1 気まずさ
「あっ、紅葉お帰りー」
私が教室の扉を開くと、クラスメートからは一歩引くような視線を投げかけられた。そんな中、雫がパタパタと駆け寄って来る。さながら子犬のようだ。取り敢えずクラスの反応は無視し、雫と共に自分の席に着くことにしよう。
そう思って嬉しそうな雫の後を追うように歩き出そうとした時だった。一人の男子生徒が話し掛けて来た。金雀児君だ。
「朝は……ごめんね……」
「別に。金雀児君は悪いことはしていないと思う」
寧ろ素っ気ない返事を返した私に非があるというもの。しかし彼は恐縮してしまい、体を縮ませる。そんな時、後ろの異変に気付いた雫が振り返る。
彼女は頭上に疑問符を浮かべ、怪訝な顔をした。
「何事?」
「挨拶した後さっさと逃げちゃったから」
雫はふんふんと頷き私を見た。私は一度瞬きをすると特に表情は表に出さず、雫を凝視した。特に怒りの感情を読み取らなかったであろう彼女は、金雀児君の方へ向くと、指先を揃えて左右に振った。
どうやら私の気持ちはきちんと伝わっていたらしい。
「紅葉、怒ってないみたいだけど」
「え、そうなの?」
私は黙って頷く。何時も無表情であるため、どうやら人には“怒っている”と思われがちであるらしい。気を付けなければと思う反面、直す事は不可能に近いのかもしれない。彼奴が無表情であり続ける限り、私は過度なリアクションは控えるようにしている。
金雀児君少し困ったように私と雫を一瞥した後、『なら良いんだけど……』と言い、また慌てて去ってしまった。
「有り難う、雫。代弁者になってくれて」
「んー大丈夫だよ。でも紅葉、綺麗な顔しているんだからもっと笑顔になりなよー」
「……そう……だね……」
少しだけ頬を膨らませ、背を屈める。可愛い怒り方だな……。と内心くすくすと笑う。
常人なら今の感情を表に出し、彼女の髪に触れるだろう。だが私にそんな事は出来ないので、噛み切れないステーキ肉のように歯切れ悪く返答した。
それでもその返事に満足した雫は満面の笑みを浮かべ、うんうんと頷いた。




