1 登校
──ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ──
「んっ……」
布団から腕を這い出す。腹這いになった状態であり、顔をマットレスに押し付けているため、手探りで目覚ましを探す。不意にプラスチックの固い感触が手にぶつかった為、急いでボタンを押す。
学校のある朝は……怠い。何時も怠いけれど目覚ましによる機械音に起こされるのが何とも憂鬱である。何故か……何時もより体が重いため、猫が伸びをするように体を引き伸ばしてから、のっそりと体を起こす。
欠伸をしながらリビングへ行くと、塊が何時ものように朝食を作ってくれていた。
「おはよ、紅葉ちゃん。昨日具合悪くて倒れちゃってたから、今からお風呂入っておいで」
「でも……今日……学校…………」
「わざと目覚まし早めにセットしたから大丈夫!!」
「お前か……!!」
道理で体が何時もにも増して怠い訳だ。この世の中、睡眠時間を削り取ってまで風呂に入らねばならないのか……。怠い……。面倒臭い……。
しかし二度寝をすると、また起きる時に殊更怠くなるので、渋々脱衣場へと向かう。……その前に制服の用意をせねば。私は取りあえず自分の部屋に戻ると、ワイシャツやらブレザーやらリボンやらを適当にひっつかみ、引きずるようにして元の場所に戻って来た。
欠伸をしながら毟り取るようにして衣服を脱ぎ捨て、洗濯機に放り込む。シャワーのコルクを捻り、頭から水を被って汗や汚れを水圧で削ぎ落とす。後は適当に髪、体を洗えばそれで済んだ。バスタオルで乱暴に髪を拭き、体の水気を取った所でさっさと制服に。
リビングへ向かうと塊が朝食の準備を済ませていた。椅子を引いて座るように指示してくれる。
「どう?」
「大丈夫、ちゃんと美味しい」
今日の朝はご飯に味噌汁、焼き鮭と出汁巻き卵。箸で鮭の赤身をほじくり返しながら口へと運ぶ。黙って咀嚼していると、なにかごわごわした物が頭に被さってきた。横目で見るとバスタオルだと直ぐ分かる。
「こら、ちゃんと拭かなきゃ駄目」
「……面倒」
塊が私の髪をバスタオルで包み、手のひらで叩く。偶にブラシを入れ、水分が浮き彫りになった所でもう一度叩く。その間にも箸の動きは止むことがなく、テーブルの上のおかずや白米に伸びていく。食事の邪魔になるため、髪を拭くのを止めて欲しいのだが、一向に塊の腕が止まる気配は無い。
結局、食事が終わった後も髪を拭き取る作業は続けられた。
「よし、こんなもんかな? 今日は俺が結うよ」
そう言うと黒いゴムと真っ赤なリボンを持ってきて、後ろ髪を手早く整え始めた。高い位置に固定してポニーテールの状態にしてから括る。後は飾り、と言うか私のアイデンティティである赤いリボンを巻いてくれる。
鏡を差し出してはくれなかったけれど、手筈を整え終わったのか肩の上に手を置いた。
「はい、もー大丈夫」
「有り難う。行ってきます」
椅子の足元にあった学生鞄を肩に担ぐと玄関へと向かう。振り返ると塊がいて、にこやかに手を振ってくれる。……こいつ、ある意味良妻になるんじゃないか……?
ローファーを履いて玄関の扉を閉ざした事を確認し、階段へと向かう。軽い足取りで一階まで辿り着いて一人登校。
何時もと少し違ったが、概ねこれが平日の朝の日常だ。




