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むすっと所長を睨んでいると、声を上げてケタケタと笑われる。御丁寧に涙まで浮かべてやがる。
「未遂にさせてる紅葉が凄い」
「……意味が分かりません」
共に階段を上りながら話を聞く事にした。
「だって普通、顎固定されて見つめ合ったら赤面とかするよ? ラブストーリーなら観客が内心ギャーギャー騒いで、『キスシーンは!!』とか考えるとこだよ? でもその指を引き剥がすところが……」
「……」
……何故知っているのだろう? バラすのは……硝吸鎌……しかいない……はず……。
後ろから所長が肩をふるふると震わせ、笑いを噛み殺す。古びた扉を開いて共に中に入った。
何時も通り古臭い内部はさほど変化を見せない。定位置のパイプ椅子に腰掛けて、所長に向き直る。
「今頃人狼は頭部を百発殴られているのか……。吸血鬼達は骨を折られてるところか……。あぁ、可哀想に……。可哀想に……」
「……………………」
私は鷹揚な手つきで硝吸鎌と連携をとる。わざとらし過ぎる演技だが、まぁ念には念を入れる。
頬を押し付け、相棒の事だけ考えて、彼を引きずり出す。
「何用だ?」
「あんたがシスターの使い魔虐めてるって聞いたから来ただけ」
なんだか硝吸鎌の機嫌が悪い……。この空間に冷気が充満している気がする。
私より幾分背が高いため見上げる形になるが今はそんな事に構っている所ではない。
「そんな事はしていない。ただ」
「ただ?」
「確認したい」
「はっ?」
硝吸鎌は私の既に完治されているが、噛まれたであろう腕をまじまじと見つめる。それから私の両手をじっ……と観察してくる。
何故か最後に私の項をペタペタと触った。
あれ……どんどんご機嫌が悪くなってるような……。というか硝級鎌が見たり、触れたりしてくるところは、さっき人外に触れられた箇所である……。何故……?
「気に入らない……。下等な彼奴等が汝に触れるのが……憎らしい……」
「ちょっ……」
掌に犬歯をつきたて、穿つ。案の定血が染み出て来て、指を滑っていく。ふと、何かぬるりとした感触が皮膚を抉って、擦り付けられた。
「甘い」
恍惚とした表情で舌を使い、ポタポタと垂れる鮮血を撫でてゆく。血と同じ色をした硝吸鎌の舌に悪寒がする。
「“甘い”じゃない。最近のあんたの趣味最悪」




