う。
冥鬼と言うのは氷室が使っている黒塗りの棺の事だ。ちなみに固有名詞ではなく普通名詞である。つまり氷室はほぼ『ケースさん、棺さん、ごめんなさい……』と言っている事になる……。物に“さん”付けせんでも……。
「気にしなくていい。私をより怠惰にさせているのはこの馬鹿だから」
「ちょっとー、紅葉ちゃん!! 馬鹿は言い過ぎ。折角氷室ちゃんが感謝してくれてるのにー」
塊が耳元で騒いで五月蠅い。もう少しそのテンションを下げてはくれないだろうか。