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「制圧……完了です……」
氷室の肩が小刻みに震えている。側にある棺を抱き締めながらその場に崩れ落ち、跪く。
氷室は戦闘時こそ平静を保っているが、大の死体嫌いである。狩りが終わればこうやって震え出すのだ。
そんな状態にも関わらず、辺りに散乱した鎖をまたきつく棺に巻き付けてゆく。何かを封印するように固く、頑丈に。
その間に私は血を拭っておく。かぴっかぴに乾燥してしまった為、買ってあったミネラルウォーターでハンケチを濡らし、優しく拭き取る。正直今は出血の事よりも、歩いて帰れるかどうかが心配だ。
氷室の方は最後に逆刺を鎖に引っ掛け、先程まで入っていたケース内に入れる。流石に棺や十字架を生身で持っていると目立つのだ。
「帰ろう。氷室……」
「はい……」
私達の闇仕事、それは死体という化け物を聖遺物と呼ばれる道具を用いて、狩ることだった。
通常、人が死ねば埋葬され、土に還る。しかし強い未練を残した人の死体は成仏出来ずにゾンビ化してしまうのだ。ゾンビ化した者達は感覚も、感情もなく人を喰らい尽くす世の中。其処で私達がそんなゾンビ達──通称“死体”を狩るために日夜派遣されている。
死体を見ることが出来るのは“見えざる目”を持つ死体狩りのみ。一般人には全く見えない為、襲われた際は訳も分から無い激痛にみまわれ亡くなるそうな。
街行く人々が私達を振り返るような事はしない。返り血も、負わされた傷跡も、常人にはまるで見えやしないのだから。これは訳も分からない激痛に見まわれて亡くなってしまう事から分かるだろう。襲われた方は自身の身に何が起こっているか全く分からないのだ。死体自体が見えないため、彼等の中に流れる生き血が見えなくても、なんらおかしい事はない。
腕に、脚に怪我を負い、歩く度に痛む。結局氷室の肩を借り、引き摺るようにして歩く。血は止まっているし、気にばかりして彼女に負担をかけたく無かったので、痛み諸共無かった事にする。
急に氷室が足を止め、ぽかんと口を開いて前を指差す。
「……あの、先輩……。あれって……」
遠くの方から黒スーツの男性が走って来る。私と同じ、やたら大きなケースを背負っているのを見ると、奴である事は間違いないだろう。
私の脚が負傷し、女二人に仕事を丸投げしたというのに、なかなか呑気なものである。
「ごめーん。遅れた。で、死体は?」
私は自分と氷室の苦労を込め、沼地よりも更に深い溜息を付いた。
対する氷室はそんな奴に嫌な顔一つする事なく軽い会釈をした。深々と頭を下げなかったのは、お荷物である私を気遣っての事だろう。
「見りゃ分かるでしょ……。死体は私と氷室が始末した……」
「本当? 有り難う。後、所長と秘書さんが待っているよ。それっと――」
歯を食い縛るようにして痛みに耐えていると、塊が手を伸ばして来た。目線が負傷したばかりの脚に注がれている。如何やら今まで歩行を手伝ってくれた氷室に変わり、今度は自分が肩を持つというのだろう。