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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第一体 怠惰少女 
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2

「ふふふ、本当に欲しくなるよ“カラクレナイ”」

 あぁ、此奴でもこんな風に笑えるんだなぁ……。何時も“人の血肉をしゃぶり尽くす”みたいな笑顔で笑う為、こんな風に無邪気に笑われると物凄く戸惑ってしまう。

 そんな戸惑った感情なんかにはまるで興味が無いようで、開いた手に自身も同じものを絡ませる。冷たい波が体内へと侵入し、冷やしてゆく。

「休んで行くか、唐紅? 今の汝はとても──疲弊しているように感じる」 

 疲弊していると言うか、悪夢にうなされる事がただひたすらに多いだけである。しかし疲れていないと言えば嘘になる。偶には何も考えず、手足を伸ばしても罰は当たらないだろう。

 私は体制を整え、足を組み始めた硝吸鎌に同意を示す。

「じゃ、お言葉に甘えて」

 向かいの深紅色のソファに向かおうとすると、服の裾を掴まれる感触がした。誰とは振り返らなくても分かる為、真っ正面を向いたまま会話する。

「休ませてくれるのではないの? 随分と意地悪だね」

「あぁ、言ったよ。其処に嘘も偽りもない」

 それでも離してくれないという事は遠回しに、それもかなり面倒臭い方法で、隣にいて欲しいという意思表示であろうか? 

 性格は極めて猫に似ているが、こういった所は妙に人間らしい。それも小学生以下の子供だ。側にいて欲しいのならば、口でそう言えばいいのに。

 振り返ると硝吸鎌の長髪を黙って撫でてやった。変な感じ。

「唐紅、さっきから随分と失礼な事を考えているようだが?  例えば──私が猫に似ているだの、小学生以下の子供だの」

 目を合わせる。切れ長な目が私を捉えていた。笑っていない。

 ……ポーカーフェイスは何処の誰かさんのお陰で非常に得意なのだが、何故か何時も何処の誰かさんによって見破られる。なかなかに不愉快だ。

「考えちゃいないよ。そんな事」

 溜め息をつくと硝吸鎌の隣に腰を下ろす。これで文句は無いだろう。彼は満足したのかソファの肘掛けに文字通り肘を掛けながら、私の長髪を弄り始めた。時折リボンを引っ張り、解こうと悪戯をしてくるためその都度腕を叩く。

 ただ外されるだけなら構わない。しかしそれを何処かに隠されたり、八つ裂きに裂かれるのは止めて欲しい。実際にやりかねないからこその先手である。

「眠っても構わない?」

「好きなだけ。膝枕してあげよう」

「そりゃどうも」

 しかしこのままでは仰向けに寝にくい。私は硝吸鎌がさっきまで弄っていたリボンの端を引っ張り、リボンを外す。形を整えるために使用していたゴムも外す。ゴムは手首にかけておこう。リボンは……どうしよう……。ポケットにでもしまっておこう。

「…………」

 リボンをポケットに仕舞おうとしたとき、不意に硝吸鎌の指が私の手首へと伸びた。そのままリボンを私の手から取ると、

持っていた手首に蝶結びを施す。

 黙って仰向けになりながら、硝吸鎌の膝の上に頭部を乗せる。それから蝶結びの礼を言うことにした。

「有り難う」

「礼なら……」

 硝吸鎌の唇が私のものと当たる。一時の冷たい感触。接吻など所詮こんなものだ。空気よりも軽く、無料より安い。

「安いよね。私のキスは」

「そんな事はない。どんな大金を払っても、汝の唇に叶うものはそう無い」

 この口説き文句とも取れなくもない言葉を耳を竹輪にして聞き流し、私は瞼を閉ざした。

 硝吸鎌が髪を撫でてくれている。それも赤子をあやすように優しく。そして微かに聞こえて来るのは……鼻歌……? 綺麗で、悲しくて、心が締め付けられるような……。

 そんな事を考えているうちに私は微睡みの中へと落ちていった。


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